26 グ・ランヴィル国へ2
「だから、なにが問題なんだ。わかるように説明してみろ!」
宿屋の4人部屋で、誰がどのベッドで寝るかで揉めていた。
「だから、言っているでしょう。男女は、一緒のベッドで寝ないの。せっかく4つもベッドがあるんだから、別々のベッドで寝ればいいのよ」
「ドラゴンは互いにくっついて寝るぞ」
「わたしはドラゴンじゃないもの」
「くっついて寝ると暖かいぞ」
「だったら、とうさまと寝ればいいでしょ」
「「え?」」
「それは嫌だ」
なにを想像したのか、思い切り顔をしかめるレイヴ。
そして結局、床に毛布を敷いて、わたしが中心の川の字で寝ることになった。ベッドがあるのになぜ………。
こんなことがずっと続くなら、レイヴと離れることを真剣に考えなきゃいけないな。
右手をとうさま、左手をレイヴに握られ、身動きのできない状態で、まともに寝られるはずがなかった。
朝早く目覚めると、後ろからレイヴに抱き締められていて、目の前にはとうさまの厚い胸板が見えていた。寝返り、打てないんですけど!
「なにしてんのーーー!」
今度、こんなことをするなら、もう一緒の部屋では寝ないと脅し、2人を叱りつけた。
床で寝たせいで体がばきばきする。
溜息をつきつつ、荷馬車の御者台に座った。
「大丈夫かい?」
「あ、はい。すみません。昨日、よく眠れなかったもので」
今回、護衛をすることになったのは、荷馬車4台の小規模商隊だった。御者2人、商人2人、護衛はわたし達3人だけ。先頭の馬車にとうさまが乗り、わたしと離れたくないとぐずったレイヴが、わたしと最後尾の馬車に乗っている。
最初、荷馬車の進みがあまりに遅いのでレイヴがびっくりしていた。
「荷物を沢山積んでいるんだから、あたりまえでしょ」
「ふ~ん。そういうもんか」
長い時を生きるドラゴンにとって、ちょっとした旅の時間くらい、あっという間のできごとに違いない。すぐに興味を失って、居眠りを始めた。
わたしは御者さんを相手におしゃべり。
「…じゃあ、国境の町がベンドロと言うんですね。高い壁に囲まれていて、警備が厳重と………でも、カー・ヴァイン国とグ・ランヴィル国は長年、友好国のはずなのに、そこまで警戒するなんてなにかあるんですか?」
「あぁ、あのあたりには魔物が多いからね。魔物対策だよ」
「整備された街道なのに、魔物が多いんですか。珍しいですね」
「近くに大きな森があって。そこからやって来るみたいだよ」
大きな街道は、交易や旅人を守るために、定期的に掃討戦が繰り広げられる。だから、盗賊はともかく、普通は、魔物が整備された街道に現れるのは珍しい。
カー・ヴァイン国の王都を出発して5日目、もうすぐ国境の町ベンドロが見えて来るという時に、オークの群れが森から飛び出してきた。全部で4匹だ。商隊の後方を襲われたので、暇を持て余していたレイヴが嬉々として荷馬車から飛び出した。
「レイヴ、手加減してね。殴らないで、首を切り落とすの」
「わかった!」
ひゅんっ
ひゅひゅんっ
どさっ
あっという間に3匹の首を落とした所で、安物の剣にヒビが入った。遠目でもわかるほど、はっきりと。
「これを使って!」
わたしの短剣を差し出すと、レイヴが嬉しそうにやって来て、わたしの頬に掠めるようなキスをした。
「なっ、なっ、狩りに集中して!」
油断も隙もあったもんじゃない。
当然のように最後の1匹も倒し、前方からやって来たとうさまが、倒したオーク4匹すべてをマジックバックにしまった。
「マジックバックですか。羨ましいですなぁ」
商人の2人は、心底、羨ましそうにしている。
大容量のマジックバックがあれば、荷馬車1台分でも余計に運べれば………それだけ利益が大きくなる。大商人にでもならない限り、そんなマジックバッグは買えないけれど。
その後は、特に魔物に襲われることもなく、無事ベンドロへたどり着くことができた。日が暮れてきて、もうすぐ門が閉められるところだった。朝まで門の外で野宿をすることを思えば、ラッキーだった。
「では、私達はこれで………お世話になりました」
商隊を見送り、今夜の宿屋を探す。早くしないと宿が満室、ということにもなりかねない。ここに来て野宿は嫌だ。
さっきのオークとの戦いで、レイヴの剣はすっかりダメになってしまった。しかたないので、当分の間は、とうさまの予備武器である短剣を貸すことになった。わたしの短剣を貸してしまうと、わたしの武器がなくなってしまうからね。
朝になり、護衛依頼の報酬を受け取りにギルドへ向かう。大きな依頼は、受けたギルドに報告の必要があるけれど、今回のような護衛依頼は、立ち寄った町のギルドで報酬を受け取ることができる。そうじゃないと、往復の護衛依頼しか受けられなくなってしまう。
かららん
いつもより、ハンター達の視線が緩い。レイヴが仲間になり、パーティとしてのバランスが前より良くなったせいかもしれない。
とうさまが受付完了の手続きと、オーク売却手続きをしている間に、わたしとレイヴは依頼ボードと情報ボードを眺める。
誤字報告ありがとうございます。
祝2000PVです。
次は、5000PVのときに祝投稿をしますね。