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52 馬を手懐ける

「うぎゃああぁぁあっ!」


 どかっ


 目覚めたら目の前にレイヴの顔があり、反射的に殴っていた。体がびっくりするほど自然に動いた。ううむっ。自分を守るための自己防衛機能が働いたってことかな。

「いててっ」

 レイヴが大げさに痛がっている。大して痛くないくせに。わたしの手の方が痛いよ。

 レイヴを避けてベッドから降りると、とうさまが満足そうに頷いていた。レイヴが痛がっているのが嬉しいらしい。まったく………。

「さて。それじゃあ、朝食を食べに行こうか」

「え、朝食?そんなに寝てたの?」

「そうだ。疲れていたようだな」


 盗賊の見張りはとうさまとレイヴに任せて、夜はしっかり寝たつもりだったのに。思ったより疲れていたのね。体は正直だなぁ。

 いまは、おなかぺこぺこだよ。

 今日の朝食は、具沢山の野菜スープとパン、リンゴだった。足りなかったのでお代わりしたら、今度は食べ過ぎでお腹が痛くなった。ううっ。ほどほどって難しいね。


 宿の外に出たら、見事な馬が3頭、馬屋番に手綱を引かれて待っていた。

 周囲を警戒していた馬達が、わたしに気づくなり興味津々で近寄って来た。ちょっと鼻息が荒い。

『おまえ、他の人間と匂いが違うな』

『わかるぞ。おまえ、他の人間とは違うだろう』

『甘い物くれ~』

「あははっ」

 思わず笑ってしまった。


『『『俺達の言葉がわかるのか!?』』』


 ぶひひ~ん!と大声で鳴かれたものだから、周囲にいた人も馬屋番の人もびっくりしてこちらを見ている。

 失敗した。注目を浴びてしまった。どうしよう。

『『『甘い物ちょ~だい』』』

 今度は、鳴き声を揃えて甘い物を要求してきた。どんだけ甘い物に飢えているの。これは、あげるまで騒ぎ続ける気がする。

「とうさま、りんごを1個ちょうだい」

「どうぞ」

 とうさまからりんごを1個もらい、短剣で3等分にした。それを、1個づつ馬の口に入れてやる。すると、馬達はりんごを美味しそうに噛み砕いた。


「へえ~。よく知ってたな。馬は、甘い物が好物なんだ。角砂糖も喜ぶぞ」

 馬屋番のおじさんが、感心した様子で呟いた。

 知ってたわけじゃないです。そこの栗毛の馬に要求されたんです。

 また騒ぎになっても困るので、心の声は黙っておく。

「この黒馬はロキシーで、ブチ模様がガルダ、栗毛がシャンティだ。仲良くやってくれ」 

 シャンティという名前は女の子っぽいけれど、この馬も牡馬らしい。牡馬のシンボルがついている。 


「ロキシーに、ガルダ、シャンティですね。わかりました」

 馬屋番に答えたわたしに、ロキシー達がすり寄ってきた。シャンティなんて、わたしの髪をかじっている。よだれでべたべたになるからやめてほしい。

『あ、また人間の言葉を話してる』

『俺達の言葉を話してみろよ』

『もう甘い物ないのか~?』 

 しかたないので、ロキシー達に聞こえるくらいの声で囁いた。

『おとなしくしていたら、あとであげるよ』

『『『!!!』』』

 

 こくこくこく


 わたしの言葉に、一斉に頷くロキシー達。

「あっという間に、馬達を手懐けたな」

 おかしそうに笑うレイヴ。

 とうさまは、わたしの髪に清浄魔法をかけてくれた。シャンティのよだれでべたべただったからね。

 簡単な相談の結果、1番体の大きいロキシーにとうさまが乗り、次に体格のいいガルダにレイヴ、1番小柄なシャンティにわたしが乗ることになった。小柄と言っても、シャンティも見事な体つきをしている。ロキシーと比べれば、やや小さいというだけだ。


「目指すは、レ・スタット国の王都だ。馬の足なら数日で着く。無理せず行くぞ」

 馬を走らせるのは楽しいけれど、あまり無茶をすると馬の足を痛めてしまう。とうさまはそのことを注意しているのだと思う。

 なにしろレ・スタット国は小国だから、馬があれば簡単に横断できてしまうのだ。

 レ・スタット国は内陸にあり、海からは離れている。ただし資源が豊富で、特に金の産出国として有名だ。金貨のほとんどは、このレ・スタット国産の金が使われている。そして、小国ゆえ広い国土に憧れていて、周辺国を取り込もうと狙っている。セレスティナ女王がいた9年間はともかく、セレスティナ以前のアルベルト王の時代にも、周辺国を狙っていた。


 実際、アルベルト王の時代に、レ・スタット国は隣国だったエ・ルヴァスティ国を侵略によって吸収した。

 エ・ルヴァスティ国は、レ・スタット国の南に位置するヨナス山脈にある都市国家だった。遊牧民族が拠点とするために作った町がやがて大きくなり、都市となってできたのがエ・グレイブ国だった。標高が高く、作物も多くは育たない斜面ばかりの土地で、民は山羊を育てて暮らしていた。レ・スタット国に攻められたとき、自国を守る戦力など初めからなく、抵抗などできるはずもなかった。あっという間に国を乗っ取られ、王族は残らず殺された。残された民はヨナス山脈に散り散りとなり、密かに国の復興を願っているという。

 レ・スタット国はエ・ルヴァスティ国を吸収したものの、大して資源や魅力のない土地に興味を示さず放置しているらしい。それなら、初めから戦争など仕掛けなければよかったのに。一方的な虐殺をして、他国から反感を買っただけだ。




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