61 アビーのお迎え
目覚めると、朝になっていた。
とうさまの胸に顔を埋めて寝ていたらしい。厚い胸板から、とうさまの男らしい匂いがする。背中にも温もりを感じる。とうさまとレイヴに挟まれて、身動きできない。
「ちょっと、2人とも離れて。これじゃ起きられないよ」
どうして2人とも、わたしが起きるまでくっついてるのかな。先に目覚めたら、起きたらいいのに。
子供達はわたしより先に起きていて、とうさまとレイヴがわたしにぴったりくっついているのをおかしく思っていたらしい。笑われてしまった。
「セシルお姉ちゃんは、甘えん坊なんだね」
「違うよアビー。レイヴお兄ちゃんが甘えん坊なんだよ」
「えー、そうかな。ニキおじさんとレイヴお兄さんが、セシルお姉ちゃんを甘やかしてるんじゃない?」
おおうっ。なんだか、言葉遊びみたいになってきた。
「とにかく、全員起きたんだから朝食を食べに行こうよ」
ハンターギルドの1階には、飲食コーナーがある。お腹を空かせたハンターのため、朝から夜まで営業している。
レ・スタット国の王都を出てから簡単な食事しかしてこなかったから、お腹が空いている。いまなら、いくらでも食べられる気がする。
1階に行くと、誰かが駆けこんできたところだった。
だだだだだっ
「「アビー!」」
1組みの男女が、アビーに抱きついた。大泣きしているせいで、顔がぐちゃぐちゃだ。
「パパ!ママ!」
アビーも男女を抱き締め返し、大泣きを始めた。
それを見たケビンとエイダが羨ましそうにしている。
アビーの父親は怪我をしているらしく、包帯を巻いた腕が痛々しい。回復魔法をかけてもらわなかったのかな。母親のほうも、足に怪我をしているように見える。
「パパもママも、怪我をしてるの?どうして治してもらわないの?」
「おまえを守れなかったからだよ。情けなくてね。この痛みと向き合うことで、おまえを守れなかった不甲斐ない自分を懲らしめていたんだよ」
「そんなことやめて!わたしは無事に帰って来たんだよ。怪我を治してもらって」
「そうね。この怪我を見たら、アビーがつらい思いをするかもしれないものね。わかったわ」
たぶん、2人の怪我は、アビーが攫われるときに負った怪我だろう。だから、アビーを守れなかった自分達を許せなくて、怪我をそのままにしていたに違いない。
「あなたが、アビーを助けてくれた方ですか?このご恩は一生忘れません。ありがとうございます」
感激した様子で、アビーの父親がとうさまに話しかけて来た。
「アビーには、もう少し協力してもらいたい。捕まっていた間の話をしてもらいたいんだ」
「「え?」」
「うん。いいよ」
アビーを心配してか、動揺した両親とはべつに、アビーは明るく答えた。この数日で、すっかりとうさまを信頼している証拠だ。
「…そういうわけで、少しお嬢さんをお借りします。少しの間、飲食スペースでお待ちいただけますか」
疑問形の形をとっていたけれど、とうさまは決定事項を連絡するような調子で言った。
「あ、あぁ、わかった」
当然、断ることもできず、アビーの父親は頷いた。
場所をギルドマスターの執務室に移して、3人の子供達とわたし達、ギルドマスターが集まって話し合いをすることになった。
まず、子供達の話を聞くことになった。3人とも、盗賊に襲われ、「抵抗すれば子供の命がない」と脅され攫われた。そのあと、別々にレ・スタット国の国境まで連れて行かれ、盗賊とは違う男達に引き渡された。それからレ・スタット国の王都まで行き、グラン伯爵の館で他の子供達に出会ったそうだ。
「盗賊はぼろぼろの服を着ていたけど、そのあとで出会ったおじさん達はきれいな服を着ていたよ」
「優しくしてくれたけど、すごく怖かった」
「おまえは生贄だって言われたわ」
国境で子供達を受け取ったのは、おそらくレ・スタット国の王都に住むオルランコスの一味だろう。盗賊は、きれいな恰好などしていないから。
「生贄というのはなんだ?他にもなにか言ってなかったか?」
それまでおとなしく話を聞いていたギルドマスターが反応した。
「う~んと。偉いお方を呼ぶんだって言ってた」
「えっとね。きれいな館の人達が言ってたんだけど、大切な人をしょーかんするんだって」
「わたしも聞いたよ。しょーかんには、生贄が5人必要なんだって」
なるほど。人数が足りなくて、儀式を行えなかったのか。無事に助けられてよかった。
だけど、5人も生贄が必要って………どんな大物を呼び出すつもりなんだろう?
「いつ、どこで儀式を行うか言っていたか?」
うん。とうさま、それも大事だよね。
「王宮でやるって言ってたよ」
「満月の日だよ」
「魔術師がいっぱい必要だって聞いたよ」
なるほど。召喚には魔術師が必要だもんね。それも、召喚ができる腕のいい魔術師の数揃えるとなると、グレン伯爵の力だけでは足りない。レ・スタット国の王宮………つまり、チャールズ王が関わっていることは間違いない。満月の日ということも、召喚が行われるタイミングを知る上で重要ね。