31 森の調査依頼
オ・フェリス国は中立国で、アステラ大陸は珍しく獣人も暮らしている。だから話には聞いていたけれど、旅に出てまったく獣人に会わないことはびっくりしたなぁ。ア・ムリス国なんて、魔法を使える人がほとんどいないし。
そういえば、もうすぐわたしの誕生日じゃない?そっかぁ。もう、ハンターになって1年経つんだなぁ。早いなぁ。
「…セシル、ここにいたのか」
「とうさま!」
後ろから声をかけられて、振り向いた。そこには、優しく頭を撫でてくれるとうさまがいた。
「宿屋の受付にいた子だな。仲良くなったのか?」
「ううん。ちょっと、ここで考え事をしていただけ」
「そうか。もうすぐ朝食が食べられるぞ。行こう」
「は~い」
食堂でレイヴも一緒に朝食をとったあと、皆でギルドへ向かった。
かららん
ギルドに入ってすぐ、依頼ボードを眺める。とうさまとレイヴが壁になってわたしを守ってくれるおかげで、他のハンターに邪魔されずに依頼ボードを眺めることができた。
う~ん。魔物の討伐依頼が多い。それも、国境の町ベンドロに集中している。ただでさえベンドロの町手前の森は魔物が多いのに、これじゃあ、商人が行き来できない。でも、こうも何件も討伐依頼があると、どれを選ぶか迷ってしまう。
「これは、なにかあるな。森に強敵でも出現したかぁ?」
レイヴが嬉しそうに呟く。
そうか。森に異変が生じて、森から魔物達が逃げ出してきたかもしれないのね。だとすると、受けるべき依頼は………
「森の調査依頼、か」
それだ!
「今は、国境方面は危険ですよ。他の依頼にされては………」
受付嬢の心配はありがたいけれど、問題が起きているのなら、調査するのがあたりまえ。それに気になるじゃない。何が起きているのか。
「危険は承知の上です。それに、依頼は受けるためにあるのでは?」
「うっ。わかりました。受付処理致します」
ベンドロの町まで護衛依頼があればよかったんだけど、あいにくなかったので乗合馬車に乗る。荷馬車で5日の距離だから、乗合馬車ならもっと早く着けるはず。
途中、時々、現れる魔物を倒す以外は特別なこともなく、無事に4日半で国境の町ベンドロに着いた。
高い塀に囲まれたベンドロの町は、物々しい雰囲気に包まれていた。襲い来る魔物に備えているのだろう。完全装備の警備兵が絶えず巡回し、ハンター達も油断ない雰囲気を纏っている。恐怖に駆られた住民が、暴動を起こすことも警戒しているかもしれない。
まずはギルドへ行って情報収集だ。
かららん
ハンターギルドに入ると、中にいたハンター達とギルド職員の視線が集中した。情報収集に寄っただけなのか、仲間として魔物退治を行う者なのか、見定めるように。
「王都から、森の調査のためやって来ました。Cランクパーティです」
名乗りを上げると、皆、好意的な目で見てくれた。どうやら、仲間と判断されたらしい。
「どうぞこちらへ。依頼内容をご説明致します」
受付嬢に呼ばれて、受付カウンターへ行く。
今回はギルドマスターではなく、受付嬢が説明してくれるらしい。
「お受けになった依頼は、森の調査ですね。現在、国境周辺の森で魔物が急増していることはご存じですね。その異変を探るため、森になにが起きているか調べていただきます」
それは、森の外での魔物退治と比べて、どちらが危険なのだろう。いや、比べるまでもなく、森での調査の方が危険に決まっている。ただし、討伐は対象外なので、魔物が現れても逃げればいい。
受付嬢の話では、最近、森から出てくる魔物や動物が多く、森の中でも魔物が大量発生しているらしい。いつスタンピード(魔物の集団暴走)を起こすかもわからず、ベンドロの町では警戒態勢に入っているとのこと。だから、ハンター達は日々、魔物退治に追われている。それでも魔物は一向に減らず、傷ついたハンターが増え、戦力の面でも心配が出てきているそうだ。それで各地からハンターを募集しているが、避けられて、ハンターが不足する事態になっている。
森の中で、なにか異変が起きているのは間違いない。
「………それで、原因となるものを突き止めるか、または3日間の調査をお願いします」
「はい」
ギルドを出て、宿屋に向かった。
気にしてみると、町の人達は皆速足で、一直線に目的地に向かっていた。怯えているのだと、その背中が語っている。無理もない。いくら頑丈な塀に囲まれているとは言っても、いつスタンピードが町全体が襲われるかわからない。そうなれば、もはや逃げ道はないのだ。
宿屋はハンターで混んでいて、なんとか2人部屋を抑えることができたが、料金は3人分取られた。こんな時に儲けようとしなくてもいいのに、と思わずにはいられない。
商人が来ないので食材が不足気味らしく、食事は物足りなかった。なので、食材を提供して食堂にいた人達にも料理を振舞った。森から魔物や動物がやって来るので、肉は豊富にある。野菜や果物が足りなくて、それが喜ばれた。毎日、町のために戦っているハンターだもの。しっかり栄養をつけなきゃね。
夜は、とうさまとわたしが同じベッドを使い、もう1つのベッドをレイヴが使うことになった。
「ふんっ」
「ぐぬぬっ」
どこか嬉しそうなとうさまとは対照的に、レイヴは歯ぎしりして悔しがっていた。
そうして、夜は更けていく。




