4 はじまりの島4
家に帰って、まずやるのは清浄魔法。だって、海に入ったから塩水で体がべたべたなの。もちろん、服も。
それからお昼ご飯を簡単に済ませて、昼寝。今夜はウルンサとエレクを宥めるために、徹夜しなきゃいけないかもしれないからね。
と思っていたら…。
「セシルはいるかあ~~!!」
島長のデレウさんが怒鳴り込んできた。
デレウさん夫婦にはなかなか子供ができなくて、やっとできたジグを溺愛している。つまり、親馬鹿だ。どんな悪さをしても、それはジグのせいじゃない、相手が悪いと決めつける。そして権威付けのためか、大事な漁師の働き手であるイリータとロンド(子供でも、普通は稼業を助けるために働く。学校なんかないからね)をジグの取り巻きをして着ける許可を、無理やり家族から取り付けている。
「なんでしょう?」
わたしは一応、大人には丁寧な態度をとることにしている。相手が、どんなに無礼な態度でも。
「ガーラムが怒っていることは知っているな。このままでは、いつガーラム便が使えるようになるかわからん。ニキもいつ帰って来れるかわからんぞ。お前も困るだろ。そこでだ。お前がなんとかしろ!」
え、意味がわからない。なにがそこでだ、なんだ?
「あの、オッサムさんはどうしたんですか?ガーラムを調教するのも、オッサムさんの仕事じゃあ…」
わたしが夜中にガーラム達と遊んでいることは、とうさま以外に知らないはず。どうしてよそ者のわたしなんかに、大事なガーラムを任せようとしてくるんだろう?
「ふん。あの男はクビだ。ガーラムを怒らせておきながら、その責任をジグに取らせようとしたから。代わりに、お前が世話をしろ。どうだ、光栄で声も出んか。はっはっは!」
いやいやいや!!
「島長さま、わたしはただの旅人で、今はたまたまメリス島に来ているだけですよ?いずれはここを出て行く人間に、大切なガーラムを任せるのはいかがなものかと…」
「ジグに色目を使っておいて、今更だな。ジグを取り込んで、このメリス島を乗っ取る気であったのだろう?ちょうどいいではないか。許してやるから、この島に残り骨を埋めろ」
いやいやいやいや!!!
言いがかりも甚だしい。どんな思考回路してるの!
「とんでもありません。わたしは、たった10歳の小娘ですよ。それがジグなんか……あ、いや、ジグとは友達でもないし、色目なんか使い方もわかりません。それに、どうしてわたしなんですか?ガーラムの世話という名誉ある仕事なら、他にいくらでもやりたがる人がいるんじゃないですか?」
「ふふん。わしが知らないとでも思っているのか?」
え、なに、その不穏な笑い。気持ち悪い。
「お前、夜中にガーラムにちょっかいをかけているだろう。わしが、この目で見たんだ。言い逃れはできないぞ!」
あぁ、見られてたか…。注意したんだけどな。こんなおじいさんに見られるなんて、わたしもまだまだだなあ。で、わたしに利用価値を見出し、ニキのいないうちに取り込もうと乗り込んできたわけね。馬鹿だなあ。ガーラムの世話を任せたとたん、わたしがガーラムを連れて逃げるとか考えないのかな。あ、馬鹿だからわからないのか。
「逃げようなどと、考えるだけ無駄だ。次のガーラム便が来るまで、まだ7日ある。ニキは遠い本島だ。その間に、お前が素直に言うことを聞くようにさせるだけだ」
やっぱり馬鹿だ。わたしだって、伊達にハンターを名乗っているわけじゃない。ここでは旅人としているけれど。護身術くらい使えなくて、どうするというのか。この平和ボケしたア・ムリス国はほとんど魔物がいないけれど、大陸には多くの動物、魔物そして盗賊がいる。それらから身を守りながら旅をするのに、なにもできない小娘では生きていけない。
でも、できるだけ騒ぎは起こしたくない。ここは、素直に従うふりをするかな。
「わかりました。ガーラムのところへ行きましょう」
「そうか。素直でよろしい。わっはっは」
にやり
相手が油断しているときこそ、最大の勝機だ。わっはっは。
…というわけで、やって来ました。ガーラムがいる浅瀬。
陸地からでも、ガーラムの赤色がよく見える。ああ、怒ってるなぁ。そうだよね、ただでさえオッサムさんの声は聞きたくないのに、それが怒鳴り声となれば、意味もなく鞭打たれるかもしれないし、子供達の騒ぐ声まで聞こえたら、嫌がらせされているかもと思うよねえ。
すっかり頭に血が上っているから、冷静に話を聞いてもらうためには、本当なら静かに何時間もかけて話しかける必要があるのに。
さっきの騒ぎから、それほど時間も置かずに、また人間がやってきたら、また怒りがぶり返すよねえ。
ウルンサはわたし達の姿が見えたとたん、桟橋に体当たりをし始めた。もちろん、全力じゃない。そんなことをしたら、一撃で脆い桟橋なんか壊れてしまうだろう。
「ああ、大変じゃ!ガーラムが死んだら、王宮からなんと言われることか!」
そう。ウルンサとエレクはメリス島の所属だけれど、王宮所有なの。だから、本来なら傷もつけてはならないけれど、ウルンサは気性が荒い。多少の荒事はしかたないと思われているの。