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53 ヨナス山脈に思いを馳せる

 エ・ルヴァスティ国唯一の都市は、1度は廃墟になったけれど、今は復興して天空の都市と呼ばれている。盗賊の問題がなければ、行ってみたかった。

 今は寄り道せずに、レ・スタット国の王都に向かうことが先決だ。

 攫われた子供達の情報が掴めるといいのだけど………。


『喉が乾いた。水くれ~』

 あ、シャンティがなにか言ってる。

『ごめんね。聞いてなかったよ。なんて言ったの?』

『水くれ~』

『あ~、はいはい』

 王都を出てしばらく経ったから、喉が渇いたんだね。

「2人とも止まって。シャンティが喉渇いたって」

「わかった」

「ついでに休憩しよう」


 それぞれが馬から降りてから、わたしが順番にロキシー達に水をあげることになった。

 両手を合わせてお皿みたいにして、手のひらに魔法で水を溜めた。その水を、順番にロキシー達に飲ませた。

『ぷはー!うめぇなっ』

 おっさんか!

『ここまで頑張ったんだ。当然、甘い物をくれるよな?』

 卑しいな!

『あっ、あっ、甘い物ぉ~!』

 歌ってる!?


「………とうさま」

「わかってる。りんご、だろう」

 そりゃあ、これだけ盛大にぶひぶひやってたらわかるか。

 とうさまがくれたりんごを、3等分にしてロキシー達にあげた。3頭とも大喜びだ。

「馬も、甘い物が好きなんだな。俺と同じだな!」

 そう言って、レイヴがにやりと笑った。

 

「………とうさま」

「わかってる」

 そう言って、とうさまはレイヴにりんごを渡した。

 レイヴは剣でりんごを半分に切って、1つをわたしにくれた。

「ありがとう」

 りんごは大好き。


 ところで。わたし達は、もうすぐカー・ヴァイン国の国境線を超えるところまで来ていた。幸いなことに、王都を出てから盗賊には会っていない。

 ここからだと、ヨナス山脈がよく見える。緑豊かに見えるけれど、それは遠く離れた場所から見ているからで。実際は木々はまばらで、草地が広がる山岳地帯だ。平地に慣れた者には、酸素濃度が低いあの土地は過酷過ぎる。

 とうさまを見ると、とうさまは静かにヨナス山脈を見つめていた。なにか、思いつめたような、せつないような、いまにも泣き出しそうな目をしている。

 そっととうさまの手を握ると、きつく握り返してきた。


 とうさまがなにを考えているのかわからない。でも、ヨナス山脈になにか思いを馳せていることはわかった。

 過去に、ヨナス山脈でなにかあったのかなぁ。とうさまのこんな様子、初めて見るよ。

 どうにか慰めたくて、繋いだ手に力を込めた。

「…ありがとう」

 とうさまがわたしを見て、そっと呟いた。

 なんだか胸が痛くなって、とうさまをぎゅっと抱き締めた。

 とうさまは、黙ってわたしの頭を撫でてくれた。


 レイヴは、そんなわたし達を邪魔することなく、とうさまが落ち着くのを待ってくれた。レイヴから見ても、とうさまは様子がおかしかったんだね。

 ヨナス山脈と言えば元エ・ルヴァスティ国だけれど………もしかして、とうさまはあの国の出身なのかな。

 たしか、エ・ルヴァスティ国が滅んだのがいまから36年前。

 当時、とうさまは6歳だった。まだ小さな子供だ。幼いけれど、戦争の記憶を持ってもおかしくない。


「…そろそろ出発しよう」

「は~い」

 立ち直ったらしいとうさまに言われて、なるべく明るい声で返事をした。

 暗くしていても、なんにもならないもんね。


 ロキシー達に乗り、わたし達は再びレ・スタット国の王都目指して動き出した。

 順調に行けば、2日後には王都に着けるはず。

 レ・スタット国は、王都に富と権力が集中している。どちらかと言えば軍国主義で、軍の影響力が強い。そのためハンターの地位は他国と比べて低く、便利屋程度に考えられているらしい。鉱山で働かせるために、他国から犯罪奴隷を買い入れているという話も有名だ。鉱山が、レ・スタット国の資金源だからね。


 貴族は王都に住み、領地は管理人に任せて社交に忙しくしているらしい。貧富の差が激しく、王都のスラム街には傷ついて戦えなくなった元兵士もいるそうだ。国のために尽くしているあいだは多少の優遇はされるけれど、その役目を果たせなくなったときは容赦なく切り捨てる、それがレ・スタットという国だ。


 できれば、王都なんか近づきたくなかった。

 でも、攫われた子供達を助けるためには、少しでも多くの情報が必要なの。情報が集まるのは王都だから、今回は我慢して行くことに決めた。子供達のことを考えたら、わがままなんて言ってられないもの。


 旅程は順調に進み、予定通り2日後の朝レ・スタット国の王都に着いた。高い城壁に囲まれた、城塞都市だった。警備は厳重で、中に入るときも出るときもお金がかかる。

  わたし達は、平民用の門に並んで入った。ハンターの資格証があるので問題なく通過できたけれど、通行料が1人あたり銀貨2枚もかかった。商人が1人あたり銀貨1枚なのに大して、ハンターは倍の料金をとられた。こんなのひどい。

 そう思ったけれど、商人は通行料の他に、荷物の量に応じた通行税をとられるそうだ。そんなにお金を払っていたら、商品の値段も高くなってしまうんじゃないかな。


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