27 ドワーフの里
グ・ランヴィル国の王都へ向かう護衛依頼はなかった。面白そうな依頼も。あるのは常時依頼の薬草採取と魔物討伐。
ここでは依頼を受けずに、先に進むことになった。
グ・ランヴィル国の王都へ向かう乗合馬車には、初老の男性と、親子らしき男女と娘、ハンター装備の男が2人乗っていた。わたし達を入れて、総勢9名だ。魔の森を大きく迂回するように進むため、王都まで7日かかる。
初老の男性は別の商家に務める番頭さんで、嫁いだ娘の所で休暇を過ごした帰りだった。
女の子はわたしより年上の12。少女が王都の商家で働くことが決まり、夫婦して送って行く途中とのこと。成人前だけど、この世界は10歳になれば正式に仕事に就ける。女の子だから、女中かな。
ハンターは、拠点にする所と、仲間を探しているらしい。年は20歳前後。剣士と槍士だ。
「そろそろ、野営にしましょう」
御者がそう言って、馬車を止めた。
「…手伝おう」
「わたしも!」
とうさまの後をついて馬車を降り、竈の準備を手伝う。その間にとうさまが森に入り、薪を抱えて戻って来た。
「じゃあ俺も………」
そう言って、レイヴはとうさまと入れ替わりに森に入って行く。戻って来たときには、手にホーンラビットを2匹抱えていた。
「早かったね」
「当然だ」
なんで、そんなに偉そうなの。
普通、野営の食事は堅パンに干し肉、スープと決まっている。でも、そんな食事に我慢できるわけがないわたし達は、とうさまが出した調理器具で手際よく料理を作っていく。途中、この人数ではホーンラビット2匹は少ないと気づいたらしく、レイヴはまた森で狩りをしてきた。
そうしてできたご馳走を、乗合馬車の皆と分け合って食べた。外で食べるご飯は美味しいね。
「いや~、こんな食事がとれるとは思ってもみませんでした。ありがたい」
「本当に美味しいわ。特に、この鹿肉!」
「うんうん。美味しいね~」
「あんた、大した腕前だな。見直したよ」
ただでさえ木々が生い茂っている森では、獲物が見つけづらい。それが薄暗くなった森だと、人の目ではほとんど獲物を見つけられないと言っていい。まあ、レイヴは人間じゃないからね。
夜はテントを張って、3人側の字で寝た。う、動けない!
そのあとは、特に特筆することなく王都まで着いた。ここからベンダリス鉱山のドワーフの里までは乗合馬車が出ているので、それに乗り換えだ。馬車で、だいたい1日の距離。なので、王都を昼に出発し、翌日の昼にドワーフの里に着く。
すでに昼を過ぎていたので、今日は王都に泊まる。旅の疲れがあったので………というか、寝返りを打てない状態で寝るのが苦痛で、休みたかった。
早めの昼食をとり、乗合馬車の乗り場へやって来た。昨日のハンター2人組みもいる。ドワーフに武器を作ってもらうのかな?
「こんにちは」
「あ、やあ。君達もドワーフの里へ行くのか」
「はい。お兄さん達も一緒なんて、嬉し………むがっ」
レイヴに口を塞がれた。
「俺以外の奴に媚びを売るな」
「ははは。君はずいぶん好かれているんだね」
はい。嫉妬深くて困ってます。
そして出発した乗合馬車は、途中の山で一泊し、翌日の昼にドワーフの里に着いた。
工房の煙や、製鉄所の煙が遠目でもわかるほどもくもくと上がり、木製の柵が整然と並んだ、鍛冶の里という感じの場所だった。いや、実際そのとおりなんだけども。家事になった時に備えてか、家々は密集しておらず、距離を取っている。建物は頑丈そうで、煙が出ている家が多いことから、自宅兼工場なのかもしれない。
乗合馬車は、明後日の昼にまた来ると言って去って行った。
とりあえず、里に一軒だけの宿屋に行った。
「4人部屋ありますか?」
「2人部屋ありますか?」
もちろん、2人組みのハンターも一緒だ。他に泊まる所がないのだから、選択肢はない。
「はい。どちらもありますよ」
ころころとした体型の、可愛い女の子が出迎えてくれた。
「食事はどうされますか?」
「え?食堂が他にもあるのかい?」
「いえ。酒場があって、そこでも食事ができるんです」
「なるほど。俺たちはそっちへ行くから、朝食だけ頼むよ」
酒場の食事ってことは、当然、お酒を飲みながらの食事に違いない。情報収集するには、口が緩くなった人を相手にする方が………。
「俺たちはここで食事もとる。よろしく頼む」
あ、やっぱり?わたしは未成年だし、荒くれドワーフの中に、とうさまが行かせてくれるわけないよね。
宿が決まったので、早速、鍛冶屋を回ってみることにする。
最初に入った所は、武器ではなく、日用品の鍋やフライパンを作る工房だった。
「…間違えてすまない。剣を作っている工房を教えてくれないか」
「いいってことよ。この里一腕のいい鍛冶師はホランドだが、あいつは気分屋だからな。自分の気に入った相手にしか剣を打たんぞ。今は酒場で飲んだくれてるんじゃないか」
「面白い。要するに、そいつに俺のことを認めさせたらいいんだろう?やってやるぜ」
………レイヴがやる気に燃えている。




