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44 魔大陸

 人化の術で人間の姿になり、王都エングレイドへ入る。いくら魔族の都とは言え、魔族にとってもレッドドラゴンは脅威の対象だ。ドラゴンの姿では騒ぎを起こしてしまうだろう。今は、余計な騒ぎは起こしたくない。

 姿は人間でも、気配は魔物だ。魔族達が絡んでくることはない。幾人かに声をかけて、王都で1番の腕だという鍛冶屋を教えてもらった。

「…鍛冶師はいるか?」

 鍛冶屋に入って声をかけると、1人のドワーフがこちらを向いた。いかつい体つきに、髭剃りあとが濃い中年の男だ。

「儂が鍛冶師だ。なんの用だね」

「レッドドラゴンの鱗と魔鉱石を使って、短剣と部分鎧を作ってもらいたい。頼めるか」

「ふむ。レッドドラゴンか。当然、素材は持ち込みだろうな」

 俺も、ドワーフの男も、疑問形を使わない。断られるとは思っていないからだ。ということは、注文を引き受けてくれるということだ。


 どんっ


 自分の体から鱗を剥ぎ取って、工房内に置いた。何度やっても痛い。

「ほおっ。若いが、見事な鱗だな」

「当然だ」

「おまえさん、レッドドラゴンだろう。最強の竜種の一角が、なぜ装備なんて作ろうとする。必要ないだろう」

「使うのは俺じゃない。嫁に持たせるんだ。報酬は、鱗1枚でどうだ」

「報酬はそれでかまわん。………しかし、その若さで嫁か。相手は、まだ若い個体か?それで装備が必要なのか?」

「セシルは人間だ。だからだ」


「人間だと!?」

 叫んだあと、慌てて口を抑える鍛冶師。誰も工房に駆けこんで来ないことを確かめ、静かに言った。

「………ここに連れて来ているのか?」

「いや。アステラ大陸にいる」

「そうか。あまり脅さかさんでくれ。寿命が縮んだわい」

 どさりと椅子に腰かけ、胸をさする鍛冶師。

 魔大陸に暮らす者にとって、人間は油断ならない者として知れ渡っている。貧弱な体に、短い寿命だが、知恵が回り、集団で攻撃されるとこちらも無事ではすまない。特に、その見た目から人間に狙われることもある獣人にとっては天敵だ。

 もし魔大陸に人間が紛れ込んだとなれば、大騒ぎになるだろう。


「あぁ、まだ名乗ってなかったな。わしはケンデルだ」

「俺はレイヴネルだ」

「そうか、レイヴネル。里の者は、そのことを知っているのか?つまり、人間の娘と………」

「いや、まだだだ。これから報告に行く」

「うむ。気を付けるんだな。その間に、わしは仕事を片付けておく」

 そうして、ケンデルと注文する装備について細かい打合せを行った。1日で仕上げてくれるそうだ。さすが、仕事が早い。


 王都エングレイドを出たところでドラゴン化し、レッドドラゴンの里を目指した。最高速度で飛ばしたので、すぐに里に着いた。

「え?レイヴネルだ!よく戻って来たな!」

「族長が心配していたぞ」

「族長の奥様もだよ」

「早く顔を見せてやれ」

 ひらりと里に降り立った俺に、仲間のレッドドラゴン達が話しかけてきた。

 里では、俺は人気者だ。誰もが気にかけてくれる。というか、里の者全員が顔見知りなので、お互いに気にかけている。


 レッドドラゴンの里へやって来たのは、ただ里帰りがしたかったわけじゃない。ちゃんとした理由がある。両親に、セシルのことを報告するのだ。

 あぁ、緊張する。両親は俺に馬鹿みたいに甘いが、それでも、認められないことはあるだろう。なんと言われるか………気が重い。

「あら、レイヴネルじゃないの!」

 母さんが俺に気づき、のしのしと近づいてきた。首絡めてくる。

ドラゴン同士の挨拶だが、母さん相手だと恥ずかしい。まるで、思春期の子ドラゴンみたいだ。

「いままでどうしていたの。父さんが心配していたわよ。すぐに行ってあげて」

「わかってる。母さんにも聞いてほしい話があるんだ。一緒に来てくれる?」

「もちろんよ」


 里にはいくつかの洞窟があり、その中でも1番広い洞窟を族長家族が使う。狩りで出かける以外は、族長は大抵、洞窟にいる。近寄ると、俺の気配を感じたのか、他のレッドドラゴン達より一回り大きなレッドドラゴンが現れた。族長で………俺の父親だ。

「帰ったか、レイヴネル」

「はい。ただいま戻ました」

 いくら父親であっても、相手は族長だ。敬意を持つのがあたりまえだ。

「…人間の匂いがするな。アステラ大陸へ行っていたのか?」

「はい。それで、お二人に話があって戻ってきました」

「なんだ。言ってみなさい」

 父さんは俺に甘い。もちろん母さんもだ。だからきっと許してくれるはず。そう心に決めて、父さんの目をまっすぐ見つめた。

「人間の娘と結婚したいと思います。お許しください」

「………」

「………」

「………?」

 父さんは口をぽかんと開けて、俺を見つめてくる。

 母さんは黙ったままだ。なにを考えているのかわからない。


 沈黙が怖い。まるで、責められているようだ。

「おまえが、結婚?」

 俺が沈黙に耐えられなくなったとき、父さんがぽつりと言った。

「子供だと思っていたが、ようやくその気になったか!」

「おめでとうレイヴネル!」

 2人同時に抱きついてきた。父さんは興奮し過ぎて、火を吐きそうになっている。この体勢で火を吹くのはやめてくれ。

 てっきり結婚を止められると思っていた俺は、呆然として2人のなすがままになっている。


5000PVありがとうございます。


次は1万PVですね。

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