54 レ・スタット国
思ったとおり、王都は物価が高かった。これでは、平民はまともな生活を送るのも大変だろう。日々食べていくだけで精一杯の人も多いんじゃないかな。
宿屋は、安宿でも1泊が銀貨7枚もする。他国の一般的な宿屋で銀貨5枚だから、銀貨2枚も高い。
王都を出入りするだけで銀貨4枚、1泊するのに銀貨7枚ということは、王都に1泊するだけで銀貨11枚もかかる計算になる。高い、高すぎる!
早く、こんな街を出たいよぉ。
宿屋を決めたあと、情報を集めるためにハンターギルドへ向かった。
かららん
ハンターとギルド職員が、一斉にこちらを向く。初めてのギルドで注目されるのはしかたない。
ギルド内は、なんとなく活気がないように感じた。というより、空気がどんよりと重い。
なにかあったのだろうか?
依頼ボードは、特に変わったところはない。依頼料が他所と比べて若干、低いだけだ。
………え?物価が高いのに、収入が低いの?この国、大丈夫なの?危ない状態じゃない?う~っ。頭が混乱する。
レ・スタット国は鉱石(主に金)の採掘によって得られる収入のおかげで、豊かな国だったはず。国が豊かだから、税金が他国に比べて低く設定されていて、農民も穏やかな暮らしができていた………って、そうか、これは何年も前の状態か。今はチャールズ王の圧制のおかげで、税金も高く、国民は貧富の差が大きく、その日暮らしがやっとの状態。
そしてこれが、この国の現状というわけだ。
低い収入ではやる気も起きず、高い物価では食べ物を手に入れるだけで精一杯。多くの民がその日暮らしをしていたら、国力が低下するのは目に見えている。
それに加えて、ここ数年のレ・スタット国は軍国主義に傾倒してきている。多くの予算を軍に回し、軍を強化することで国民を鼓舞し国に対する忠誠心を高めようとしている。
情報ボードには、軍人募集の広告がでかでかと張ってある。
『このたびレ・スタット王国軍では、兵士の募集を行うこととなった。
屈強な肉体、優れた魔術、卓越した知識など、己の力に自信のある者はもれなく我が軍へ来ること。尚、自信のない者もその能力に応じて採用を行う。
ちなみに、採用された者には衣食住の保障を行うので、安心して採用試験を受けるがいい』
………って、なんじゃこりゃあ!
要約すると、衣食住の保障をするからさっさと応募して来い。ってことだ。
今の追い詰められた生活をしている人々にとっては、いい条件なんじゃないだろうか?
でも、どこと戦争する気なんだろう?東のカー・ヴァイン国は海洋国家で、強い軍隊を持っている。西のル・スウェル国はエウレカ教の本拠地を有し、国土もレ・スタット国の倍以上ある。どちらも、レ・スタット国より強い戦力を有している。はっ。もしかして、南のヨナス山脈を超えて行こうとしてる?そのためにエ・ルヴァスティ国を吸収したとしたら?いやいや。それはない。
エ・ルヴァスティ国が滅んでから、もう36年経つもの。もしヨナス山脈を超えて南に進軍するつもりだったら、もっと早い時期に行動を起こしているはず。
う~ん。わからないなぁ。
意味もなく、軍を強化するとは思えない。なにしろ、軍を維持するにはお金がかかるから。食費やもちろんのこと、軍服や装備品、住まいを準備、維持するにはそれなりにお金がかかる。それに、給料も払ってあげないといけない。
本来なら潤沢にあるはずの国の予算を使って軍を強化し、国民生活が困窮しているのは、王族にとってもいいことじゃないと思うんだけど。違うのかな?国民が豊かだからこそ、税金が沢山納められ、王侯貴族が贅沢できるんじゃないの?
国民がハンターに払うお金さえ節約しなきゃいけないほど追い詰められているのに、兵士を募集するのは間違っていると思う。
まあ、軍の強化は気になるところだけど、この際置いておくとして。
わたし達は、オルランコスの情報が欲しくてここまで来た。どうやって情報収集しよう?酒場で、誰かがオルランコスの情報も漏らしてくれればいいけれど、そんな簡単には行かないだろうし。困ったな。
とうさまを見ると、首を横に振った。
「いったん、宿屋へ戻ろう」
「はい」
とうさまは元暗部だから、なにか案があるのかもしれない。だけど、いったいどうするつもりだろう?
あ、そうか。オルランコスはレ・スタット国の闇の組織だから、軍とも影で繋がっているかもしれない。軍に潜入して子供達の情報を手に入れるというのも………ううん、それはだめ。時間がかかりすぎる。
こうなったら、とうさまに元暗部としての技能を使ってもらい情報を集めてもらうのがいい案に思えて来る。うん。それしかないんじゃないだろうか。
宿屋の部屋に戻って、とうさまに話しかけようとしたとき、片手をあげて止められた。
「待て。いま、結界を張る」
結界は目に見えないけれど、防御効果や遮音効果がある。結界内で話したことは、外には漏れないのだ。
とうさまはぶつぶつと呪文を唱えたあと、「いいぞ」と言った。
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