33 山羊男
朝食のあと、国境側の門へ向かった。魔物が入って来ないよう、門は8時になるまで閉められている。門の周辺には、開門を待つハンター達が集まって来ている。門の外にいる魔物を討伐するためだ。
時間になって門が開けられると、皆一斉に外を目指した。全員が外に出ると、急いで門が閉められた。
夜のうちに森から出て来たらしく、辺りには何匹も魔物がいた。
「「「うおおおおお」」」
雄たけびを上げて、それぞれのパーティが魔物目がけて駆けて行く。
そんなハンター達を横目で見ながら、森に向かうわたし達。
わたし達は、じつはとってもバランスの悪いパーティだ。3人とも前衛で、魔法剣士1人、剣士1人、魔物使い1人。と言っても、わたしに使い魔はいない。でも、わたしは魔法が使えるから、後衛もこなせる。そう考えると、まぁ、バランスは良い方なのかも。魔術師が1人もいないパーティもあるからね。
そんなことをぼんやり考えながら、森を進む。
先頭は目がいいレイヴ。次にわたしで、最後がとうさま。たぶん、わたしがこの中で1番戦闘力が低いので、2人から守られる位置にいる。
レイヴはもちろんとうさまも、森の異変の元凶を見つける気でいる。原因を探るためにこの依頼を受けたんだから、当然よね。わたしだってそうよ。
途中、見かけた魔物や動物達は、向かって来る者だけ倒してマジックバックにしまった。全部を相手にしていたら、キリがないものね。
そして、日が暮れて森全体が暗くなってきたときに、そいつは現れた。
サテュロスだ!
山羊の下半身に、上半身は人間だが、山羊の耳と角があり、立派なあごひげを生やしている、半人半獣の妖精だ。少し開けた場所に大岩があり、その上に陣取っていた。
「なんだぁ、おまえ達、よくここまで来たな。………ん?おまえドラゴンだろう。匂いでわかるぞ。なぁんで人間なんかと一緒にいるんだ?」
「セシルは俺の嫁だ。夫婦は一緒にいるものだろう」
「「違う!」」
とうさまとわたしは同時に否定していた。
「そいつらは、違うって言ってるぞ。がっはっは」
サテュロスは愉快そうに笑った。
レイヴは不満らしく、しかめっ面だ。
「くっ………今は友達だが、いずれ嫁にする」
あ、言い直した。
「ふぅん。ま、面白ければなんでもいいさ。で、ここにはなにをしに来たんだ?」
「この森の魔物や動物が、スタンピードを起こしかけている。その原因を探りに来た。おまえが元凶か?」
「どうだろうねぇ。だったら面白いんだけど………残念ながら俺の仕業じゃない。まぁ、無関係でもないけどね。ふふふっ。あー、おもしろい。俺はサテュロスのガロイア。あんた、名前は?」
「レッドドラゴンのレイヴネルだ」
「レッドドラゴン!?」
ガロイアが大げさに驚いてみせた。
「こりゃまた、大物が現れたもんだ。小物の俺は、そろそろ退散しようかねぇ」
「待て。おまえは、この森でなにをやっていた?答えろ」
「そりゃあ、あるお方のご命令で、レイヴネルの旦那が心配していたスタンピードが起こるよう、魔物達を脅かしていたのさ。上手くやっただろう?あんた達があと少し遅ければ、スタンピードが起こっていたのにさぁ。つまんないよ。でも、まぁ、楽しめたからいいや」
そのとき、とうさまがわたしの前に出た。
「あるお方とは、誰のことだ」
「ん?俺は、人間の男には興味がないんだ。答えたくないね。………そっちのお嬢さんだったら、答えてもいいかな」
「え、わたし?」
そういう判断基準なんだろう。性別の問題だったら、レイヴもダメだろうし。ガロイアの言う通り、人間の男だけがダメなんだろうか?
「うんうん。顔だけじゃなくて、声もいいね!」
妙にテンションが上がったガロイア。大岩からピョンと飛び降り、スタスタと歩いて近くへやって来た。
「ふふふっ。可愛いねぇ。言ってごらん?俺になにが聞きたいんだい?」
うわっ、山羊男、気持ち悪い。
「え、ええと………ある方って言うのは、誰のことですか?」
つい、腰が引けてしまう。
「エント様だよ。わかる?木々を守り育てる、森の守護者さ。あのお方を、人間共が怒らせた。これは人間への復讐なのさ」
びっくりだ。エントは大木の姿をした魔物で、その性質は大変穏やかで、気も長く、行動もゆっくり。話す言葉はゆっくり過ぎて聞き取れないほどだ。そのエントを怒らせるなんて、なにがあったのだろう?
「なにがあったんですか?エント………様が怒るなんて、滅多にないことですよね」
「お、知ってたか。そうそう。エント様は温厚なんだよ。でも、子供を攫われちゃあ黙っていられないだろ?」
「「「ええ?」」」
エントの子供を攫う?どうやって?大木に育つエントだけど、子供のうちは小さいのかな?人間が攫えるくらい?それって………エントの赤ちゃん?なるほど。幼木なら、掘り起こして運べるかもしれない。
今日は9時にもう1話投稿します。