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251 なぜか命乞いする

「わたしは奴隷じゃないからね!」

 思わず、声を大にして言っていた。

「え?でも、その首輪は………」

「おい、あれ、従属の首輪じゃないぞ」

 従属の首輪?なんのことだろう?

「ほんとだ。じゃあ、ただの部下とか?でも、部下にあんな目立つ首輪するか?」

「あの首輪って、お嬢様に誰も手出しできないようにするためのものだろ?」

「だよな?陛下のモノに手出しする馬鹿はいないもんな」

 と言いつつ、ちらりとシュベルクに目をやる治安部隊の人々。


「おまえ、覚悟しろよ。陛下の大切な方に手をあげようとしたんだろ?それなりの処分があると思えよ」

「そんなぁ!俺はミーズハズ子爵令息で………」

「あー、はいはい。そういうの、もういいから。申し開きがあったら、裁判所で言ってね」

「裁判!?だかが、女給の小娘に怪我させたくらいで!?」

「そうだよ。お嬢様の手を煩わせたんだ。これも運命だと思って、諦めるんだな」


 シュベルクはキッとわたしを睨むと、こう言い放った。

「覚えておけよ!おまえが何者か知らないが、この屈辱は晴らさせてもらうからな!」

 幸い、ミアは擦り傷程度で回復魔法をかければ綺麗に治った。だから、シュベルク達はせいぜい鞭叩きの刑とか牢屋100日とかの目に合えば許してあげようと思っていた。本人に反省の色が見られればね。

 でも、この男はだめだ。まったく反省していない。権力を笠に着て、弱い者いじめをする気満々だ。ほおっておけば、次の被害者が出るのが目に見えている。

 どうしようかなぁ?


「わたしはセシル。王城に住んでいるから、抗議したいことがあるなら訪ねてくれば?」

「覚えたぞ!セシルだな!覚悟しろよ、おまえなんか………ぐえっ」

 話している途中でクロヴィスが頭を踏みつけたからか、シュベルクはカエルのような声を出した。

「な、なにをする!」

「気安くセシルの名を呼ぶな。………やはり殺すか?」

 クロヴィスが呟くと、わたしに視線を向けた。なので、首をブンブンと横に振っておいた。


「シュベルクは救いようのない馬鹿だけど、生かしておけば、なにか役に立つこともあるかもしれないよ?」

「なにかとは、なんだ。クズの使い道などないぞ」

「え~と………」

 うわぁー、思い浮かばない!

 そもそも、わたしはなんでシュベルクなんかの命乞いをしているんだろう?


 ここはクロヴィスの収める土地だから、クロヴィスが法律みたいなものなんだよね。クロヴィスが本気でシュベルクを殺したいと思えば、それを誰も止めることできない。止める理由も見当たらないしね。

「セシル。このクズが死ぬところを見たくなければ、向こうを向いているがいい」

 と、クロヴィスはそれはそれはいい笑顔で言った。


「………ってクロヴィスが言ってるけど、どうするのあなた。このままじゃ、本当に殺されるよ?命乞いしなくていいの?」

 シュベルクに聞くと、焦って話し出した。到底、命乞いとは思えないそれを。

「おまえ、その小娘の護衛かなにかか?そうだ、金が欲しいだろ。俺を助けたら好きなだけ褒美をやるぞ。言ってみろ。いくら欲しいんだ?」

 それを聞いた治安部隊の人々とミアはため息をついていた。

 まるで、「そうじゃないだろ。馬鹿め」と言っているようだった。


「ええと、あなた、クロヴィスさん?殺しちゃだめですよ。裁判にかけるので、生かしておいてくださいね」

 治安部隊の隊長さんが、呑気に笑いながらシュベルクの頭に乗ったままのクロヴィスの足をどかした。

 さすが治安部隊。こういう、危険な雰囲気を纏った者を相手にするのに慣れているようだ。

 わたしはすかさずクロヴィスの手を取り、指を絡めた。

「クロヴィス、こんな奴はもうほおっていてデートの続きしよ?」

 にっこり微笑みながら言ったけれど、身長差のせいでどうしても上目遣いになってしまう。

 こういうとき、上目遣いって効果あるのかな?


 ………あったらしい。

 クロヴィスはわたしを抱き上げると、髪にキスを落した。

「そうだな。デートが先だな」

 さっきまでの不機嫌な表情とは打って変わって、機嫌がいい。

「あとは任せる」

 と鷹揚に言うと、その場を後にしようとしたクロヴィス。


 そのクロヴィスのマントを、ミアが恐る恐ると言った感じに引っ張って引き留めた。

「なんだ」

「あの、助けてもらったお礼をさせてください。わたしの家、料理屋なんです。ご案内しますので、よかったらついて来てもらえませんか?」

 なるほど。さっきシュベルクはミアのこと「女給」って言ってたもんね。実家が料理屋なら納得だよ。

「クロヴィス、わたしミアのお店に行きたい。行ってもいい?」

「いいだろう」

「ありがとう!」

 嬉しくてクロヴィスの首に抱きつくと、クロヴィスは満足そうにくっくと笑った。


 そういうわけで、シュベルクともうひとりの男は治安部隊に任せ、わたし達はミアの両親がやっているという料理屋へやってきた。

 料理屋は5階建ての建物で、1階が料理屋、2~3階が宿屋、4~5階が平民が暮らす住宅となっていた。

 こういう作りの建物は多いらしく、周囲を見回しても、下の階が店舗、上の階が住宅となっているようだった。

 

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