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32 泥棒退治

「………はぁ~」

 朝起きて目の前に飛び込んできた光景に、思わず溜息が漏れた。

 レイヴがベッドの枠に腕を置き、その上に顔を乗せてわたしを見ていた。

 本当に………いつ寝ているんだろうか。

 腕を伸ばすと、レイヴはわたしの手を取り、嬉しそうに自分の頬に当てた。

「セシルはあったかいなぁ」

「ちゃんと寝てるの?」

「もちろんだ」

「いつも、わたしより早く起きるのね。どうして?」

「セシルが起きる時は、気配でわかる」

「え?」

 どうしよう。起きる前に動くとか、変な癖でもあるんだろうか?恥ずかしいな。


 レイヴがクスクス笑い、わたしの頭を撫でた。

「いつまでもそんな男の腕の中にいないで、こっちへおいで」

 振り向くと、とうさまがレイヴを睨んでいた。

「とうさま、おはよう」

 わたしが笑いかけると、標準装備の無表情へと戻った。

「手を離してね。顔を洗ってくるわ」

 腰から手を離してもらい、ベッドから降りた。

「俺も行こう。1人は危ない」

「平気よ」

 断ったけれど、レイヴがついてきた。


 中庭に出て、井戸の傍へ行った。水魔法で両手に水を溜め、それでバシャバシャと顔を洗う。

 清浄魔法も使えるけれど、水で顔を洗う方が気持ちいい。さっぱりする。

「お、昨日、飯を奢ってくれた嬢ちゃんじゃねえか。ありがとうな」

 突然、見知らぬおじさんに話しかけられた。誰だろう?昨日、食堂にいたハンターかな?

「食材を出したのは、とうさまですよ。お礼なら、とうさまに言ってください」

「いや、あれは嬢ちゃんが言ってくれたからだろ。だから嬢ちゃんに礼を言うのはあたりまえだ」

 う~ん。このおじさんは、何が言いたいんだろう。本当に食事のお礼が言いたいだけ?

「いや~、あのマジックバックの容量にはたまげたな。まだまだ入ってるんだろう?すげえよな」

 あ、とうさまのマジックバック狙い?譲るわけがないでしょう。

「とうさまなら、まだ部屋にいますよ」

「だからよぉ、嬢ちゃんが頼んでくれりゃあいいんじゃねえかな」

「意味がわかりません」

「つまり、だ。嬢ちゃんを人質にすれば、あの男もマジックバックを手放すだろうぜ!」


 あぁ、そういうことか。レイヴがいてもおかまいなしか。ふ~ん。なるほどねぇ。わたしを人質にして、とうさまからマジックバックを奪い取るってわけか。ふ~ん。そんなことができると、本気で思っているわけか。へぇ~。

「………心を折らなきゃダメですね」

「は?なに言って………ぐえっ」

 男が剣を抜く前に、鳩尾みぞおちにパンチをした。もちろん、身体強化の魔法は使っていない。あの魔法を使えば、この男を殺してしまうだろうから。

 一旦、男から離れ、うずくまる男を観察した。装備に傷はあまりなく、決して綺麗ではないけれど使い込まれてもいない。毎日、住民のために魔物を狩るハンターとは違うらしい。

「このぉ………ガキが!」

 男が剣を抜き、向かって来た。剣が大振り過ぎる。無駄な動きが多い。そしてなにより、遅い。


「ぐおっ」 

 剣を避けて男の懐に潜り込み、さらに2発。さらに手刀で剣を叩き落とし、落ちた剣の切っ先を男の喉元に突きつけた。

「ま、待て!待ってくれ!」

 男は両手を上げて、降参のポーズをとった。

「なにを待つ必要がありますか。今更、言い訳でもするつもりですか。わたしを人質に、とうさまからマジックバックを奪うと告白したあとで、まだなにか言い足りないことでもありますか」

 今、わたしは怒っている。わたしは自分が利用されることも、大切な人が利用されるのも許せない。

「いや、俺が悪かった。謝る!本気じゃなかったんだ。出来心で………ぎゃっ」

 男の足を剣で払い、男を後ろに転倒させた。そして再び、喉元に剣を突きつけた。

「あなたを、盗賊行為で警史に突き出します。ハンター資格ははく奪になるでしょう。犯罪奴隷として、きっちり反省してください」

「なんだと!俺はなにもやっちゃいねえよ!手も出さなかっただろ」

「手を出せなかった、の間違いでしょう」


 言葉を切り、野次馬を見回す。洗濯物を欲しに来ていた宿屋の女性や、朝の支度のため井戸に水汲みに来ていた女性ハンターがいる。男の位置からは視角になって、最初から最後まで気づかなかったらしい。

 そういうところも抜けている。

「すみません。どなたか、警史を呼んでくれませんか?」

「わたしが行こう」

 女性ハンターがそう言って、速足で去って行った。

「あと、ロープをお借りできますか?」

「あ、あぁ、いいわよ。待ってて」

 そして、借りたロープで男を縛り上げ、やって来た警史に引き渡した。

「こいつは悪さばかりするんで、我々の方でも目をつけていたんだが、証拠がつかめなくて困っていたんだ。君が無事で良かった。協力、感謝する!」

 警史から感謝の言葉を貰い、ようやく少しやり過ぎたかも、と反省するのであった。


「………というわけで、盗賊を捕まえていたの」

 朝食の席で、とうさまに事の顛末を説明していた。あれだけ騒いで、黙っているわけにはいかない。気まずいが、自分でしでかしたことなのでしかたない。

「レイヴはなにをしていた」

「俺は見てただけだ。セシルが、人間にしては強いことを知ってるからな」

「そうか。セシル、あまり無茶はするな」

 そう言って、とうさまは食事に戻った。


 これまで9時に投稿していましたが、0時の方が読みやすいかと思い、投稿時間を変更することにしました。

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