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257 腕試し

「うちの騎士から剣を手放させるとは、大した力だ。陛下を殴り飛ばしたというのは、本当のようだな」

 それ、いつまで言われるんだろう………。

「でも、お互い手加減した状態でしたから、本気でやれば結果どうなるかわかりませんよね」

 わたしがランダース団長の嫌味に嫌味で返すと、ランダース団長は目を細めた。

「ほう。うちの騎士が手加減したことを知っているか」

「もちろんです。陛下の臣下が、陛下のモノを傷つけるはずがありませんからね」

 そう。いくら気に食わなくても、彼らがわたしを傷つけることはできない。なぜなら、認めたくはないけど、わたしはクロヴィスが自ら連れて来た「妃」だから。


 それに、わたしだって騎士達を打ちのめすつもりはない。だから、魔法は使わなかった。

 だけど、わたしの力が魔族の騎士にも通じることがわかってよかった。

 できれば、このままわたしも訓練に参加させてほしいけど、どうかな?受け入れてくれるかな?

 そう思っていたら、ランダース団長がわたしの実力を見てやると言い出した。

 3人の騎士と、順番に戦った。

 騎士の実力は少しづつ上がっていき、3人目の騎士と戦っているとき、つい追い詰められて魔法を使ってしまった。


 どごおおおおおおおんっ!!


 加減を大きく間違えた水魔法が、巨大な水球となって現れた。直径は、少なく見積もって50メートル。訓練場にいた騎士達を次々飲み込み、水球の中に起きた激しい水流で騎士達を洗い流していく。騎士達は水球から出ようともがいているけれど、水流に体を攫われて思うように動けないでいる。

「あれはなんの訓練だ」

 頭上から声が降って来て、振り返るとクロヴィスだった。

「陛下!お助けください!」

 ぎりぎり助かった騎士のひとりが、水球に触れないように叫んだ。


 ぱちんっ


 クロヴィスが指を鳴らすと、水球が弾けて水が溢れた。水は地面に溢れ、敷地の端から下へザアザアと流れ落ちて行く。騎士達は互いに助け合いながら、下に流されないように必死に抵抗していた。やがて水浸しの訓練場には騎士の死体が………もとい。ぐったりしながら、水を吐き出す騎士達がいた。

 ランダース団長も水球に飲まれていたけれど、けっこう元気そうだ。ランダース団長はクロヴィスに気づくと走って来て、深くお辞儀をした。

「ランダース、面白い訓練だったな」

 クロヴィスにこう言われては、違うとは言いずらいのだろう。ランダース団長は頭を下げたまま答えた。

「はっ。セシル様にご協力いただいておりました」

 それ、どう考えても噓でしょ。

 

 地面に向かって水を吐いたり、咳き込んでいた騎士達もある程度回復すると、立ち上がってクロヴィスにお辞儀をした。回復していない者も、ふらつきながら立ち上がろうとしている。

「溺れかけたんだから、無理しないでください。いま、回復魔法をかけるから」

 そう声をかけると、さっきの水球よりも広範囲に回復魔法をかけた。

 わたしがそう念じたからだけど、広範囲の回復魔法にはわたしも驚いた。

 てっきり魔素が濃いから、わたしの魔力を上がっているんだと思っていた。でもこれは、ちょっと思っていたより威力が強すぎる。

 騎士達の周囲では、魔力の残滓が煌めいている。


「どういうことだ?古傷が痛くないぞ」

「俺は風邪気味だったのに、治ってる」

「おい、よく自分の体をよく見てみろ。古い傷まで治ってるぞ!」

「どれどれ………ほんとだ!」

「「「「「セシル様すげえ!!」」」」」

 そこには、服をめくり上げてお互いの体を確認する騎士達がいた。

 さすが普段から鍛えているだけあって、皆いい体をしている。


「………貴様ら、セシルの前でなにをしている?」

 地獄の底から響いて来るような声に、騎士達ははっとなった。

 隣を見ると、クロヴィスが不機嫌そうな顔で騎士達を睨みつけていた。

 第一騎士団の皆さんは災難だよね。わたしが来たせいで水攻めに合い、体が回復して喜んでいれば魔王様の怒られ………ほんと、ごめんなさい。わたしが悪いんです。


 騎士達はランダース団長を先頭に整列し、一斉に膝をついた。

「「「「「申し訳ありませんでした!!」」」」」

 そして頭を下げた。


 それでもクロヴィスの機嫌は直らない。

 このままじゃ、なにか罰を下されかねない。

 そっとクロヴィスの大きな手に触れ、彼の注意を引いた。

「どうしたセシル」

「わたしが悪いの。魔大陸で、わたしの力がどこまで通じるか試したくて第一騎士団の皆さんに協力してもらったんだけど、魔力の威力が思ったより大きくて迷惑をかけちゃった。こんな騒動になるとは思ってなかったの。ごめんなさい」

「セシルのせいじゃねえ。奴らが油断したせいだ。そうだな?ランダース」

「はっ!陛下のおっしゃるとおりにございます」


「罰として、今月は休みなしだ。気を緩めず、しっかり働け」

「お気遣いいただきありがとうございます!」

 まぁ、休みなしくらいなら、優しい罰だよね。しかも、ずっと休みなしというわけじゃなくて、今月だけの話だしね。


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