248 武器屋
「いらっしゃ………陛下!?」
店で掃除をしていた少年が、クロヴィスを見て驚きの声を上げた。
認識阻害の魔法が効いていないのかと隣を見ると、クロヴィスはフードをとっていた。なるほど。それでクロヴィスが誰かわかったんだね。
「ようこそいらっしゃいました!師匠に御用ですか?」
少年は12~13歳くらいで、革のエプロンを身に着けていた。茶色い髪から、ふさふさの耳が覗いている。お尻からは、同じくふさふさの尻尾が垂れていた。それが、嬉しそうに揺れている。
か、可愛い!
「ヨアルに任せたい仕事がある。呼んでもらえるか」
「わかりました!こちらで少々お待ちください」
少年は深々と頭を下げて、カウンターの奥へ消えて行った。
少しして、背はそれほど高くないけれど、やけにガタイのいいおじさんが現れた。禿げ上がった頭にゴーグルが乗っている。見るからにドワーフだ。
鍛冶を生業にしているドワーフは多いのかな。
「よくおいでくださった。陛下が女性をお連れになるとは、珍しいですな」
「あぁ、ヨアル。こいつはセシル、俺の妃だ」
「えっ!?」
そんな紹介の仕方ってある?わたしは、まだ結婚するなんて一言も言ってないんだよ?
クロヴィスをジト目で見つめていたら、ヨアルに笑われた。
「お相手の了承を得る必要がありそうですな」
そうそう。まずは、わたしを納得させるのが先でしょ。
「その話はまたあとでな。セシルに持たせる武器を作ってくれ」
「そうですか。では、見てみましょうかね」
そう言うと、ヨアルは「失礼しますよ」と言ってわたしの右手を取った。手の全体の大きさや形、指の長さ、手のひらの大きさなどを確かめているようだ。次に左手でも同じことをした。
「これまでは、どのような武器を使っておられたのかな?」
「これだ」
クロヴィスが、自分のマジックバッグからわたしの短剣を取り出した。
「ほお。これはまた、見事な作ですな。しかし、この柄では手に合わないはず。調整しましょうか?」
「お願いします!」
短剣は子供の手に合うように作られたものだから、いまのわたしには柄が小さすぎるの。それを直してもらえると聞いて嬉しくなった。
「どれくらいでできますか?」
「柄を直すだけなら1日もあればできますが、新しく作るほうは、1週間はいただきたいですな」
「かまわん。できたら城に届けてくれ」
「短剣をお届けするまで、代わりの武器をお持ちになりますか?」
「いや、いい。こいつは、素手で俺を叩き飛ばすほどのだからな」
「はっ?陛下をですか!?」
うわぁー、恥ずかしい。いまそれを言う!?根に持ってたの?
「あれは、クロヴィスが好きなだけやれって言ったからでしょ」
「確かに言ったが。思ったより力があって驚いたぞ」
それはわたしもだ。
魔素が濃いせいで、身体強化の魔法も強化されているようだ。
「そのように力が強いとなると、素材にもこだわった方がよさそうですな」
「それはヨアルに任せる。最高の品を作ってくれ」
つまり、金に糸目はつけないってこと?
そこまでしてもらうのは申し訳ない。
でも、さっき乗合馬車に乗る時に見たけれど、魔大陸はアステラ大陸と貨幣が違う。当然と言えば当然だよね。互いに交流のない、違う大陸なんだもん。だから、わたしが持っているお金はこの地では使えない。
買い物はすべてクロヴィスに頼らないといけない。それが嫌だった。
クロヴィスの傍にいることを選んだけれど、このままお世話になり続けるのは心苦しい。生活費ぐらい、自分で稼ぎたいな。
「どうした」
「うん。わたしも働きたいなと思って」
「唐突だな」
「生活費を全部クロヴィスに出してもらってるでしょ?だから、わたしにできることをしたいなって………」
「だったら、俺を悦ばせればいい」
「はっ?」
クロヴィスはニコニコと楽しそうにしている。
クロヴィスはわたしの耳元に顔を寄せ、囁くように言った。
「俺を悦ばせれば、俺の仕事が捗る。仕事が捗れば金も稼げる。な?」
なにが「な?」なのか。
「そうじゃなくて、自分の力でお金を稼ぎたいの。この地にもハンターはいる?わたしにもできないかな?」
「ハンターはいるが、セシルには無理だな」
「なんで!」
「俺が一緒じゃないと、城から出れねえだろ」
「あ………」
そうだった!悔しい!ここでも、首輪がわたしの邪魔をする!
クロヴィスは、わたしが彼のモノになったら首輪を外してくれると言っていた。でも、クロヴィスのモノになる気はない。誰かに自分を委ねるなんて、そんなことできないししたくない。
わたしは自分の足で立って、自分の力で生きていきたい。
クロヴィスがいないと生きていけないようになるのは嫌だ。
東の地へ行けたら、魔道具の開発も進んでいるから首輪を外す方法も見つかるかもしれない。
でも、クロヴィスが一緒じゃないと城から出られない………。ちっ。
もう!こんな首輪なんて嫌い!




