45 親馬鹿
「それで、いつ紹介してくれるんだ?おまえの選んだ娘だ、きっと可愛い子なんだろうな」
「名前はなんて言うの?年はいくつ?」
「え?ちゃんと話を聞いてた?相手は人間だって言ったんだけど………」
思わずため口になる。
「人間は寿命が短い。わずか数十年を人間と過ごすことくらい、このわしが許さないと思ったのか?わしは、おまえが大人になったことが嬉しいのだ。その人間が死んだあとは、相応しいレッドドラゴンの娘と結婚すればよかろう。問題はない」
「そうよ。愛は種族を超えるんだから。魔族だって獣人だって、他種族と結婚するんだから。レッドドラゴンがしてはいけないことにはならないわ」
セシルが死ぬ?それは、考えたこともなかった。できれば、一生添い遂げたい。だが、それを今言ってもどうにもならないことはわかっている。ぐっと言葉を飲み込んだ。
とにかく、セシルとの結婚を認めてもらえて良かった。族長の決定だ。他のレッドドラゴンがいくら反対しても、決定は覆らない。
「人間が魔大陸へ渡って来るのは危険も多かろう。よし、ここはわしが挨拶に………」
「ちょっと!わたしを置いていく気じゃないでしょうね!もちろん、わたしもレイヴネルのお嫁さんを見に行くわよ!」
「ええ!?」
なにを言っているんだ。正気なのか?族長が、人間に会いにアステラ大陸へ行く?
「「それで、名前は?」」
そうして、俺は2人からセシルについて色々と聞き出されることになる。2人がセシルに会うことは決定事項として。
* * *
朝、目が覚めると、とうさまは向かいのベッドに腰かけて剣の手入れをしていた。
「おはようセシル」
「うん。とうさまおはよう」
眠い目をこすりながら、両腕を伸ばして大きく伸びをする。背筋が伸びて気持ちいい。
「今日も通常依頼?」
「そうだな。特に問題がなければ、通常依頼だ」
王都に戻ってから、とうさまとわたしは通常依頼をして過ごしていた。休暇にすることもできたけれど、それだと時間を持て余してしまうからだ。
いよいよ、明日が約束の7日目。無事にレイヴと会えるといいのだけど。
かららん
朝食のあと、ハンターギルドを訪れた。ここ数日でわたし達の顔も覚えられ、他のハンターが興味を示すこともなくなっていた。
情報ボードに新たな情報がないことを確認し、依頼ボードを見る。特別なものはなかった。今日も、通常依頼の魔物討伐と薬草採取を行うことになりそうだ。
「お、ニキさんとセシルじゃないか!まだ王都にいたんだな」
声をかけてきたのは、以前、ドワーフの里へ向かう乗合馬車で一緒になった、剣士と槍士の2人組ハンターだ。
「…そっちは、まだ2人か」
「うぐっ。人気がないみたいに言わないでくれます?これでも、色々と声はかけてるんですけどね」
「できれば、魔術師がほしいんだが、なかなかいないんだよ」
なるほど。訓練すれば誰でもなれる剣士と違って、魔術師は魔力がないと話にならない。そして魔力があれば様々な仕事で重宝されるので、わざわざ危険なハンターになろうとする者は少ない。貴重な魔術師は、どこへ行っても大事にされる。初めから仲間だったならともかく、途中で仲間にするには壁が高いのだ。
「2人は魔法を使えないの?魔法が使えれば、魔術師を入れなくてもなんとかなるんじゃない?」
「俺は両手に一杯くらいなら水を出せるが、それだけだ。攻撃魔法なんてとても無理だし、水筒代わりにもならないよ」
「俺はまったくだめだ。だから剣士になったんだ」
とうさまには敬語を使う2人だけど、子供のわたしにはため口だ。まぁ、変に気を使われるよりいいだんだけどね。
そういえば、この2人ならバッツ達とパーティ組んでもうまく行くんじゃないかな。あっちは剣士、弓士、魔術師だから、5人パーティになってちょうどいいんじゃないかな。
そう思って、バッツ達のことを話して聞かせた。知り得たハンターの個人情報を漏らすことはご法度だけど、名前や職業は誰でもわかることだし問題ないよね。
「…なるほど。バランスがいいな。ランクも同じCランクだし、良さそうだな。教えてくれてありがとう」
「そうだな。グ・ランヴィル国へ行ってみるよ」
そう言って、2人は去って行った。
そして王都の近くのE~Cランク向けの森へ行き、今日も魔物討伐と薬草採取をして過ごした。
今日は、レイヴが魔大陸から帰って来る日だ。レイヴを迎えるために、宿屋に待機することになっている。部屋と中庭、食堂をうろうろする。
「セシル会いたかった!」
「ぎゃあっ!」
とうさまと食堂で昼食を食べていると、1人の少年が抱きついてきた。鮮やかな赤毛で、筋肉質な体をしている。
「レイヴ、セシルから離れろ」
そう、レイヴだ。わたしを抱き寄せたまま、とうさまに目で威嚇している。
「久しぶりなんだ。少しくらいいいだろ」
「よくない。ただの友達は、そんなことをしない」
ふふっ。とうさまったら、「ただの」という部分を強調している。そんな言い方をしなくてもいいのに。




