42 調査報告
朝食のあと、ハンターギルド王都支部へ行った。森の調査依頼の結果報告をするためだ。そして、おなじみになって来た2階奥のギルドマスターへ通された。
「………というわけです」
国境の町ベンドロと、その周辺の森で起きた出来事を説明した。森の守護者であるエントの子供が誘拐されたこと。怒ったエントが、妖精サテュロスに命じて魔物にベンドロの町を襲撃させたこと。ベンドロの商会に囚われていたエントの少女を救い出し、エントの元へ返してあげたこと。少女の奪還がもう少し遅れていたら、スタンピードが起こっていたことである。
「そうか。おまえ達、よくやってくれた。期待以上の成果だぞ」
依頼内容は、森の異変を探るだけだった。それを、原因究明どころか、事件解決してスタンピードも防いだのでる。驚くのも当然というものだろう。
「しかし、よくこの短期間でこれだけの成果を出したな。いや、短期間だったからこそ、出来た成果というか………とにかく、この王都支部のハンターが活躍してくれることは素直に嬉しいぞ」
え、なにかおかしなことを言っている。
「俺たちは、王都のハンターではありません」
「え?王都を拠点に活動しているんじゃないのか?」
「違うな。俺たちの拠点はオ・フェリス国だ」
「えええぇぇ。あんな遠くから来たのか?ということは、修行の旅の途中なのか?」
「そのとおりです」
なにやら誤解があったらしいが、今、それは解消された。そして激しく落ち込むギルドマスター。
「せっかく、将来有望なパーティを捕まえたと思ったのに………」
ぶつぶつとうるさい。
なにやらギルドマスターの様子がおかしいが、わたし達には関係ない。ギルドマスターをその場に残し、受付で報奨金を受け取ったあとは、情報収集だ。ハンターとして、これは欠かせない。
依頼ボードと情報ボードをじっくり眺め、おもしろい依頼も、異常を示す情報もないことを確かめた。
あとは、乗合馬車でドワーフの里へ行き、レイヴの剣を受け取るだけだ。
ドワーフの里では、皆わたし達を見つけるなり歓迎してくれた。
前回の、レッドドラゴンの鱗持ち込みが効いているらしいのだ。鱗の残りを売ったところ、かなりのお金になったらしく、びっくりしたホランドさんが自分の取り分を残し、ほとんどのお金を「村の予算に」と寄付したらしいのだ。「自分は、剣を作れただけで十分だから、と」。なんていい人なんだ、ホランドさん!いや、ドワーフか。
「早く、ホランドのところへ行ってくれ。あいつ、君達のことを待ってるよ」
言われるまでもない。
ホランドさんの工房へ行くと、そこには笑顔満面のホランドさんがいた。
「待っていたぞ!剣は、昨日、完成した。俺の自信作だ。早く見てくれ!」
すっかり興奮している。
テーブルに、一振りの剣が置いてあった。一見すると普通の剣だが、存在感が違う。レイヴが鞘から剣を抜くと、赤い刀身が現れた。先に貰った短剣より、深い赤をしている。そして、波のような綺麗な波紋が広がっていた。芸術品のように美しい。ホランドさんが自信作と言うだけあって、見事な剣だった。
「どうだ。気に入ったか?」
「あぁ、当然だ」
剣を眺めていたレイヴが、満足そうに頷いた。
それにしても、このホランドさんの腕でもすごいのに、これ以上の物を魔大陸で作れるということは、アステラ大陸より魔大陸の方が技術力が高いってこと?
アステラ大陸と魔大陸の違いって言うと、う~ん………あ、そうか!魔鉱石だ!ハンター垂涎の品が作れるという、魔鉱石。あれが採れるのは魔鉱石だけだもの。
だから、わざわざレイヴが魔鉱石へ行くと言い出したに違いない。そう考えると納得できる。
「どうだ、似合うか?」
剣を腰に佩いて、レイヴが嬉しそうに笑っている。
「うん。かっこいいよ」
「そうだろう!」
ホランドさんが、自分のことのように嬉しそうにしている。鍛冶師にとって、作品は子供のようなものかもしれない。その子供が褒められたら嬉しいのだろう。
「よし、今日は飲み明かすぞ!おまえ達、一緒に酒場に行くぞ!」
「はははっ」
せっかくのお誘いだけど、未成年のわたしはお酒を飲めない。そう思ったけれど。
「あそこは、うまい焼き菓子があるんだ」
その言葉で、俄然、行く気になった。うまい焼き菓子と聞いて、行かないわけがない。
「行く!絶対に行く!」
酒場は、今日もむさくるしい男達で賑わっていた。髭面のドワーフがいっぱいいる。
ドワーフにとって、髭は男らしさの象徴なのだろうか?そう思って聞くと、
「皆仕事で忙しくて、気づいたらこうなるんだ」
とのこと。ただのめんどくさがりだった。
肝心の焼き菓子は、山羊のチーズを使ったチーズケーキだった。しかし、山羊と聞くと、どうしてもガロイアを思い浮かべてしまう。強烈な見た目だったからね。しょうがない。味は濃厚で、しっとりしていて、とても甘かった。
「こいつを食べながら、うまい酒を飲むのがいいんだ」
そう言って、ドワーフの男達は笑った。