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259 首輪を変えて

 幸いというか、わたしはまだ席にも着いていない。

「部屋に戻ります。夕食はいらないので、クロヴィスひとりで食べてください」

 そう言うと、エマとアナベルは悲痛な表情をした。他の侍女達は、信じられないものを見た。という顔をしている。

「部屋へ戻るのかかまわない。だが、飯は食え。ラーシュ、準備をしろ」

「はい」

 ラーシュがテーブルに進み出て、わたしの分のお皿や食器を次々マジックバッグにしまっていく。

 それが済むと、ラーシュはわたしの先に立って食堂を出た。


 廊下を歩いていると、珍しくラーシュが話しかけてきた。

「陛下の色を身に纏うのが、そんなに気に入りませんか」

「え、違うよ?」

「では、なにがそんなに気に入らないので?」

「あー………そうだね。押し付けられることかな」

「なるほど」

「だから、この首輪も気に入らないし、指輪も外したいよ。そもそも、どうして首輪なの?ネックレスとかペンダントとか、もっと目立たないものはあるでしょ?城下町へ行ったときは、この首輪を見て奴隷だって言われたんだから」

「それは災難でしたね」


 そういえば。あの治安部隊の人達は「従属の首輪」とか言っていた。従属の首輪ってなんだろう?

「ラーシュは、従属の首輪を知ってる?」

「奴隷に付けて、主に従わせる首輪です。従わなければ、物理的に首が飛びます」

「えっ!!」

 奴隷は、そんな酷い扱いを受けてるの?生か死か?従わなければ、死ぬということ?

 でも、城に囚われたわたしも同じようなものかもしれない。

 ううん、違う。クロヴィスはわたしに愛情を持っている。支配しようともしていない。この首輪は、わたしを他の魔族や獣人から守るためのもの。

 だけど、わたしを守りたいだけなら首輪じゃなくて他の物でもいいはず。変えてもらえないか、クロヴィスに交渉しないとね。


 わたしの部屋に着いてすぐ、わたしは着替えのため寝室に入った。

 そこまではよかったのだけど、着ていたのはひとりでは脱げないドレスだった。

 誰に手伝ってもらおう?

 いまいるのは、ラーシュと護衛騎士がふたりだけ。全員男だから、脱ぐのを手伝ってもらうわけにはいかない。困ったな………。

 そう思っていたら、ノックの音が響いた。

「セシル様、エマとアナベルです。入ってもよろしいですか?」

「どうぞ」


 声をかけると、エマとアナベルが寝室に入って来た。申し訳なさそうな顔をしている。

「「先ほどは申し訳ありませんでした!」」

「いいから、早く脱がして」

「はい」

 ふたりに悪気はなかったことはわかっている。良かれと思ってこのドレスを選んだことも。それでもイライラが収まらないのは、わたしの心が狭いからなのかな。

 手早くドレスを脱がしてもらい、いつものシャツにズボンという姿に落ち着いた。


 応接室へ行くと、ソファにクロヴィスが座っていた。

 思ったより着替えに時間がかかって、クロヴィスは食事を終えたのかもしれない。

 テーブルには温かな夕食が並んでいて、湯気を立てている。

 クロヴィスの向かいの席に座ると、じっとクロヴィスの瞳を見つめた。

「なんだ?」

「首輪を、ペンダントに変えてほしいの。お願い。このままじゃ、まるで従属の首輪だよ」

「城下町で言われたことを気にしてんのか」

「そうだよ。気にするよ。外してと言ってるわけじゃないよ。形を変えてほしいと言っているの。無理じゃないでしょ?」

「………いいだろう。その代わり」

 クロヴィスは自分のくちびるを指でとんとんと叩いて、にやりと笑った。


 これは………キスしろって言ってる??

 いくらわたしが鈍くてもわかるよ。

 まわりを見回すと、いつの間にかラーシュやエマ達がいなくなっていた。護衛騎士もいない。完全にふたりきりだ。

 はぁー………。

 深く深くため息をついて、自分を落ち着かせる。

「クロヴィス、目をつぶって」

「あぁ」

 素直に目をつぶってわたしが近づくのを待っているクロヴィスは、いつになく無防備に見える。

 睫毛が長いなぁ。それに、やっぱり綺麗な顔をしてる。


 クロヴィスの肩に両手を置き、顔を近づけると、クロヴィスの匂いがした。その匂いに酔いそうになる。

 思い切って口づけると、その感触に頭がくらくらした。体の奥がじんと熱くなる。

「んっ………はぁ………」

 くちびるを離すと、クロヴィスに膝の上に座らせられた。そのまま、クロヴィスの胸にもたれかかる。


 かちり


 金属の小さな音が鳴って、首が軽くなった。 

 体をよじってクロヴィスの手元を見ると、首輪の紋章部分が抜き取られ、2センチほどにぎゅっと縮小された。そこに、首輪から抜き取った魔法を封じ込めて行く。最後に、残った首輪からチェーンを作り出し、ペンダントトップと化した紋章に繋げて作業は終了した。

 首輪を作ったのは錬金術師や魔具師みたいな専門職の人だろうに、それをこんな簡単にいじってしまうなんて器用だね。


 できあがったのは、コイン型のペンダントトップにチェーンがついた代物。見た目は細いチェーンだけれど、クロヴィスの魔力を纏っているせいでしなやかで頑丈だ。わたしの力では引きちぎれないだろうと思う。

 わたしが頭を下げると、クロヴィスがペンダントをわたしの首にかけてくれた。

 首輪だったときは嫌で堪らなかったけれど、ペンダントに変わってその重さも軽減されたせいか、それほど嫌悪感は感じなかった。



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