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「そういえば。クロヴィス、レイヴ達の部屋は用意してくれてるの?」
「あぁ。俺達の私室に近い場所に用意してある。セシルが………」
「えっ、ありがとう!わたしが寂しくないようにしてくれたの?嬉しい」
嬉しくなって、クロヴィスの手を握りその顔を見上げた。
「いや、ちがっ………まあ、いいか」
「………??」
なんだろう。わたし、なにか間違えたのかな?
わたしが頭に疑問符を浮かべている間に、クロヴィスはわたしからフィーを引き離した。
フィーは表情で「離れたくない」と訴えたけれど、抵抗することはなかった。ちらりとわたしの胸元のペンダントを見て、首を傾げただけだ。
「いいかおまえら。俺は、おまえ達を遊ばせるためにこの城へ入れたわけじゃない。ままごとがしたければアステラ大陸へ帰れ」
レイヴ達に向かって、クロヴィスは突然、そう話を切り出した。
「この城に、セシルの傍にいたければ、己が役に立つことを示せ。役に立たないとわかればすぐに追い出す。わかったな?」
レイヴ達は、クロヴィスの言葉に怒るでもなく、目をキラキラさせて力強く頷いた。
ちょっと待って。いまの話のどこに、目をキラキラさせる要素があったの?
「つまり、俺達が能力を認められれば、セシルの傍にいてもいいってことだろ?いいぜ。やってやるよ。あとで後悔しても知らないぜ」
意気揚々と宣言したレイヴの言葉を聞いて、合点がいった。
あぁ、そういうこと?クロヴィスはレイヴ達を試して、わたしの傍にいるに相応しいか見極めようとしているってことね。レイヴ達は、自分達の価値を示すことで、この城から追い出されないようにする。お互いに利点のある取引というわけだ。
「私はセシル様にお仕えする侍女ですから、いますぐにでもお役に立てますよ。セシル様、何なりとお申し付けください」
「え、ごめん。いまは特に用事はないかな?」
そう言って断ると、ニコニコと微笑んでいたエステルの表情がほんのわずかに崩れた。でもすぐに持ち直し、見事に控えめな侍女スマイルを浮かべている。
「僕は、知識でセシルの役に立てるよ。セシル、なにか知りたいことはない?」
フィーは生まれてそれほど経たない怪鳥ツァラの子供だけど、
「う~ん。わたしね、魔大陸に来てから魔法の威力が上がってるの。どうしてだがわかる?」
「魔法の威力が上がってるの?どんなふうに?」
騎士団や魔導師団で魔法を使ったときの状況、魔法の効果などを説明すると、フィーは「うんうん」と頷きながら聞いてくれた。
「なるほどね~。セシルの魔法の威力が上がっているのは、よくわかったよ」
「それで、原因はわかったの?」
「うん。セシルはレェスラ症だよ」
聞いたことないな?
「エルフの医者レェスラが発見して、その名がつけられた症状なんだ。魔法が、大気中の魔素に反応して様々な現象を起こしていることはわかるよね」
「うん」
「そう。それで、魔法の威力を高めるには、魔力を高めるとか、何度も繰り返し同じ魔法を使って魔法に慣れるとか、触媒となる魔道具を使うという方法がある。でね、どの方法でも魔素濃度や親和性が大事になってくるんだ」
「それもわかるよ」
「それはよかった。で、ここで問題。魔素と、魔法を行使する者との親和性ってなに?」
「ええと………簡単に言うと、相性のよさ?」
「正解!」
フィーは手を叩いて喜んだ。
「そう、答えは”相性のよさ”なんだ」
「どういうこと?」
「この地の魔素が、セシルと相性がいいってこと!」
「えっと………」
「セシルが望めば、魔素が応えてくれるよ。その証拠に、魔法をいくら使っても疲れなかったでしょ?」
魔法をいくら使っても疲れない、ということはないけれど、アステラ大陸で魔法を行使するより負担はかなり軽く済んだ。魔法の威力は桁外れに上がったのに、消費する魔力がわずかということは、フィーの言う通りレェスラ症なのかもしれない。
「それにね、レェスラはこう言っているんだ。「これは、神からの祝福であり、大地に愛された証拠」だって」
「もうっ。フィーっては、大げさなんだから」
「僕じゃないよ。レェスラが言っているんだよ」
フィーはプンプンと怒ってみせたあとで、クロヴィスに向かって胸を張った。
「どう?僕は役に立つでしょう?」
「レェスラ症のことは、俺も知らなかった。………いいだろう。おまえがセシルの傍にいることを許可する」
「ありがとうクロヴィス。フィーを認めてくれて、嬉しいよ」
「大したことじゃない」
クロヴィスはつまらなさそうに言ったけれど、わたしが笑顔なので、つられて頬が緩んた。
クロヴィスがフィーを認めてくれたので、嬉しい気持ちでいっぱいになった。
好きな人が、大切な仲間を認めてくれた。それが嬉しかった。