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273 好き?!

 クロヴィスは目を閉じて、体の力を抜いた。

 わたしに身を任せるってこと?

 なにをしてもいいの?

 ドキドキする。心臓がうるさい。

 恐怖心が消えたわけではないけれど、それでも、クロヴィスに触れたいと思う。

 ソファを降りて、クロヴィスの正面に立った。

 すると、クロヴィスが両手を動かそうとして、やっぱり止めて膝の上で拳を作った。

 自分からは、わたしに触れないという意思表明なのかもしれない。


 それに勇気を得て、クロヴィスの顔に手を伸ばした。なにかを我慢するかのように、その口は引き結ばれている。くちびるに触れると柔らかい。次に頬に触れて、赤い髪に手を差し入れた。

 気づいたときには、クロヴィスの頭を胸に引き寄せて抱き締めていた。

「………セシルが、俺に怯えて逃げるのが怖かった」

 クロヴィスのくぐもった声が聞こえた。

 もし、わたしが逆の立場だったらどう思うだろう?と考えた。

 クロヴィスがわたしを嫌がって避けるようになったら………それはショックだし、悲しい。好きな人に避けられるのは、とてつもなく辛い。

 ………あれ?好き?わたし、クロヴィスが好きなの?うそぉっ!?


 がたんっ


 クロヴィスから距離を取ろうとして、テーブルに足を引っ掛けてテーブルの上に座ってしまった。

「どうした?」

 目を開けたクロヴィスが、周囲を伺うように見回し、なにごともないとわかると、不思議そうな表情でわたしを見つめてきた。

 まずいまずいまずい!心臓が早鐘を打つように早くなっていて、顔がのぼせたように熱い。


 わたしはすっと立ち上がると、すすーっとクロヴィスから離れ、後ろ向きで扉に近づいた。

 その様子を、クロヴィスが怪訝な表情で見つめている。

 わたしが怯えているようでもなく、それでもクロヴィスから距離をとっていることが納得できないという顔をしている。

 このまま、なにも言わずに部屋から出て行けば、またクロヴィスを傷つけてしまうかもしれない。

 でも、わたしの全身が、この場から逃げたいと言っている。

 突然悟った自分の恋心に、どうしていいかわからないの。


「セシル?」

 だめだ。クロヴィスが不安そうな表情をしている。このまま置いていくことはできない。

 深呼吸を繰り返しても、心臓の鼓動はゆっくりにはならない。泣きそう。

「セシル、どうした?」

 クロヴィスが努めて優しい声を出そうとしているのがわかる。

 優しい、優しい気遣いに、涙が溢れる。

 そのとたん、クロヴィスが泣きそうな顔をした。

 もうだめだ。黙っていることはできない。


「あの………ね」

「あぁ」

「クロヴィスが好き」

「!!」

「好きって気づいたら、どうしていいかわからなくなって………逃げたくなって………でもクロヴィスを傷つけたいわけじゃなくて………きゃあっ」

 瞬間移動で目の前に移動してきたクロヴィスに抱き締められた。

「ちょっと、クロヴィス!やっ………んうっ」

 抗議の言葉が飲み込まれる。

 クロヴィスのキスのせいで、体が蕩けそうだ。

 

 いつの間にか、涙は止まっていた。

 全身を言いようのない快感が巡って行き、足から力が抜ける。

 そんなわたしをクロヴィスが抱き上げて、満足そうに笑った。

「俺もセシルが好きだ」

 わたしを大切な宝物であるかのように優しく抱き締めながら、クロヴィスは再びソファに座った。

「腹が空いただろう。そろそろ飯にしよう」


 そうだった!ラーシュに昼食の用意を頼んだままだった!

 いきなりラーシュが執務室に現れないでくれて助かった!

 だけど、入って来ないということは、部屋の中が立ち入ってはいけない雰囲気ということをわかっているということだ。

 は、恥ずかしい!

 キスしてたのもバレてるのかな?

 というか、クロヴィスの膝の上で抱っこされているいまの姿も恥ずかしい。


「あの、クロヴィス。降ろして」

「なぜだ」

「恥ずかしいからっ」

 てっきり、だめだと言われると思ったのに、クロヴィスは渋々ながら「わかった」と言ってわたしを膝から降ろしてくれた。自分の隣にわたしを座らせると、クロヴィスはラーシュを呼んだ。


 ラーシュの他、シルヴァや侍女達も執務室に入って来た。

 シルヴァは、わたしとクロヴィスが並んでソファに座っているのを見てつまらなさそうな表情をした。

 侍女達は、微笑ましいものを見るような視線を寄越してきた。

 昼食は侍女達からの生暖かい視線を感じながら食べた。

 居心地が悪くて、ご飯の味なんてよくわからなかった。


「じゃあ、わたしは行くね。仕事頑張って」

 食後のお茶を飲んで一息つくと、そう言ってから立ち上がった。

「どこへ行く?」

 クロヴィスがわたしの手を取り、撫でて来た。

「う~ん。図書室へ行こうかな」

「ここからは遠いぞ。ラーシュに送らせるか?」

「普通に歩いていくからいいよ。ラーシュには仕事を手伝ってもらって」

「そうか」


 仕事をするのが嫌なのか、わたしの離れるのが嫌なのかわからないけれど、クロヴィスは残念そうだ。

 撫でていたわたしの手のひらを返し、そこに軽くキスをした。

「もっ、もう行くね!」

 クロヴィスの手から自分の手を引き抜き、シルヴァと、扉の外に控えていた護衛騎士を連れだって図書室を目指した。



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