253 護衛騎士
クロヴィスはマントでわたしの顔を手を拭くと、わたしをひょいと抱き上げた。
「ちょっと待って。ちゃんと自分の足で歩くから降ろして」
クロヴィスは、すぐわたしを抱き上げようとするんだよね。
「だめだ。このまま城へ帰るぞ」
「え、どこか出掛けるんじゃないの?」
「心配するな。一緒にいてやる」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!?」
また顔に血が上るじゃない!ふぅ。顔が熱い。
顔を手で仰ぎながらクロヴィスを見ると、追いかけて来たミアに金貨を1枚握らせていた。
ミアは返そうとしているが、クロヴィスは受け取る気配がない。
「こんなに受け取れません!それに、あの料理は両親のお礼の気持ちなので、初めからお代をいただくつもりはなかったんです」
「料理は美味かった。今度、来たときにまた美味い料理を振舞ってくれればいい。気にするな」
「気にします!」
おお。クロヴィス相手にこんな強気の態度に出られるなんて、ミアもなかなかやるね!
クロヴィスも同じことを思ったらしい。可笑しそうに、くっくと笑った。
クロヴィスの正体を知っている人は、こんな風に接して来ないもんね。
「それは衣装代だ。今度、城に招待してやるから、セシルの話し相手にでもなってくれ」
「えっ、お城にですか!?………わたしなんかが行っても大丈夫でしょうか?」
「あぁ、かまわん」
クロヴィスの尊大な返事に、ミアは顔をほころばせた。
そうしてミアに見送られながら、クロヴィスは瞬間移動をした。
次の瞬間には、王城のわたしの応接室にいた。
「陛下、セシル様、お帰りさないませ」
「「「「「おかえりなさい」」」」」
エマがわたしとクロヴィスに気づいてお辞儀をしてきた。
突然現れても動揺しないあたり、さすが訓練された侍女だと思う。
それはいいのだけど、この騎士達はなに?全部で………8人もいる。鎧をつけた体格のいい騎士がこれだけ揃っていれば、この広い応接室も狭く感じる。
アナベルが寝室から出て来て、わたしとクロヴィスを見ると頭を下げた。寝室の掃除でもしてくれていたのかな?
「セシル、紹介しよう。おまえの護衛騎士だ。リアーナ、挨拶しろ」
はっ?
わたしの護衛騎士?8人も?いやいやいや!そんなにいらないよ!
ブンブンと首を横に振ったけれど、誰にも伝わなかったらしい。
騎士のひとりが一歩前に進み出て、わたしと目を合わせて来た。長い茶色の髪を後ろでひとまとめにした、金色の瞳が美しい女性だった。そう!女性騎士!初めて見た!!かっこいい!!
「只今ご紹介に預かりました、リアーナ・フェルゼンと申します。以後、お見知りおきを」
リアーナには、獣の耳と尻尾がある。ネコ科の獣人だ。でも、なんの獣人だろう?
リアーナの背後には、獣人と魔族が入り混じって立っていた。ぱっと見ただけでは、なんの獣人かわからない。
「クロヴィス………」
「なんだ」
「わたしに護衛騎士はいらないよ?」
「いいや、必要だ。さっきも騒動に首を突っ込んだばかりだろう。おまえはなにをやらかすかわからんから、見張りが必要だ」
あー、そういうこと?わたしが好き勝手しないように、見張らせておくってこと?でも、8人は多いんじゃない?………まさか、交代で一日中見張るとか言わないよね?
そのまさかだった。
わたしはリアーナに護衛という名の見張りスケジュールを聞かされげんなりした。1日3交代でふたり組みがわたしの護衛にあたるそうだ。そのための8人だったんだね。8人いないと、休みの日が取れないもんね。
ちなみに、リアーナ・フェルゼン卿は伯爵家の長女で、トラの獣人だった。
他の獣人は、ヒョウ、チーター、ゴリラ、ヘビ。残り3人は魔族だった。
皆貴族の家の出で、大体は3男か4男だった。そう、リアーナだけが珍しい女性騎士で、しかも長女だった。
アステラ大陸でも、長男は家を継ぎ、次男は長男のスペアとして家に残り、3男以降は家を出て自立することが多い。魔大陸もそれに近いのかもしれない。
挨拶が一通りすむと、リアーナだけを残して護衛騎士達は応接室を出て行った。
ひとりは部屋の中、もうひとりが部屋の外で護衛にあたるらしい。
それって、話し相手がいなくて退屈じゃないのかな?
クロヴィスが「あとは任せた」と言って、部屋を出て行った。
1日一緒に過ごしたせいか、離れてしまうのが寂しく感じた。
えっ、ちがうちがう!クロヴィスがいないくらいで寂しくなったりしないよ!
あと数日待てばシルヴァが来てくれるし、寂しくなんかないよ?
そうだよ。シルヴァ!今頃、なにしてるかな?アステラ大陸に着いたかな?とうさまに手紙を渡せたかな?
とうさまは、わたしがクロヴィスの傍に残ることを怒るかな?
でも、仕方ないんだよ。
この首輪はクロヴィスじゃないと外せないし、首輪をしている以上、この城からひとりで出ることができないんだから。現状、わたしがいくら帰りたいと願ったとしても、とうさまの元へ帰ることはできない。




