247 城下町グランヴィル
王城と城下町は、転移の門で繋がっている。空を飛んだり、瞬間移動できない者もいるからね。それに、警備の問題で、むやみに王城の周辺を飛んではいけないことになっている。魔王ベアテを恐れて、そんなことをする不届き者はいないみたいだけどね。
王城の転移の門は正面入口にあり、城下町の転移の門は町の中心にある。
転移の門を動かすには魔力が必要だけれど、同行者が操作させることができれば、魔力を持たない者も利用できる。
転移の門は、文字通り門の形をしている。門をくぐるだけで、王城と城下町を行き来できるの。便利だよね。
城下町は、とても賑わっていた。見たことのない服装や、容姿の人が闊歩している。魔族が獣人が入り乱れていて、とても活気があった。
建物は年季を感じる古い物から新しい物まで様々あったけれど、建物の高さや色合いなど、統一感を感じさせる。
そして、城下町から見る王城の存在感は圧倒的だった。切り立った崖のような山の頂に、張り付くように立っている。いくつもの尖塔が、雲を突きさすように空に伸びていた。
目を凝らすと、空を舞うペガサスが見えた。
「ジラルディンは飛んでいないね」
「この距離でもわかるのか」
あははっ。驚いてる。
「うん。わたし、目はいいの」
再び城下町に目を戻す。ここは、転移門がある審問の建物を出たところにある広場。
審問の建物とは、転移の門を利用する者が怪しくないか?適正な理由で利用しようとしているか?調べる建物のこと。不適切な理由で利用しようとした者は捕らえられ、建物内の地下牢へ一時収容される。そのあと牢獄へ護送されたりするのだ。
ちょうど広間に乗合馬車がやって来た。
乗合馬車は木の壁で囲まれた立派な作りで、壁には手すりと足置きが設置されている。中は満員で、すでに手すりに掴まっている人もいた。
クロヴィスが御者に料金を支払って、当然のような顔をして手すりに掴まった。魔王様なのに!
その姿が似合わなくて、思わず笑ってしまった。
「笑ってないで。早く掴まれ」
そのあとも笑いは収まらず、わたしは楽しい時間を過ごした。
乗合馬車が揺れるたびに体が浮いたり、角を曲がるときは体が大きく傾いたりして楽しかったの。
「あー、楽しかった!」
「そうかい。手すりに掴まってあんなに楽しむ女の子は初めてだよ。普通、女の子は中に乗るからね」
そう言って、御者が笑って去って行った。
着いたのは、貴族が訪れるような煌びやかな商店街だった。
着飾った男女が、侍女や従僕を連れて買い物を楽しんでいる。
一方わたしは、質はいいけれど平民が着るような服装をしている。こんなところに来ていいのかな?
それに。いくら認識阻害の魔法を使っていたとしても、貴族なら魔王ベアテの顔をしっているはず。気づかれるのは時間の問題だよ。
「ねえクロヴィス。どうしてここに来たの?行きたいお店があるの?」
「いや。セシルが喜ぶかと思ったんだが、違ったか?」
違うよ!!
「早くここから離れようよ!見つかったら厄介だから!」
そう言ってクロヴィスの手を取り、貴族の商店街から離れた。
「で?どこへ行きたいんだ?」
「武器屋!」
「は?」
「グランヴィルの鍛冶がどれくらいのレベルなのか見てみたいの」
「なるほど」
「それに、いま持ってる武器は小さかった頃に作ってもらった物だから、いまの体には合わないの」
せっかくレイヴが自分の鱗で短剣を作ってくれたのに、いまは残念なことに、ちょっと手に馴染まないんだよね。
「どれ。見せてみろ」
「いいよ」
腰のマジックバッグから短剣を取り出して、クロヴィスに渡した。
クロヴィスが短剣を鞘から抜くと、赤い刀身が怪しく光った。
「こいつは大したもんだ。西のケンデルの作か?」
「そう。よくわかったね」
「報告は聞いていたからな。トカゲの小僧が、エングレイドでなにやらやっているようだと」
トカゲって………レイヴのこと?立派なレットドラゴンなのに、クロヴィスにしたらトカゲも同然てこと?
「って、報告って言った!?」
「あぁ、言ったな。セシルの様子を報告させていた。だが、セシルがハンターとなって各地を点々としている間のことは、よくわからない」
なるほど。
魔王ベアテに仕える魔族や獣人じゃ、アステラ大陸では堂々と諜報活動するのは難しいもんね。
「グランヴィルにも刀匠がいる。ヨアルだ」
「そのヨアルのお店はどこにあるの?行きたい!」
「わかった。ついて来い」
クロヴィスはくっくと笑うと、わたしの短剣を自分のマジックバッグにしまい、わたしの手を取って歩き出した。
ちゃんとわたしの歩くペースに合わせてくれていて、歩きやすい。
そっと手を伸ばしてクロヴィスと手を繋ぐと、指を絡めて来た。恥ずかしいけど、こういうのもいいな。
いつしか迷路のような路地に入り、どこをどう通ったのかわからなくなった頃、一軒の店の前に着いた。なにも書かれていない古い看板が、店先にかかっている。その看板がなかったら、とても店には見えない。両隣のように、住宅に見える。
「ここだ」
クロヴィスは、わたしと手を繋ぎながら店に入って行った。




