表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/282

5 はじまりの島5

「島長さまは、危ないのでここにいてください。わたしだけで行きます」

「う、うむ。任せたぞ」

 …なにかあれば、逃げる気満々よね、この人。

 陸地に島長を残し、揺れる桟橋をゆっくり歩いてガーラム達のところへ向かった。

 興奮していたウルンサだけど、わたしを見つけると体当たりをやめた。静かにこちらの様子を伺っている。


 ざっぱん!


 温厚なはずのエレクが桟橋に乗り上げ、わたしの左腕に噛みついた。そしてそのまま、一気に海の中に引き込まれた。

「ぎゃあああ~~~!!」

 …誰かの悲鳴が聞こえた。

 海に引き込まれたけれど、すぐに海上に顔を出すことができた。まあ、腕は噛まれたまあだけど。

「ぎゃああ~~~!!」

 あ、悲鳴が遠ざかっていく。島長かな。

「どうしたの?なにがあったの?」

『もう我慢できない。あの人間は信用できない』

『体が痛い!また鞭で打たれた!』


 どうやら、オッサムさんがウルンサに言うことを聞かせようと、あの後、無理に鞭を振るったらしい。見ると、ウルンサには新しい傷がいくつもあり、血が滲んでいる。海水が傷口に沁みて痛そう。

 すぐに、回復呪文を唱える。古い傷はしかたないけれど、新しい傷はこれで全部消えたはず。

『『人間殺す!』』

 声を揃える2頭に頭を抱える。

 2頭の気持ちはわかるけれど、そんなことをすれば2頭とも人間に殺されてしまう。

 ウルンサとエレクを逃がすことはできる。島国であっても、海洋国家ではないア・ムリス国は、外洋には出られない。そんな大きな船は持っていないし、外洋には海の魔物がいる。そこまで追いかけるとは思えないけれど、人に飼いならされた2頭には、外洋で生きていくことは困難だと思う。


 では、このまま置いていくのか?それもできない。どうやらメリス島では、ガーラムは海の馬代わりで、代わりのきく奴隷動物ぐらいにしか思っていない。あまりにも愛情がなさすぎる。不当に扱われて、怪我が元で死ぬか、過労で死ぬか………老衰で死ねる確率は低い。

 ということは、王宮に届け出る必要があるわね。なんと言ったって、ガーラムは王宮の大切な財産なんだから。

桟橋に結んであった2頭の縄を解いた。逃亡防止に、すぐ船に繋ぐために、ガーラムは常に縄で縛られている。


『あの鞭の男を殺してやる!』

『いいえ、人間は皆殺しよ!』

 あ、ウルンサよりエレクのほうが過激だった。

「それはだめ。そんなことをすれば、ほかのガーラムにも危害が及ぶかもしれないわよ。それに、すべての人間が悪いわけじゃないでしょう?優しくしてくれた人もいたでしょう?とりあえず、本島へ向かって。わたしが………わたしととうさまが、王宮の人と話をつけるから」

『…あの、目つきの悪い男か。あれは信用できる』

『…そうね。1度だけ、賭けてもいいわ。でも、1度だけよ』

 そう言うと、2頭の怒りを表す赤が治まっていった。


「急げ!あの小娘が死んだら、俺達がニキに殺されてしまうぞ!!」

 …そう。とうさまは怖い。そして恐ろしく強い。この島の住民なんて、あっという間に全滅させてしまえる。元暗部だもの。心を悲しみに飲まれていれば、氷のような冷静さで、女子供関係なく殺せる。じわじわと苦しめるようなやり方で。

 でも、とうさまにそんなことさせられない。だから、わたしは簡単に殺せない程度には強くなった。どんな傷ついても、回復魔法がある。生きてさえいれば、とうさまの元に戻れる。


「おい!あそこにいるのはセシルじゃないか?」

「おお!無事だぞ!」

「ガーラムの怒りの色が消えている!」

 あ。騒がしくなったから、また2頭がイライラしてる。

「すみません。ガーラムが怒るので、静かにしてください」

「わ、わかった。すまん」

 駆け付けたのは、島の漁師達。うん。泳ぎが得意で、力があるもんね。怒り狂うガーラム相手でも、小娘1人くらい助けられ………ないよね。どう考えても。でも、助けに来てくれたのは嬉しい。


「それで。大丈夫、なのか?腕、食われてるけど………」

「あ。大丈夫です。骨折もしていません」

 なぜかエレクが離してくれないけれど、おかげで立ち泳ぎしなくても沈まないから楽チンだ。

「あの。これからガーラム達と本島まで行ってきます。ガーラム達の処遇改善のために」

「え?」

「それで、戻って来ても、オッサムさんはガーラム達に殺される可能性が高いので、姿を見せないように伝えてください。じゃあ、行ってきます」


「「「「えええ~~~!!」」」


エレクに左腕を食われたままの姿勢で、出発した。解き放たれた2頭のガーラムは、思い切り飛ばした。それはもう、人を食い殺さんばかりの勢いで。

そうして、やってきました本島!

 途中で、エレクに腕を離してもらい、その背中に乗った。曳く船などないガーラムが全力で飛ばせば、南端のメリス島から本島まであっという間だった。正直、飛ばし過ぎである。

ア・ムリス国は、人の住まない小島を合わせて、10の島からなる島国だ。そのうち、大陸からも近く、もっとも大きな島が本島と呼ばれ、王宮などの重要施設が集中している。小さいが森もあり、大陸にはない珍しい動植物がいる。他の島からは、観光島などと呼ばれることもある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ