29 ドワーフの里3
次の日、様々な工房を見学させてもらった。
どの工房でも、レイヴがレッドドラゴンの鱗を持ち込んだことが知られていて、「もうないのか」と聞かれた。レイヴの鱗なので、お願いすれば数枚はくれるかもしれないけれど、それをお願いするのは心苦しい。
だって鱗だよ?剥がすのは絶対に痛いし、また鱗が生えるまで時間もかかると思う。軽々しく頼んでいいことじゃないと思う。
それに、絶対に出所を探られる。貴重なレッドドラゴンの、傷のない状態の鱗だよ?そんな貴重な品を、どこで手に入れたか、知りたくない人はいない。今回の分は、以前のドラゴン討伐の時に手に入れたと言えるけれど、そんなに何枚も手に入れられるのはおかしいもんね。
あ、わたしも短剣を作ってもらえば良かった。失敗したかな。う~ん………う~ん………やっぱり、わたしには分不相応かも。たしかに良い物になると思うけど、使いこなせないともったいないよね。
そうして工房巡りで時間が過ぎ、一日が過ぎて行った。
翌日、昼前にホランドさんの工房へ向かった。少し約束の時間より早いけれど、少しくらい待ってもいい。そう思っていたら、ホランドさんはすでにできあがった剣を持って、レイヴの到着を待ってくれていた。
今日はお酒の匂いもしない。
「鞘はあり合わせで申し訳ないが、これで我慢してくれ。完成品には、ちゃんと鞘も用意するからな」
「それでいい。それより、早く剣を見せてくれ」
「ほら。見てくれ」
ホランドさんからレイヴが剣を受け取り、剣を鞘から抜いた。赤い刀身が美しい文様を描いている。刀身は40センチほどと短め。完成品を受け取ったら、予備武器にするつもりなのかもしれない。
ひゅんっ
剣を振ってみて、重さを確かめている。
「うん。良い感じだ」
「良かった。急いで作った割には、いい出来だと思っている。これは、俺からのプレゼントだ」
そう言って渡されたのは、剣帯。そうだね。剣帯がないと、剣を手に持ってないといけないもんね。
色々としてもらって、肝心の料金が気になるところだけど。素材持ち込みなので、材料費はそれほどかかってない。1番高いのは素材なので、工賃や鞘、剣帯の費用を払うことくらい、大したことがない。完成品の剣を作った後の鱗の残りは、お礼としてホランドさんに譲ることになっている。そして、鱗の残りの代金が2本の剣にかかる費用より高いので、剣の作成費用と相殺することで合意している。
「さあさあ、行った、行った。乗合馬車が出ちまうぞ」
ホランドに追い立てられるようにして、工房を後にした。
レイヴはとうさまから借りていた短剣を返し、自分の剣を腰に佩いた。うん、似合うね。
急ぎ足で里の広場へ行くと、すでに乗合馬車は来ていた。
「やあ。あんたも剣を買ったんだな。どこで買ったんだ?」
来る時に一緒だったハンターが声をかけてきた。
レイヴは腰の剣を撫でながら「ホランドのところだ」と答えた。
「「ええ?あの名工ホランドか?」」
どうやら、有名な人らしい。
「店には並んでなかっただろう?どうやって手に入れたんだ?」
「素材を持ち込んだんだ。喜んで作ってくれたよ」
「へえ。どんな素材だろう。その剣、見せてくれないか?」
「断る」
「「えええぇぇ~~~!」」
その後、ハンター達がどんなに頼んでも、レイヴは剣を抜いて見せることはしなかった。自慢できるチャンスなのに、どうしたんだろう?あんまり嬉しかったから、秘密にしておきたいのかな。使う時には、相手に見られるのに。可愛いところもあるのね。
ドワーフの里から王都まで、また乗合馬車に1日揺られて旅をした。野営をする時にレイヴが嬉々として狩りに行き、大量の動物を狩って戻って来た。さすがドラゴン。力持ちだった。新しい剣を使うのが楽しくて仕方ないらしい。獲物は美味しくいただき、残りはとうさまのマジックバックへしまった。
乗合馬車は昼に王都に着き、わたし達はギルドへ向かった。
かららん
おなじみのドアベルの音が鳴る。
前にも来たので、ギルドにいたハンター達は、わたし達に特別な興味を示さなかった。
依頼ボードを眺め、面白そうな依頼を探す。残念ながら、昼過ぎとあって良い依頼は残っていなかった。情報ボードを見ると、ア・ムリス国にクラーケンの群れが現れたことが書かれてあった。
「クラーケンか。美味そうだな」
そういえば、レイヴにクラーケン料理を出したことがなかったかも。最近は野営で、その場で狩った獲物ばかり食べているからね。
「美味しいよ。とうさまが持ってるから、今度、一緒に食べようね」
わたしに言葉を聞き取ったのか、飲食コーナーにいたハンター達がぎょっとした顔をした。うん。たぶん気のせい。
そして今日は時間があったので、久しぶりにお風呂に入ろうと宿屋を探した。ちょっといい宿屋で、お風呂がある宿となると、1軒しかなかった。お風呂が給水や湯沸かしに手間がかかるので、安宿にはないのだ。そして、普通はちょっといい宿屋程度では、なかなかお風呂を維持することは難しい。そんな宿屋を応援するために、王都滞在中はその宿屋に泊まることを決めた。




