43 真夜中の旅立ち
日が暮れてから、わたし達は宿を出た。月を見に行くんじゃないよ。レイヴの見送りだ。
別に、とうさまとわたしが宿にいる間に、レイヴ1人で出発してもよかったのだけど。それだと、せっかくのレイヴのドラゴン姿を見逃してしまう。普段は見られないドラゴンなんだから、見れられるときにはしっかり見ておきたい!
ドワーフの里を出るときに、見張りに「夜の散歩」だと言って出て来た。だから、あまり時間はかけられない。
暗い山の中をどんどん進むレイヴの背中を追いかけているうちに、少し開けた場所に出た。ここなら、木々を傷つけずにレイヴが空へ飛び立てるかもしれない。それにしても、レイヴは夜目がきくんだね。獣みたい。って、ドラゴンだった。
どぉんっ
レイヴが、ドラゴンの姿へと戻った。
「鱗が月明りに輝いて綺麗。目なんて、吸い込まれそう」
「ふふっ。褒めてくれるなんて嬉しいな。キスしてやろう」
「やめろ」
いやいや、ついレイヴを褒めてしまった。だって本当に綺麗なんだもの。ドラゴンて、皆こんなに美しい生き物なのかしか?
「じゃあ、行って来るよ。俺がいない間、寂しくても我慢するんだぞ」
「とうさまがいるから大丈夫よ」
「さっさと行け」
「ふんっ」
とうさまに促されて、翼を広げたレイヴ。浮遊魔法を使って一気に上空へと昇ると、そのまま魔大陸目指して飛び去った。
「ふわぁ。すごいスピード。一瞬で見えなくなっちゃったよ」
「さあ、里に戻ろう。宿屋のドワーフ達も、心配しているに違いない」
「うん」
今度は、とうさまが先に立って山を進んだ。はぐれないように、わたしはとうさまの服を掴んで歩いた。
「あぁ、帰って来た!夜に里の外へでかけて行くなんて、心配しましたよ!」
案の定、受付の女の子が心配して待ってくれていた。
「あれ?もう1人の男の人は?どこですか?」
「あいつは、用事ができたので1人で山を去った」
「ええぇぇーー!」
女の子の悲鳴に、食堂にいたドワーフ達がなにごとかと振り向いた。
「どうして朝まで待てなかったんですか!山をなめたら死にますよ!」
「あいつはそんなやわじゃない」
「心配してくれる気持ちはありがたいけれど、わたし達はレイヴを信頼しているから大丈夫だよ」
「でも………やっぱり心配です」
宿屋をやっていると、いろんな客に出会うのだろう。中には無茶をして怪我や、悪ければ死亡する者もいる。そういう姿を見ることのある高い宿屋の娘としては、最悪のことを想像してしまうに違いない。
わたしは、少女を抱き締めて慰めた。
翌日の昼、乗合馬車でドワーフの里を出発した。
ホランドさんは、夜のうちにレイヴが山を去ったと聞いて、
「あの剣があれば、あの兄ちゃんは死なねえだろぉよ」
と、笑っていた。
乗合馬車は特に問題なく進み、翌日の昼に王都に到着した。
その足でギルドに向かい、ハンターにとって習慣とも言える情報収集を行う。が、特になにもなかったので、宿屋へ行く。
「あ、お嬢さん達、いらっしゃい」
前に中庭で剣の練習をしていた少年だ。この、ちょっといい宿屋で受付をしている。
「2人部屋は空いてるか?」
「え、もう1人のお兄さんは?」
「今レイヴとは別行動なの」
「そうなんだ。部屋は空いてます。鍵をどうぞ」
鍵を受け取り、部屋に入るとベッドに横になった。昨日はレイヴを見送るため夜更かししたので、少し眠かった。
「…セシル、寝る前にお風呂に入っておいで」
「はーい」
銀貨1枚を払ってお風呂に入ると、眠気がさらに増した。もう、このまま寝てしまいそう。うとうとしながら部屋に戻り、ベッドに潜るとすぐに眠ってしまった。
* * *
夜の山を飛び立ち、まもなく海岸線が見えて来た。人間の国、グ・ランヴィル国を出て、まっすぐに魔大陸を目指す。
できれば、セシルと離れたくなかった。だが、これも未来の花嫁のためだ。我慢しなければならない。
飛行魔法を使い、全速力で夜の海の上を飛ぶ。空気を切り裂くように飛んでいるせいで、全身に細かい振動が伝わって来る。だがそれも、気になるほどではない。なにしろ、全力で空を飛ぶ高揚感に胸が踊っているからだ。
せっかく魔大陸へ帰るのだから、今回、レッドドラゴンの里へ寄る予定だ。里は火山のそばにあり、冬でも暖かい。
我らレッドドラゴンはその名の通り火属性なので、寒さには弱いのだ。だから、水属性のブルードラゴンはともかく、氷属性のアイスドラゴンとは交流がない。雷属性のサンダードラゴンとは、お互いあまり干渉しない間柄だ。そもそも、ドラゴンは同族で群れるので、他のドラドンとはあまり交流がないのが自然なのだ。
最初の目的地は、当然、魔王パーシヴァルが治める王都エングレイド。魔大陸の西を治める、北の魔王の地だ。技術者が各地にいるアステラ大陸と違い、魔大陸では、高い技術を持つ者は王都を目指す。西の地で最高の装備が作れるのは、王都エングレイドだけだ。
アステラ大陸を飛び立って3日目の朝、王都エングレイドの近くに降り立った。
書き溜めが少なくなってきたので、連投をやめて、1日1投稿にしますね。
あ、でも、今日はPVが5000になりそうです。5000PVになったら、お礼に1話投稿します。