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265 怖い

 そこでふと、どうしてレイヴの名前が出てきたのか気になった。

「ディーは、どうしてレイヴを知っているの?」

「あぁ。ほら、僕はドラゴンの王だからね。一族の大事なことは報告を受けるんだよ。レットドラゴンの長の息子が、100年も一族を離れるなんて一大事だろ?その理由が人間の娘に懸想したからだなんて、なかなか聞かない理由を告げられたから僕もびっくりしたよ。でもまぁ、相手がセシルならしょうがないよね。4年前も相当に可愛かったけど、いまは目が眩むほど可愛いよ。誰かさんのせいで色気も出て来て、もう破壊力半端ないよ」

「破壊力って………」

 それって、一体どういう意味?


「じゃあ、今夜はこれくらいにして。また明日話そうか。ふふふっ。シルヴァはセシルを見たらどんな顔をするんだろうね。楽しみだよ」

 そう言われたら不安になる。

 わたしはここ数日で変わったかな?変わってない………よね?ううっ。よくわからない。

「僕は客室を借りるね。案内は外の警備兵に頼むから心配しないで」

 要するに、もう行っていいよ、と言っているのだ。


 クロヴィスはわたしを抱き上げながら立ち上がった。

 ひらひらと手を振るディーを一瞥し、瞬間移動の魔法を発動させた。

 次の瞬間には、クロヴィスの寝室にいた。

 乱れていたベッドはベッドメイキングがなされ綺麗になっていた。

 クロヴィスがわたしをベッドに降ろしてくれたので、着替えるべく自分の部屋へ戻ろうとした。それを、当然のようにクロヴィスに止められた。


「夜着に着替えたら戻って来るから。そうしたら一緒に寝よう?」

 そう言うと、クロヴィスは信じられないものを見た、と言わんばかりに驚いた表情をした。

 わたし、変なこと言ったかな?

「クロヴィス?」

「あ、あぁ。待ってる」

 なぜか嬉しそうに言うクロヴィスを残して、わたしは自分の部屋へと戻った。


 ワンピース型の夜着に着替えると、脱いだ服を畳んで椅子に置いた。脱いだ服には、必要ないとわかっているけど清浄魔法をかけないと気が済まない。侍女が洗濯してくれるから、必要ないのにね。

 扉が開く音がして振り向くと、クロヴィスだった。着替えが済んでいて、夜着のズボンだけ身に着けている。

「待ってるんじゃなかったの?」

 苦笑すると、クロヴィスは「待てなかった」と言ってわたしを抱き上げた。

 この安定感ある腕の中も、慣れて来てしまった。


 ふたりでベッドに横になったけれど、クロヴィスの様子がなんだかおかしい。どこかソワソワしている。

 でも、そんなことわたしには関係ない。もう寝るんだから。

「おやすみなさい」

 そう言って目を閉じると、「えっ」という驚きの声が聞こえた。

 目を開けると、クロヴィスが驚きの表情とともにわたしを見下ろしていた。

「寝るって………そういう意味か」

「??………他に、どんな意味があるの?」

「………」

「………」

「………くそっ」

 もしかして、夜の相手をすると思われた!?


「やっぱりひとりで寝るーっ!」

 クロヴィスの腕の中でもがくも、力では勝てないことはすでにわかっている。わかっているけど、諦めることもできない。

「離して!」

「だめだ。おまえは、俺と一緒に寝るんだ」

「やだよ。だって、わたしを抱くつもりなんでしょ?」

「誤解したのは謝る。だが、手は出さない。約束する!」

「信用できない!だって、だって………!」

 もう泣きそう。クロヴィスのズボンのふくらみが、夜着ごしに伝わって来る。燃えるように熱い。こんなものを押し付けられて、正常でいられるわけがない。


「あ、悪い………」

 クロヴィスがそのことに気づいて、腰を引いた。でも、手は離してくれない。

 クロヴィスの胸をポカポカ叩きながら、わたしは離してと訴えた。頬を涙が伝っていた。

 力で敵わない相手に、力づくでなにかをされるかもしれないという恐怖がわたしの頭を支配していた。

 こんなに怖いことなんて、いままでにない。

 いままではとうさまがずっと傍にいて守ってくれたし、力で敵わないような相手でも、話せばわかってくれたから。こんな恐怖を抱かずにこれた。

 でも、いまは怖い。クロヴィスが怖い。どんなにお願いしても手を離してくれないのが怖い。


 一度、恐怖に取りつかれてしまえば、なかなかそこから抜け出すことはできない。

 クロヴィスの胸を力なく叩きながら、ポロポロと泣き続けるわたしを、クロヴィスは傷ついたような、困ったような顔をして宥めようとした。頭を撫でたり、背中をさすったり、優しい言葉をかけたり。

 でも、わたしはとにかくクロヴィスから離れたかった。

 離れて、ひとりになりたかった。


「………わかった。今夜は部屋に戻るといい」

 先に折れたのはクロヴィスだった。わたしを抱き締める腕から、そっと力を抜いてベッドに大の字になった。

 自由になったわたしは、すぐさまベッドを降りて自分の部屋へ戻った。扉をぱたんと閉めると、ひとりにはやけに広い部屋の中で孤独を感じた。心細かった。

 早くシルヴァに会いたかった。会って、慰めて欲しかった。



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