50 盗賊を退治せよ2
盗賊達は、とうさまが出したロープで縛り上げた。せっかく捕まえたのに、逃がすわけがない。犯罪奴隷として引き渡すと、いいお金になるんだよ。
「さて。王都まで歩いてもらおうか」
そう言って、とうさまは盗賊達の首にかけたロープを引っ張った。歩かないと、首が閉まる例の縛り方をしてある。
「くそっ。俺たちを倒したくらいで、いい気になるんじゃねえぞ!」
ん?負け惜しみにしては、変な台詞だな。まるで、誰かが助けに来てくれるような………まさかね。
「おい、おまえら!おとなしくしろ!」
その、まさかだった。
12人の盗賊が現れた。彼らを見て、捕まえた盗賊達は明らかにほっとした顔をしている。
普通、盗賊同士は互いに縄張りがあり、獲物を狙う敵対関係にある。それが、こんなふうに「助けてもらえる!」と期待の眼差しを向けるなんてありえない。なにかある。
「…レイヴ、やってしまえ」
捕まえた盗賊のロープを握っているとうさまは、盗賊達が逃げないようにロープを手放せない。つまり、戦えないということだ。
でも、問題ない。
「おう」
レイヴが返事をして、飛び出した。
どんっ
ざしゅっ
どかっ
あっという間に倒してしまった。
すでに捕まえられている盗賊達は、レイヴの戦いぶりを見て呆然としている。さっき、自分達がやられたときに学習したんじゃなかったのか。
新たに捕まえた12人の盗賊達も、首が締まる縛り方でしっかり縛った。
そうして始まる尋も………じゃなくて、質問。
「おまえたちは知り合いだな」
「けっ。それがどうした」
あ、認めるんだ。そうだよね。縄張りが隣り合っているし、知り合いでもおかしくない。さっきの反応を見る限り、隠す方が怪しい。
「こいつらを助けに来たのか?」
「おまえらから身ぐるみ剥ぐついでに、助けてやろうとは思ってたよ」
「ずいぶん優しいんだな」
「ふんっ。皮肉は通じねえよ」
「子供を攫っているのは、どういうわけだ」
「そりゃあ、ガキを欲しがる連中がいるからだ。特に、そこのガキみたいに見た目がいいと、色々と使い道が………ぐえっ」
とうさまが盗賊の喉を掴み、力を加えた。痛みと呼吸困難から、苦しみもがく盗賊の男。
とうさまが手を離したときには、盗賊の顔は青くなっていた。
「げほっ、ううっ………」
「無駄口を聞くな」
盗賊を見るとうさまの目は冷たい。氷のようだ。
「おい、あんた!殺したら、犯罪奴隷にできねえぞ!」
盗賊の1人が叫んだ。殺されるより、犯罪奴隷になった方がましだと思ったのだろう。
「…これだけいるんだ。少し数を減らしてもかまわない」
そうそう。多すぎて、管理が大変なんだよね。
カー・ヴァイン国の王都まで、まだ1日かかる。途中、野営をするときにも、盗賊達が逃げ出さないように交代で見張りをしなきゃいけない。その危険と手間を考えたら、少しくらい殺してもかまわない。
とうさまがそう離したら、とたんに大人しくなる盗賊達。仲間のことより、自分の身の方が大事らしい。
「もう1度聞くぞ。なぜ子供を攫うんだ」
「それは………高く買ってくれる奴らがいるんだ」
「なるほど。それは誰だ」
「言えねえ。殺されちまうよっ」
盗賊は怯えた様子で叫んだ。
とうさまは無言で盗賊の手を掴むと、その指を1本へし折った。
ぼきっ
「ぎゃああ~~~!」
「誰だ」
「だから、言えねえって………ぎゃああ~~~!」
5回悲鳴が響いたところで、とうさまは反対の手にかかった。
「や、やめてくれっ。オルランコスだ!奴らに言われたんだよ!」
それからは、盗賊の頭領はぺらぺらとよくしゃべった。オルランコスが子供を集めれいること。子供1人につき金貨3枚で買い取ってくれること。捕まえた子供は、週に1度オルランコスが引き取りに来ること。今までに捕まえた子供は、すでに引き渡していたこと。
オルランコスというのは、レ・スタット国に拠点を置く犯罪組織の名前だ。レ・スタット国の国王チャールズ・レ・スタットが作った組織で、レ・スタット国のためではなく、チャールズ国王の私欲のために動く闇の組織だ。強盗、誘拐、殺人となんでもする。ならず者の集団だ。
「…なるほど。連絡はどうやって取るんだ」
「1週間ごとに、連中がやって来るんだ。俺達から連絡する方法はねえ。う、嘘じゃねえ!」
とうさまの目を見て、慌てて言葉を強調する盗賊。うん。怖いよね。
「どこに来る?」
「この先の、乗合馬車の休憩場所だ。あいつらは普通のハンターの恰好をしてるから、誰から見ても疑われない」
オルランコスの方はそうでも、盗賊達はぼろぼろの恰好で目立つでしょ。人に見られたらどうするの。あ、逃げるの?そうですか。
必要なことは聞き出したので、盗賊の手を回復魔法で治し、王都へ向かうことになった。今は19人の盗賊を連れているので、オルランコスを待ち伏せすることはできないからね。
そのあと、盗賊に会うことはなく(19人もぞろぞろ盗賊を連れていたら、そりゃ怪しくて近寄ってこないよね)無事に王都に着いた。
ハンターギルドで盗賊達を引き渡すと、その数に驚かれた。
「なんでこんなにいるんだ!?」