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254 一緒に過ごす夜

 お風呂に入ってさっぱりすると、夜着に着替えてベッドに横になった。火照った体に、冷たいシーツが心地いい。

 眠気に誘われて、重くなった瞼を閉じた。

「なんだ。もう寝てるのか」

 扉が開く音に気づかなかった。

 いまの声で眠気が吹き飛んだけれど、ここは寝たふり作戦にしよう。


 ぎしっ

 

 ベッドがクロヴィスの重さに抗議するように音を上げた。

「………セシル」

 耳元で名前を囁かれて、背筋がぞくりとなった。

 でも我慢!我慢していれば、大人しく自分の部屋へ帰ってくれるかもしれない。

 寝たふりを続けていたら、クロヴィスが「そうか」と呟いた。

 ううっ。息がかかる。くすぐったい。

 わたしは体を横にしていて、クロヴィスがなにか話すと耳に息がかかるの。


「………!!」

 耳をぺろりと舐められた。

 さすがに寝たふりができなくなって、真っ赤になった耳を手で押さえた。

「なにするのっ」

「舐めた」

「そうじゃなくてっ。………んふっ」

 抗議しようとクロヴィスに体ごと向けると、いきなり深くキスされた。


 今度は手を押さえつけられていないので、両手が空いている。

 クロヴィスを押し戻そうと両手を伸ばすと、裸の胸に当たった。暖かく、すべすべとしていて、触っていて気持ちいい。思わずうっとりしてしまった。

「はっ………気持ちいいか?」

「えっ?………なに言って………んんっ」

 なにを聞かれているのか理解する前に、再び口をつけられた。

 あぁ、頭がクラクラする!


 どうしてわたしはクロヴィスを受け入れているんだろう?

 どうしてわたしの体は熱くなるんだろう?

 どうしてもっと欲しくなるんだろう?


 気づけば、クロヴィスの首に腕を回していた。

 その腕を背中に伸ばすと、やっぱりすべすべとして気持ちい肌がそこにはあった。

 この体を探索したい気持ちにさせられる。

 でも、あぁ!体が言うことを聞かない!また弾ける!

「………………っ!!」

 声にならない、自分のものとは思えない悲鳴がクロヴィスの口に飲み込まれていく。


 ぐったりしたわたしを労わるように、クロヴィスは隣に寝て自分の胸に抱き寄せてくれた。

 クロヴィスの心臓の音も早い。ドキドキいっている。

 ドキドキしているのがわたしだけじゃないと知って嬉しくなった。

 逞しい胸に手を這わせ、口をつけた。

 クロヴィスがびくりと体を震わせたものの、わたしの好きにさせてくれた。仰向けにベッドに横になり、わたしが探索しやすいようにしてくれる。

 わたしはまだ体が震えていたけれど、クロヴィスの横にちょこんと座った。


 クロヴィスは夜着のズボンだけを身に着けていて、上半身は裸だった。

 何度見ても、クロヴィスは美しいと思う。その美しい魔王が、こんなに無防備でいていいのかな?

 クロヴィスの体は暖かく、すべすべで気持ちよく、筋肉が盛り上がっていた。

 とうさまもシルヴァも、レイヴも細身だから、ここまでの筋肉はない。

 手を這わせると、手の下の筋肉がぴくりと反応する。それが面白くて、舐めるように体を探索した。

 どこにも傷がないのは、高い自己治癒力があるからだよね。


 そういえば。わたしがつけた首の傷はどうなったかな?

 腕を伸ばし、首の後ろを探ったけれど、傷らしきものは見つからなかった。よかった。治ったんだね。

「………セシルっ」

 名前を呼ばれてクロヴィスの顔を見ると、切羽詰まったような、なにかを堪えるような表情をしていた。

「どうしたの?苦しいの?」

「あぁ、苦しい。セシルが欲しい。すべてを俺のモノにしたい」

「それは………っ」

「わかってる。まだ早いんだろう。だが、俺はもう限界だ」

 そう言うクロヴィスの息が熱い。


「だから、俺がシテるのを見ていろ」

「??………うん?」

 クロヴィスの言っている意味がよくわからない。

 アレは、ふたりでするものじゃないの?ひとりでどうやってするの?

 わたしの疑問は、間もなく解消した。クロヴィスがズボンを脱ぎ、初めて見る男性自身を見せられて………。クロヴィスが自分のズボンに精を放つのを、驚きと共に見つめることになった。

 言いようのない興奮が体を駆け巡った。ゾクゾクした。

 ぐったりとベッドに横たわるクロヴィスを愛しく思った。

 そうして、クロヴィスの腕を枕代わりにして眠った。


 翌朝、ノックの音で目が覚めた。

「セシル様、入ってもよろしいでしょうか?」

「うん。いい………って、ちょっと待って!入って来ないで!」

 返事の途中で、隣にクロヴィスがいることに気が付いた。

 しかも、クロヴィスは裸!!絶対に誤解される!!

「あの………セシル様?どうかされました?」

「なんでもないから、もうちょっと待ってて!」

「!!………ふふふっ。かしこまりました」

 ああーーーー!!これ、絶対誤解されたよ!


「クロヴィス、早く自分の部屋へ戻って!」

 声をひそめながら、クロヴィスに言った。

 クロヴィスは気だるそうに起き上がると、大きく伸びをした。

「こんなにすっきりした朝は久しぶりだ」

「そう。よかったね!いいから、早く行って!」

「そう急かすな。キスしてくれたら行く」

「えっ?」

 なんでキス?しかも、わたしからするの?


「なんだ。ずっとここにいて欲しいのか?」

 わたしが戸惑っていると、揶揄からかうように言われて顔が赤くなる。

「………本当にいて欲しいのか?」

 今度は驚いているようだ。そして、嬉しそうだ。

 クロヴィスが嬉しそうだと、わたしも嬉しくなる。

 嬉しい気持ちに勇気をもらって、身を乗り出した。クロヴィスの口に、掠めるようなキスをした。

「これでいいでしょ?さぁ、早く出て行って」




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