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274 家族になろう

「セシルーーー!!」

 図書室へ向かっている途中で、突然現れたディーに抱き締められそうになった。シルヴァと護衛騎士が庇ってくれたので、大丈夫だったけれどね。

「なんで邪魔するの!僕はセシルに挨拶しようとしただけじゃないか!………って、君がシルヴァか」

 わたしの正面に立つシルヴァに対して、ディーは興味津々といった様子で眺めている。


 ここは塔と塔を繋ぐ空中回廊のひとつで、腰までの高さの塀が回廊には設置されているものの、上部は開いていて柱と柱の間は通り抜けができるようになっている。さっきまで空を飛んでいたディーは、わたしを見つけると向かってきて、抜群のタイミングで人型に変身し隙間から体を滑りこませて来たの。

 わたしとディーとの間に立ち塞がったシルヴァにぶつかることなく踏み止まり、いまはシルヴァを色んな角度から眺めまわしている。


 シルヴァの背後から顔を出すと、ディーと目が合った。

「セシル、この悪魔はいいね。うん。実にいい!」

 なにがいいのかわからなかったけれど、褒められたのは純粋に嬉しかった。

「でしょ?シルヴァは頼りになるんだよ」

「くふふっ。お褒めにあずかり光栄です」

 そう言うシルヴァは、執事らしい落ち着いた服装をしている。わたしを振り返り、お辞儀する仕草も慣れているように見える。本来は、下位の者にかしずかれる上の立場の者なのにね。


「シルヴァ、僕はドラゴンの王ディードランストだ。気軽にディーと呼んでくれてかまわないよ」

 対するディーは、貴族のように華やかな装いだ。黒髪は腰まであり、一見すると女性的にも見えるけれど、鋭い金の瞳が只者ではないことを物語っている。服の上からでも体を鍛えていることがわかるほど筋肉が盛り上がっていて、でもガチムチというわけじゃない。しなやか、という言葉が一番しっくりくる。


「ディードランストですか。覚えておきましょう」

「えぇぇ、ディーって呼んでくれないの?………まぁ、おいおい慣れてくれればいいよ。もしかしたら、お互い、セシルの夫になるかもしれないしね」

「どういう意味でしょうか」

「ちょっと、ディー!?」

「だって、僕もシルヴァもセシルのことを好きでしょう?喧嘩なんかせずに、皆一緒にセシルと結婚すれば丸く収まるじゃない」

「そんなことしないからね!」

 皆一緒にわたしと結婚だなんて、そんなことありえない。

 

「僕はね、気に入った者とは争いたくないんだ。シルヴァのことは気に入った。もちろん、クロヴィスも大好きだよ。だから、皆仲良く家族になろう!」

「………家族?」

「そう。家族。ねえセシル、家族になろうよ。大切にするよ。それに、夫が沢山いれば、いつも誰かがセシルの傍にいて守ることができるしね。あ、もちろん、セシルが弱いって言ってるわけじゃなくて。不測の事態に対する備えみたいな?セシルひとりじゃ難しいことも、助けることができるよ。ね、いいでしょ?」


 家族になるという言葉は魅力的だけれど、複数の夫ができるというのは、わたしには無理。そんなに愛情を向けられないし、相手の愛情に答えられない。それにわたしが好きなのはクロヴィスだけで、他の皆は友達や仲間としての好きだから、好きの種類が違う。

 それに、クロヴィスのことは好きだけれど、まだ結婚とか考えられない。

 

 わたしはにっこり微笑んで、きっぱりと言った。

「皆一緒は無理」

「うん。わかった」

 ディーがあっさり引き下がったので驚いた。

「でも、諦めないからね。10年でも20年でも待つからね」

「えぇぇ、そんなに経ったらわたしもおばさんになってるよ。20年も経ったら諦めてよ」

「いいや。きっと綺麗な女性になってるよ。僕はいつまでも待つよ」

 そんな自信満々に言い切られても………。


「そういえば。どこへ行くの?僕も一緒に行っていい?」

「図書室へ行くところだよ」

「なにか調べもの?」

「うん。ここに来てから、魔法の威力が上がってて。その原因と対策を知りたかったの」

「へえー。それは面白いね。僕も一緒に調べてあげるよ」

「ありがとう。でも、シルヴァがいるから大丈夫だよ。シルヴァはすごい速読だから、ひとりで何人分もの仕事ができるの」

「それはすごいね。じゃあ、僕も頑張らなくちゃ」

「え、あれ?」

 ディーはやる気満々で、とても、来なくていいと断れる雰囲気ではなくなってしまった。

 まぁ、人手が多い方が早く作業も終わるし、いっか。


 図書室に入ると、3階まで吹き抜けになっていて、1階部分には読書スペースと本棚があり、壁に作り付けの本棚にもびっしりと本が並べてあった。図書室を管理している司書達の姿をちらほら見かける。受付カウンターにも人影がある。

「ここは、比較的新しい本が収めてあるんだよ。古い本は下の階で保管、修繕、書き写しなんかをやってる」

 紙は時間が経つとボロボロになっていくもんね。

 そういえば。図書室に窓はない。代わりに魔道具の明かりが本を照らしている。


「まずは、魔法、魔術関連の書物から調べてみようか」

「うん。そうだね。シルヴァ、頑張ろうね」

「はい。お任せください」

「えぇぇ。僕には、頑張ってって言ってくれないの?」

「うん?ディーも頑張って」

「うん!やる気出た!」



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