37 少女救出作戦3
「…さて。俺たちに、なにをわからせてくれるんだ?」
とうさまが、凄みのある睨みをきかせて禿男を見た。
禿男ががくがくと震え出し、膝が笑っている。情けない。これでも、この商会の商会主なんだろうか。人の上に立つ人間が、こんなに不甲斐なくていいんだろうか?
とうさまが一歩踏み出すと、禿男が一歩下がる。そんなことで、逃げられるわけがないのに。
「おい!おまえたち、なにをやっている!」
騒ぎを聞きつけた近所の人が、警史を呼びに行ったらしい。9人の警史がやって来た。その背後には、近所の人達がいる。
「おい、こいつらを捕まえてくれ!強盗だ!」
助かった!とばかりに、警史にすがりつく禿男。
「待て、その少女はなんだ?獣人か?いや、違うな。木人間?ええ?」
一方の警史は、リリムを見て大いに混乱している。
リリムはわたしの後ろに隠れ、ぶるぶる震えながらわたしの服を掴んでいる。
「この子はエントです。その男が、森から攫ってきたんです」
「「「「えええぇぇ~~~!」」」」
5人の警史がぽかんとしているが、もう4人の警史は知っていたらしい。声を揃えて驚いている。
「隊長、エントっていうのはなんですか?」
「森の守護者だ。動く木を知らないか?」
「え?動く木って言うと、根っこを足みたいに動かして移動するっていう大木ですか?」
「そうだ。それがエントだ」
「そのエントが、どうしてここにいるんだ?」
「マームさん、どういうことですかな?」
どうやら、禿男の名前がマームらしい。
「森のエント達は、この子が攫われて怒っています。それで、子供を取り返すために、魔物にこの町を襲わせているんです」
わたしは森でサテュロスに出会ったこと、エントから聞いた話を話した。
「そうか。そんな事情があったのか」
「早く子供を返さないと、スタンピードが起こりますよ。今はその前兆なんです」
「「「「なんだとおおぉ!」」」」
今度は警史全員の声が揃った。よく訓練しているんだね。
「よし!おまえ達、マーム一味を捕らえろ!」
「え?わしは悪くない!言いがかりだ!」
マームが叫ぶが、あっけなく捕まった。
「言い訳はあとで聞く。今は、スタンピードを防ぐのが先決だ!」
マームと用心棒達は、警史に引き立てられて行った。
残ったのは、警史の隊長とわたし達。
一刻も早くリリムを森に返してあげたいけれど、深夜の森を進むのは危険だ。よく見えないので、魔物に襲われた時に戦いづらい。枝や下草で怪我をしたり、足場が悪くなっているのに気づかず落ちてしまうかもしれない。とにかく、夜の森は危険なのだ。
そこで、朝日が出てから森に行くことになった。
時間まで門番の詰所で過ごすことになり、移動するわたし達。リリムちゃんは歩くのが遅いので、少し時間がかかった。
そして朝まで時間があるので、リリムちゃんには簡易ベッドで休んでもらった。疲れているからね。
わたしととうさま、レイヴは、隊長さんと門番、ギルドマスターとの打合せである。ギルドマスターは門番の1人に呼びに行ってもらったけれど、寝ていたところを起こされて眠そうだ。
「門番から聞いたんだが、スタンピードが起こるというのは本当か?」
ギルドマスターは渋い顔をしている。
「今のままだと、確実に起こる」
「その根拠は?」
「子供を攫われた森の守護者が怒っているからだ。魔物をけしかけているのは、エントの仕業だ」
門の外では今も魔物が暴れまわっており、門を叩く音や、咆哮がこの詰所にも聞こえている。
「それはわかったが、どうしてエントが的確な指示ができるんだ?相手はあののんびりしたエントだろう?」
「妖精サテュロスが協力している」
「サテュロス?なんだそれは」
「半人半獣の姿をした妖精だ」
「そんなのが森にいるだと?聞いたことがないが………」
サテュロスは美しい女性や美少年を好む。むさいハンターや猟師、樵の前には現れないだろう。自分はむさい山羊男のくせに、美しいものが大好きなのだ。
「それで、あの少女がマーム商会に囚われていたというのは本当か」
「そうだ。救出現場に、俺達が立ち会っている」
隊長さんが溜息をついた。
どうやらマーム商会は、このベンドロの町では有名な商会らしい。悪い意味で。ハンター達にも評判が悪く、商隊の護衛になりたがる者も少なかったそうだ。
「あの少女を返せば、スタンピードが止まるだな?」
「そう聞いている」
「ただし、少女を返してすぐスタンピードが止まるとは限らない。相手は、あのエントだ。少女の無事を確認しても、停止命令を出すまで時間がかかるだろう。その間、我々は持ちこたえなければならん」
「そうだな。ハンターギルドには頼りにしているよ」
そう言って、隊長がギルドマスターの背中を叩いた。
「少女の護衛は、エントと面識がある我々が務めます。無事に送り届けますのでご安心ください」
淡々と告げるとうさまの言葉に、ギルドマスター達は静かに頷いた。
今日は9時にもう1話投稿します。