39 少女救出作戦5
ひょいっ
ガロイアが大岩から降りて、こちらへやって来る。にこにこして嬉しそうだ。
「いや~、こんなに早くお嬢様を助けて来るのは思わなかったぜ。あんた達、大したもんだなぁ」
「…油を売っていていいのか。おまえが、魔物達に指示を出していたのだろう?早く、攻撃を止めるよう指示を出せ」
とうさまに言われて、ガロイアは顔をしかめた。
「俺はなぁ、こう見えて仕事が早いんだ。そんなこと、とっくにやってるぜ。おまえには、森の空気が変わったのがわからないんだろう」
言われてみれば、殺気だったさっきまでの空気と違って、今は穏やかになった気がする。言われて気づくなんて、わたしも未熟だな。
「そんなことより、セシル、俺の嫁にならないか?優しくするぞ」
わたしに向かって、ウインクしてくるガロイア。
「「ダメだ!」」
とうさまとレイヴの声が重なる。この2人、けっこう気が合うのかも。
「セシルは俺の嫁になるんだ」
「セシルはまともな男に嫁がせる
とうさまにそう言われて、固まるレイヴとガロイア。
「「俺がまともじゃないってことかー!」」
硬直が解けたと思ったら、同時に叫んだ。仲のよろしいことで。
「おまえ達のどこがまともなんだ。片方は人間も襲うドラゴンに、もう片方は獣と変わらん」
いつになく、表情豊なとうさま。2人に蔑むような視線を向けている。
たしかに、カー・ヴァイン国のデトラー領で、レイヴは好き勝手暴れていた。それも褒められないやり方で。デトラー領の人達には、かなり迷惑だったことは間違いない。なにしろ、討伐依頼が出ていたんだから。
ガロイアは、サテュロスなだけあって、半人半獣。体の半分が山羊だ。立派な山羊の角も生えていて、毛深い。そして身長は、人と変わらない。しかし、これで妖精だというのだから、世の中わからないものである。
「俺は、セシルのおかげで心を入れ替えたんだ。もう暴れない。強いし、かっこいいし、いい夫になるぞ」
自分でかっこいいって、言っちゃうんだ。たしかに、人間の基準で言ってもかっこいいと思うけど。
「セシルが、外見だけで相手を選ぶと思うのか」
「うぐっ」
なにやらダメージを受けるレイヴ。大げさに苦しんでいる。
「俺は優しいぞ。妖精だから長生きだし、大切な者が一生大事にする。俺について来い」
決めた!と思ったのか、再びウインクしてくるガロイア。
「優しさなど、演技でもどうとでもなる」
「え?」
「それにおまえが長生きでも、セシルはそうじゃない。セシルの老後を、おまえが看るのか?年老いて面倒看れなくなって捨てる気じゃないのか」
「うぐっ」
あ、ガロイアもダメージを受けてる。
それにしても、年老いた捨てられるって………姥捨て山?
わたしが変なことを考えている間も、とうさまは得意げな顔をして2人を見下ろしていた。この中で、とうさまが1番背が高いの。
「「セシルはどう考えているんだ!」」
レイヴとガロイアに詰め寄られた。
「えっと………レイヴは、わたしに懐いている大型犬みたいで可愛くて。ガロイヤはただの山羊っていう感じ」
率直に答えました。ええ。心の中で思っていたことを吐きました。
「「え?」」
明らかにダメージを受けている様子の2人。がっくりと膝をつき、うなだれている。
とうさまは嬉しそうだ。口元が歪んでいる。
「さてと。ベンドロの町の様子もになるし、早く町の戻るよ。レイヴ立って!」
レイヴの腕を掴んで立たせる。
「………ふふふっ。俺の魅力がわからないとは、セシルも子供だな………」
ぶつぶつ呟いてるのは無視した。相手をすると面倒そうな気がして。
「ガロイア。今回はお世話になりました。色々動いてくれてありがとう」
「いや、俺なんてただの山羊だし………役に立てたなら良かっ………ぐおっ」
ふらふらと立ち上がり、わたしに抱きつこうとしたガロイアをレイヴが蹴とばした。
「どさくさに紛れてなにしてんだ、このエロ山羊が!」
どうやら、見た目以上に元気なようだ。
「ちっ」
レイヴに飛ばされたガロイアは、見事な身体能力を活かして、空中でバランスをとり綺麗に着地した。うん。山羊だもんね。岩場に住む山羊もいるし、身体能力は優れているんだろう。
いつものように、とうさまがマジックバックから色々と道具や食材を出し、手際よく野営の準備をした。もちろん、わたしも手伝う。レイヴにも、テントの張り方を教えた。
「こんなことを覚えて、なんになるんだ」
「人間に紛れて暮らすなら、必要な知識だよ」
レイヴなら草地で寝れば済む話かもしれないが、他に人間がいるときは、やはりテント生活は大事だと思う。
ガロイアは一緒に食事をしていった。調味料をふんだんに使った料理に驚き、「こんな美味しいものは食べたことない!」と言って感激していた。妖精は空気中の魔素を取り込んで生きていけるので、食事は必要ないらしい。それでも、楽しむため森の実りを食べていたが、ちゃんと料理したものを食べたのは初めてのこと。少し、とうさまと打ち解けていた。