249 少女を助ける
ふてくされていると、クロヴィスに頭をポンポン叩かれた。
慰めてくれてるのかな?でもそれなら、さっさと首輪を外してほしいんだけど。
バタバタバタッ
そのとき、外を複数に人物が駆けていく音が聞こえた。
これは、誰かが追われてる!?
気づいたときには体が動いていた。
武器屋を飛び出し、足音が遠ざかって行った方向を素早く確認。
そこにいたのは3人。うちひとりは女性で、男に腕を掴まれながら抵抗している。
わたしは走りながら身体強化の魔法をかけ、大きく跳躍した。
ごんっ
どごんっ
後頭部に膝蹴りをお見舞いし、その勢いのまま顔面を地面に叩きつけた。
地面に叩きつけた男は、顔が血だらけになっていた。動かないところを見ると、気を失っているに違いない。
「な、なんなんだよおまえ!」
もうひとりの男は、仲間がぴくりとも動かないことを見て動揺しているようだった。
ここは入り組んだ路地裏。ここで火の魔法を使って建物に燃え移っては大変。じゃあ、風で切り刻む?穴を掘って埋める?水攻め?………それともフルコース?
「くそっ。こんなところで捕まってたまるかよ!」
やけでも起こしたのか、男がナイフ片手に向かって来た。
逃げればいいのに………って、逃がさないけどね。
幸いというか、足元は扱いやすい土。ちょっと土の魔法を発動させれば………。
ぼこんっ
「ぎゃああああああ!!」
落とし穴が開いて、男が見事に落ちた。深さは5メートルっていうところかな?
落とし穴の上に、水球で蓋をしておいた。
これで、誰かが男を助けようとすれば水球が壊れて男は水攻めに合う。うん。これぐらいはしないと、もうひとりの男とのバランスが取れないもんね。
そして女性を見れば、まだ若かった。15歳くらいかな?
男ふたりに襲われて、必死に逃げていたのだろう。服は所々破れていて、擦り傷もある。傷はすぐ治せるけど、このまま家に帰すのは可哀そうだ。
「あ………あの」
「なに?」
「助けてくださってありがとうございます。あなた様は、貴族のお嬢様でしょうか?」
「ええっ。違うよ!ただの平民だよ」
「でも、そんな上等なレースのスカーフを身に着けられるなんて、貴族の方くらいしか………」
ああ!スカーフ!失敗したぁ………もっと質素な、ただのスカーフを使うんだった………。
少女は、ふさふさの耳を動かしながらわたしの様子を伺っている。そう。ふさふさのネコ科の耳!そしてスカートから覗く、猫のような細い尻尾。つぶらな金色の瞳でわたしを見る様子は、まさに猫!可愛い~っ!
そういえば。さっきの男達もネコ科だったね。平民というよりは少し整った身なりをしていた。裕福な商人の息子かな?
ばっしゃーん!!
水が弾ける音がして見ると、落とし穴に蓋をしていた水球が弾けていた。
落とし穴の淵から中を覗くと、男がもがいていた。
「助けてくれ!俺、泳げねえんだ!頼む!」
「あの、まずいです!」
「え?なにが?」
あの男が溺れることを心配しているの?
「あの男はシュベルク。ミーズハズ子爵の令息ですよ!?このままじゃ………」
あぁ、復讐を恐れているの?
わたしは平気だけれど、この少女は復讐されて、もっと酷い目に合わされるかもしれない。
ちらりと、わたしを追って武器屋を出てきていたクロヴィスを見た。
クロヴィスはわたしを見守るだけで、これまで手を出さずにいてくれたんだよね。
少女はわたしの視線の先を追って、クロヴィスに気づいた。そして「ひぃっ」と悲鳴を上げた。
新手の追手が来たと誤解したようだ。
少女は後ずさろうとしてこけた。泣きそうな顔をしている。
「大丈夫。わたしの連れだから安心して」
そう言うと、少女はまじまじとクロヴィスを見つめ、その美貌に顔を赤くした。こんな状況なのに………。
とりあえず。お仕置きは十分したし、そろそろシュベルク令息を助けようかな。
水を持ち上げると、空に散らした。散らした水は雨となって降り注いだ。
すると、落とし穴の底からひとりの男がずぶぬれになりながら飛び出してきた。いい脚力をしているね。
誰かが落とし穴に落ちたら危ないので、穴はしっかり土魔法で塞いだ。
「くそう!俺が、シュベルク・ミーズハズ子爵令息と知っての無礼か!?げほっ、ごほっ」
「あなたのことは、さっき知ったばかりだよ」
「なんだと!?この辺りで、俺を知らない奴がいるなんて………さては田舎者だな!?」
なんで怒っているんだろう?わたしがシュベルクを知らなかったから?それとも、少女をシュベルク達から助けたから?
「おまえ………!よく見ると可愛いじゃないか。腕も立つようだし、どうだ?俺の護衛として雇ってやろうか?」
この人………頭にウジが湧いているんだろうか?なんでそんな発想になるの?
「やだよ」
「なんだと!?」
「子爵令息だかなんだか知らないけれど、女の子を襲うような奴に仕えるつもりはないよ」
「このぉっ!………!?………ぎゃああああああ!!」
シュベルク令息がわたしの首に手を伸ばした瞬間、背中を斬られて絶叫した。
斬った当のクロヴィスは返り血を浴びることなく平然としている。清浄魔法をかけたようには見えなかったから、風の魔法で壁でも作っていたのかもしれない。




