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252 料理屋

 ミアがぼろぼろの姿で帰って来たことに、ミアの両親は驚いていた。でも、事情を説明するうち、その表情は安堵へと変わって行った。

「ミアを助けていただき、ありがとうございます」

「狭い店ですが、料理には自信があるんです。どうぞ好きなだけ食べて行ってください」

 ご馳走になるつもりじゃなかったんだけれど、そこはミアの両親が引かなかった。

「シュベルクは前々からミアに手を出そうとして、用心していたんです。これに懲りて、諦めてくれればいいんですけど」

「ミアは大事な一人娘なんです。休憩時間に散歩に行くと言ったとき、止めていればよかった!でも無事に帰って来れてよかった。これもすべて、あなた方のおかげです!」

「「どうぞ食べて行ってください!」」

 ミアが助かったことが、よほど嬉しいようだった。


 料理屋は大衆食堂といった雰囲気で、まだ夕方という時間のためか席は空いていた。

 クロヴィスは「ここなら店の中を見渡せる」と言って、店を奥のこじんまりした席を選んだ。

 店の中を見渡せる………つまり、なにかあっても対処しやすい席ってことね。

 ちなみに、首輪はまたスカーフで隠してある。見られたら、また騒ぎになりかねないから。


 それより………ミアの両親張り切りすぎ!

 わたし達は料理を注文していないのに、次々、料理がテーブルに運ばれてくる。すぐに小さいテーブルがいっぱいになって、隣のテーブルをくっつけられてまた料理を並べられた。

「足りなければ、まだまだ作りますからね!」

「いやいやいや!もう十分ですよ!とても食べきれません!」

「そうですか?育ち盛りなんだから、もっと食べたほうがいいですよ」

 そうは言っても、ものには限度というものがあるんだよ。


 ミアのお父さんは、楽しそうに笑いながら厨房へ戻って行った。もう来なくていいのに。

 大量の料理を前に困っているわたしとは対照的に、クロヴィスは平然としている。

「セシルは少しづつ食べろ。残りは俺が食べてやる」

 おお、頼もしい!

 宣言通り、クロヴィスは次々と料理を平らげてくれた。それも、流れるようなとても綺麗な所作で。

 ううむ。いつも一緒に食べてるときは気づかなかったけれど。体が大きいから、食べる量も多いのかな。


 ところで。調味料が豊富なのか、見た目は同じような料理でも、アステラ大陸よりもこちらの料理のほうが美味しく感じる。

 おかげで、いつもより多くの量を食べることができた。ふぅ。満足満足!


「食後にお茶はいかがですか?」

 着替えて給仕に忙しくしていたミアが、わたし達のテーブルにやってきた。

「ありがたいけど、わたしはもうお腹いっぱい。もうなにも入らないよ」

「俺はもらおう」

「はい!」

 元気に返事をして、ミアが一旦、厨房へ引っ込んだ。

 そしてお茶の入ったカップを手に戻って来た。


「このあとは、どちらへ行かれるんですか?」

「??ご飯も食べたし、そろそろ帰ろうかと………」

「だめです!デートなんですよね?それなら、ロマンティックな夜を過ごさないと!」

「えっ?」

 ごめんなさい。なにがロマンティックなのか、わたしにはわかりません。

「たとえば、舞台を観に行くのもいいですし、夜の美術館も素敵なんですよ?公園を散歩するだけでも楽しいと思います」


 舞台って、劇場でやってるあれ?クロヴィスだったらきっと専用のボックス席を持ってるはずだから、顔パスで劇場に入って観劇できるだろうけど。それをしたら、他の観客がボックス席にいるわたしを見て誰だろうと推察するに違いない。一瞬にして有名人になってしまうよ。だから舞台はだめ。

 美術館もいいけど、それよりわたしは図書館に行ってみたいな。

 公園は………カップルが多そう。王城の庭園を散歩したほうが、よほど楽しめる気がするよ。


「やっぱり今日は帰るよ。いいでしょ?クロヴィス」

「かまわんが、次にいつ出してやれるかわからんぞ」

「え?なんで?」

「こう見えて、俺は忙しいんだよ」

「そっか」

 王だしね。………魔王だけど。きっと忙しいんだろうね。そっかぁ。う~ん………。


「どうした?」

「ほら。ふたりきりで過ごすのって、実は貴重な時間だったんだなって思って。思ったら帰るのはちょっと寂しくなって………はいないからね!?」

 なに言ってるんだろう、わたし!?

 クロヴィスがわたしを見て、にやりと笑った。

「そうか。寂しいか」

「違うってば!クロヴィスの馬鹿!」

 あぁ、顔が熱い!


 立ち上がり、店の外へ向かって歩き出した。料理屋を出ると、通行人の邪魔にならないように道の端に寄る。下を向いて、顔を両手で覆った。顔を冷やすため手の平に冷たい水を出した。その水で顔を洗っていると、背後に人の気配を感じた。

「………なにをしてる?」

「顔を冷やしてるの」

 顔を上げずに答えた。

「くっくっく。そんなんで冷えるかよ」

 うん。わかっていたけどね。やらずにはいられなかったんだよ。



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