60 逃走
「早く出発しよう。少しでも時間を稼ぐんだ」
そう言って、とうさまは子供達にわたし達を紹介した。
「この子が、俺の娘のセシル。そっちがレイヴだ。エイダはセシルと一緒に、ケビンはレイヴと一緒に馬に乗るんだ。アビーは俺と一緒に」
とうさまは3人の子供を抱き上げて、それぞれ馬に乗せてあげた。
わたしは自分でシャンティに乗り、エイダと呼ばれた女の子が落ちないように抱きかかえた。
とうさまとレイヴの準備ができたところで出発だ。
「セシル、全員に身体強化の魔法をかけてくれ」
「は~い」
普段ならとうさまが自分で魔法をかけるのに、わたしに言うということは、残りの魔力を心配しているんだろう。子供達を助けるのに、色々と魔法を使ったんだと思う。
わたしがロキシー達も含めて全員に身体強化の魔法をかけると、ロキシー達は足取りも軽く走り出した。
『こんなに体が軽いのは初めてだぜ』
『いまなら、いくらでも走れそうな気がする』
『あとでご褒美くれよ』
相変わらず、シャンティは甘い物をご所望だ。変わらないところが安心する。
カー・ヴァイン国の王都を目指して、途中の村や町に寄り道せず一直線に走り続けた。少しの時間も惜しかったから。休憩するときは結界を張り、短い時間で仮眠をとった。とうさまだけは、見張りをすると言って眠らなかったけれど。とうさま以外の皆は、仮眠の時間に泥のように眠った。そうして、また走り出す。
そんなことを繰り返すうちに、カー・ヴァイン国の王都が見えて来た。無事、逃げきれたことが嬉しくて、ほうっと溜息が漏れる。
それはわたしだけじゃない。一緒にシャンティに乗っているエイダも、知っている場所へ帰って来れた喜びに涙を流して喜んだ。エイダを抱いている手に、涙のしずくが垂れた。
「パパとママに会いたい!」
その言葉に、どう答えればいいのかわからなかった。
旅人を襲った盗賊は、子供を攫った。その時に、当然、親は抵抗するに決まっている。抵抗して、無事ですまなかった者もいるだろう。もしかしたら、死んだ者もいるかもしれない。
子供達の親や保護者がどうなったか、ちゃんと調べてなかったよ。
「まずはハンターギルドへ行こう。子供達を保護してもらうぞ」
それを聞いて、子供達が不安そうな顔をした。
「わたし達を置いて行くの?」
アビーがとうさまを見上げて、寂しそうな表情をした。
一緒にいたのは短い時間とはいえ、すっかり懐かれていたのだ。
「…君達も疲れているだろう。まずは、安心できる場所で休む必要がある」
ハンターギルドは貴族も気軽に手出しできない場所だし、仮眠スペースや医務室があって休めるからね。体に異常があっても治療してもらえる。
ロキシー達は、ご褒美の角砂糖をあげてから馬屋に預けた。すっかり疲れていたので、すぐに眠っただろう。身体強化の魔法は、体の機能を強化してくれるけれど、疲れを癒してくれるわけじゃないからね。休憩のときに回復魔法をかけたけれど、疲れまではとれないから、休息は必要だ。
かららん
ハンターギルドにやって来た。
子供を3人も連れて、旅の疲れでぼろぼろのわたし達は目立った。清浄魔法をかけてくるんだった。
「盗賊に攫われた子供達を見つけた。保護をお願いたい」
「「「え?」」」
わたし達に注目していた人達が、ぽかんと口を開けて固まっている。
その様子に、子供達が怯えて固まった。
それまで子供達のために優しい表情を作っていたとうさまが、すう~と無表情になった。
「…聞こえなかったのか?」
「え、あ、はい!こちらへどうぞ!」
受付嬢が一早く復活し、医務室へと案内してくれた。
体に治療が必要な怪我などがないか確認するため、子供達が1人づつ順番にカーテンの向こうへ連れていかれたが、疲れている以外は問題がなかった。よかった。たぶん、怪我をしていたとしても、何度も回復魔法をかけたから、それで治ったのだと思う。
子供達の健康チェックを終わった頃、1人の男が駆けこんできた。年は50歳頃。髪に白い物が混じった、年のわりにたくましい体つきをしたおじさんだった。
「盗賊に攫われた子供というのは、君達か!」
男の剣幕に、子供達はびくりと体を震わせてとうさまの影に隠れた。
「あぁ、驚かせてすまない。俺はこのハンターギルドのギルドマスター、ミルバレンだ」
「俺はニキだ」
とうさまが自己紹介し、仮眠室を借りる約束を取り付けた。
宿屋へ行ってもいいけれど、子供達を守るためにはハンターギルドにいたほうがいい。
そして、ミルバレンは部下に子供達の保護者に連絡するよう指示を出した。
仮眠室にはベッドが4つあった。不安がっている子供達を安心させるため、同じ部屋を使うことにしたけれど、これではベッドが足りない。子供達には1人づつベッドで寝てもらい、わたしととうさま、レイヴは床で寝ることになった。わたしを中心とした川の字だ。全員、お風呂に入る元気はなかったので、清浄魔法をかけてから眠った。
おまけ投稿です。