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260 触れたい

 ペンダントを作ってもらったあと、わたしはクロヴィスの見ている前で夕食をすべて食べることになった。

 残さず食べると、お腹いっぱいになった。この数日間で、わたしにちょうどいい量を見極められたらしい。う~むむ。

 そして食事のあとは、いつものようにお風呂タイム。

「はぁ~、気持ちいいっ」

 長湯をするとすぐのぼせてしまうわたしに合わせて、お湯の温度が少し下げられている。おかげで、体をお湯に沈めても胸が苦しくなったりしない。それどころか、睡魔が襲ってきて、このまま寝てしまい気分になる。


「ふふふっ。セシル様、寝てしまわれる前にお風呂から出ましょうか」

「………うん」

 エマに言われてお風呂から出ると、すぐにタオルで体を拭いてくれる。部屋にある鏡台に腰かけて髪を乾かしてもらっている間も、眠くてウトウトしてしまった。

 どうして、髪を触ってもらうのって気持ちいいんだろう?

 もう、このまま寝てしまいたい。

 そう思っていたら、扉が開いてクロヴィスが入って来た。


「ちょっと、ここ浴室だよ!?」

 思わず声を上げるも、体に敵を前にしたときのような緊張感は戻ってこない。わたしが、クロヴィスを警戒していない証拠だ。

 そのことに戸惑っている間に、クロヴィスはスタスタとやって来てわたしを抱き上げた。

「待って!まだバスローブ!」

 夜着に着替えるのは、髪を乾かしたあとなの。

 胸元と、バスローブの裾を掻き合わせた。


 クロヴィスは夜着姿で、髪はまだ濡れていた。いつもと違う姿に、心臓がどきんと跳ねる。

 なんなの?なんでわたしは、こんなにどきどきしているの?

 わたしが混乱している中、クロヴィスは瞬間移動で自分の寝室へやって来た。

 わたしをベッドに降ろすと、クロヴィスは手櫛で髪を掻き上げた。その仕草が、とても色っぽく見えた。

 そして、クロヴィスに触れたくなった。


「あの………クロヴィス」

「なんだ」

「わたしが髪を乾かしてあげようか?」

「!!あぁ、やってくれ」

 クロヴィスはウキウキと答えて、ベッドの端に腰かけた。

 わたしはそっとクロヴィスに近づき、その濡れた髪に触れて風魔法を使いながら乾かしていった。ブラシは渡されなかったので、手櫛だ。

 クロヴィスの髪は張りがあり、綺麗な赤い色をしている。お風呂に入ったばかりだからか、石鹸のいい香りがする。

 

「セシル………」

「なに?」

「俺も触りたい」

「えっ?」

 振り向いたクロヴィスに、ベッドへ押し倒された。

 膝立ちをしてクロヴィスの頭に触れていたので、そのまま後ろへ倒された形だ。


 身体強化の魔法をかけ、クロヴィスの胸を押し戻そうとしたけれど、両腕を掴まれ頭の上に固定された。

 そしてクロヴィスは少し腰を浮かせ、わたしの足を伸ばしてくれた。でも、バスローブの裾は乱れたままで、クロヴィスの手はわたしの足から離れない。

「綺麗な肌だな」

「ありがとう。もう手を離して」

「そう言うなって。もう少し………」

「きゃっ………やだ!」

 クロヴィスの手がお尻に当たっている。


「やめてクロヴィス!」

 恥ずかしくて身をよじると、バスローブがはだけてしまった。

 むき出しになった胸に、クロヴィスが顔を寄せてきた。

 だから、力いっぱい頭突きをした。

「いてっ」

「いったぁー!!」

 頭が割れそうに痛い。クロヴィスってば、どれだけ石頭なの!?身体強化してなかったら頭割れてたよ。


 クロヴィスが痛みに顔をしかめ、少し手の力を緩めた。その隙に手を振りほどき、寝返りをうちうつ伏せになった。

 バスローブはさらに乱れたけれど、そんなこと言っていられない。前を見られるより、後ろのほうがまだましだ。

 と思っていたら、素早く腰紐を解かれ、胸の前で組んでいた両腕を体の下から引っ張り出された。すると、バスローブを引き下げられて、クロヴィスの前に下着姿を晒すことになってしまった。


「こんなのやだ!」

「大丈夫。触るだけだ」 

 そう言って、クロヴィスはわたしの背中からお尻、足までを触り始めた。

 いますぐやめてほしいのに、心のどこかで、もっと触れてほしいと訴えている。

 クロヴィスの目の前で下着姿で横になっていることの羞恥心と心細さが、少しづつ薄れていく。

 そもそも、下着姿と言っても、胸当てはなく、パンツしか身に着けていない。こんな姿で、どうして羞恥心が薄れるのかわけがわからない。


 違う。薄れているのは羞恥心じゃなく、クロヴィスに対する恐怖心だ。

 圧倒的な力を持ち、なにをするかわからないクロヴィスに対する恐怖がわたしを包んでいる。その恐怖心を拭い去るように、優しくわたしに触れるクロヴィス。

 いつの間にか、クロヴィスはわたしにキスをしていて、優しいキスと、鈍い痛みを感じるキスの雨を体中に降らしていく。痛いのは、キスマークをつけているんだと思う。

「クロヴィスだめっ」

「なにが」

「恥ずかしいから、キスマーク付けないで。………んっ」

「………ここが感じるのか?」

 クロヴィスはくっくと笑って、わたしが反応した箇所を責め立てる。

「やだっ」


 両手で自分の口元を押さえ、声が出ないようにするものの、クロヴィスの愛撫に体が反応する。体の奥がじんと痺れたように熱くなる。

「セシルの全部に触れたい。いいか?」

 耳元で熱く囁かれた。

 イヤイヤと頭を振ると、残念そうなため息が聞こえた。



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