36 少女救出作戦2
ぎいっ
隠し扉は錆びついていた。その音に、思わず体が固くなる。誰かに聞かれた?ううん。大丈夫。誰の足音も、物音も聞こえない。そのことに安心して、息を吐き出した。
あぁ、どきどきする!
隠し扉の向こうには階段が架けられていて、薄暗くなっていた。灯りがあるらしい。
レイヴ、わたし、とうさまの順に下へ降りて行く。
そこは、地下室になっていた。部屋の隅に木の格子で囲まれた場所があり、座敷牢になっていた。中に、うずくまっている茶色に物体がある。あれは………少女?
「あの………リリムちゃん?」
呼ばれて、少女は顔を上げた。お母さんそっくりの綺麗な目をしている。アムリリスと同じく、木の皮に体を覆われ、服は身に着けていない。ただし、疲れ切っているのか、やつれたような顔をしている。
代表して、わたしがリリムちゃんに話かけることになっていた。わたしが1番、警戒心を抱かせないだろうということで。
「わたしはセシル。アムリリスとガロイアに頼まれて、あなたを助けに来たの」
「え?お母さんを知ってるの?」
少女の顔に、少し生気が戻って来た。
「うん。今朝、会ったよ。のんびりしたしゃべり方をするよね」
「うん!ねえ、そっちのお兄ちゃんは………?」
「あ、彼は、レッドドラゴンのレイヴ。わたしの友達だよ」
「ひっ」
リリムが引き攣った顔で悲鳴を上げた。
もしかして、火を吐くレッドドラゴンはエントの天敵だったりして?
「そして、こっちはわたしのとうさまのニキ」
「ひえっ」
またしても悲鳴を上げるリリム。
やっぱり、わたしも来てよかった。うん。本当に。2人に任せていたら、どうなっていたことか。
「大丈夫。2人共、わたしの大切な人だから」
「どうして?だって、あなた人間でしょう?ドラゴンが怖くないの?それに、そっちの人は人殺し………ひいぃっ」
元暗部なので間違ってはいないけれど、とうさまもそう言われていい気分はしないだろう。口の端がぴくぴくしている。
「あはは。とうさまは、わたしを赤ちゃんの頃から育ててくれた優しい人だよ」
「………そうなの?」
「それに、レイヴは、ほら」
そう言って、レイヴの腰に抱きついて見せる。
「ね、怖くないよ」
レイヴはわたしが抱きついたことが嬉しかったらしく、頭にキスをしてきた。
それを見て、目を丸くするリリムちゃん。
「あ………うん、お姉ちゃんを信じる。でも、ここからどうやって出たらいいの?」
「とうさまが格子を切るから、壁まで下がって。そう、そこでいいよ」
ひゅんひゅんっ
ごとっ
とうさまの一太刀で………いや、二太刀で、格子が切れて出口が開いた。
すかさず、レイヴが浮遊魔法をリリムちゃんにかける。
地上すれすれのところに、ふわりと浮かび上がる体。それがおもしろかったのか、リリムちゃんは初めて笑った。
さて。リリムちゃんを奪還したからには、あとは退散するだけだ。
梯子を上がり、地上の部屋へ上がった。そこから手前の応接室に移動し、廊下の気配を探る。うん。大丈夫。
よほど油断しているのか、警戒心がないのか?………馬鹿なのか?
エントの子供を誘拐しておいて、なにも起きないなんて考えていないよね?
………うん。馬鹿ではなかったらしい。
店の裏口を出たところに、体格のいい強面の男達が待っていた。この商家の用心棒だろうか。
「どんな奴が忍び込んだかと思えば、まだ幼い子供も混じっているではないか。どこの手の者だ?」
寝巻姿ながら、身なりのいいでっぷりと太った男が話しかけて来た。頭は禿げ上がって、顔は脂ぎっている。
「さて。その娘は返してもらおうか。おまえ達には用のない物だ」
リリムがびくりとして、体を震わせる。
「…物だと?」
レイヴが怒りも露わに睨みつける。
「そうだ。そいつは化け物だ」
「………違う」
「いいや違わん。森に蠢く化け物の一匹だ。化け物は、殺そうが、食おうが、捕まえようが、人間様の自由だ」
人間至上主義者………か。
人間こそが、世界の頂点に君臨する至高の存在だと考えている連中だ。そして他の種族は………エルフやドワーフなどの人族も含めて、すべて人間より劣ると考えている。だから、他の種族にはどんな残酷なことをしても許させると、浅はかなことを考える。
考えるだけならしかたない。でも、実際に行動するのは別だ。許せない。
「あなたは………許しません」
怒りで、声が低くなる。
「だったらどうするね、お嬢さん」
禿男が横に退くと、傍に控えていた男達が前に出た。
「力づくでわからせてやりなさい」
「へへへっ。おまかせください」
用心棒らしき男達は、全部で5人いる。それぞれが剣を持っていた。
「………俺がやる」
レイヴも怒りに燃えていた。普段は黒い目が、怒りで赤くなっている。
夜の暗さのせいで、男達はそれに気づかない。
レイヴはすらりと剣を抜き、1人目の男の腹に剣を突き立てた。
瞬きする一瞬で、2人目の腕を切り、3人目は足、そして4人目は腹、5人目が腕と次々切りつけていった。一呼吸後に血しぶきが舞い散り、呆然とする男達。
「な、なっ、この化け物が!」
禿男は汚い油汗が吹き出している。
「うるさい。虫けら共め」
レイヴは道端の虫けらを見つめるように、蔑んだ視線を向けた。レッドドラゴンであるレイヴにとって、本来、人間はそのくらいの価値しかないのかもしれない。
「あなた達、早く怪我の治療をした方がいいですよ。特に、お腹を刺された人。それ、ちょっとずれていたら致命傷ですよね?」
「ひいぃっ」
情けない声を出して、後ろに後ずさる腹を刺された男。
0時投稿だとPVが残念なことになるので、投稿時間を9時に戻します。
ころころ時間を変えてすみません。
あんまりPVが少なくなると、モチベーションがだだ下がりになるので・・・




