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243 刺客?

「わたしは、まだクロヴィスの傍にいるよ。シルヴァには、とうさま達へ手紙か伝言を届けてもらいたいの」

「そうか!」

 クロヴィスは顔を綻ばせた。

「ラーシュ、手紙の準備をしろ」

「はい。朝食のあと、すぐ書けるようお部屋に準備いたします」

 暗に、早く朝食を食べるように言われた気がする。

 そう。話してばかりいて、まだ朝食に手をつけていなかったんだよね。


 昨日は夕食も食べていなかったから、お腹が空いている。朝食をぱくぱく食べて皿を空にした。

 これでいいでしょう!?

 執事のラーシュを見ると、「いいでしょう」と部屋へ戻る許可が降りた。

「じゃあクロヴィス、また後でね」

 すっと席を立ち、スタスタと食堂を横切って廊下へ出た。

 そのあとは、つい行儀が悪いとわかっていても、廊下を走ってしまった。


 ばたんっ


 わたしの部屋の扉を開けると、そこには見かけない顔の侍女がいた。驚いたらしく、口をぽかんと開けている。

「死ねええ!」

「ええっ!?」

 突然、隠し持っていたナイフを取り出し、向かって来た侍女。ドタドタと走って来ると、ナイフをわたしの胸に向かって突き出した。遅い。それに動きがぎこちない。

 一歩前に踏み出し、ダンスのステップのように右回転しながら足をナイフに向かって蹴りだした。

 ナイフは侍女の手を離れ、クルクル回って壁に突き刺さった。


「ナイフがだめなら魔法よ!」

 そう叫んで、侍女はわたしから距離をとった。その動きは素人そのもの。プロの暗殺者でないことは確かだ。  

 侍女は両手をわたし向けると、魔力を集中し始めた。遅いし魔力操作が甘い。それに、どうやら使おうとしているのは火の魔法。隣に魔王の私室があるっていうのに、この部屋を焼く気?延焼したらどうするの。

 だからって、単純に水の魔法を当ててもこの部屋が水浸しになるだけで、被害の程度は変わらないだろうと思われた。家具や壁紙は、水に濡れるとだめになってしまうからね。


 だったらどうするか………。


 動きを封じる。

 一足飛びに侍女に面前まで行き、驚いて口を開けた彼女の頭に水球を被せた。水球の中で呼吸ができず、侍女は魔法の発動を止めてわたしに縋りついてきた。それをさっと振りほどいて距離をとる。

 ………少しして、侍女は意識を手放した。

 侍女が気絶し倒れたのを見て、水球を消した。

 弾けた水球は、水蒸気となって消えた。絨毯を濡らしたくないからね。 


 そのとき、扉が開いてエマが入って来た。

「セシル様、便箋をお持ちしま………え?………マリエッタ様!?」

 エマは便箋セットをテーブルに置くと、倒れている侍女に駆け寄った。そして侍女………マリエッタ?が気を失っているだけなことに気づくと、ほっと息を吐き出した。

 壁に突き刺さったままのナイフに気づき、顔をしかめると、今度はわたしを見て心配そうな顔をした。 

「お怪我はございませんか?」

「うん。わたしは大丈夫。それよりその女性………」

「マリエッタ様は、北の地の4大家門のひとつ、アンネス侯爵家のご令嬢です」

「なるほど?」

 地位ある貴族女性ってことね。それが、どうして侍女の恰好なんかして襲って来たのかな?


 そんなこと、想像するまでもない。嫉妬だ。

 美しく、強く、北の地に君臨する魔王たるクロヴィス・ベアテ。その伴侶になりたいと願う女性は多くいると思う。

 そこへ、見も知らない少女が現れ魔王ベアテの寵愛を受けていると知らされたら、心穏やかではいられなかったのだろう。

 気持ちはわかる。自分で手を下した覚悟も認める。でも、結果はお粗末としか言いようがない。………よほど切羽詰まっていたのかな。それにしても、弱すぎない?


 コンコンコン


 ノックの音がして、エマがはっとした顔をした。

「どなたですか?」

「ラーシュだ。入るぞ」

 言葉が終わると同時に、執事のラーシュが応接間に入って来た。すぐに床に倒れているマリエッタに気づいたものの、驚きを表に出すことはなかった。後ろ手に扉を閉め、わたしに顔を向けてきた。


「なにがあったのですか?」

「部屋に戻ったら彼女がいて、ナイフで襲ってきたの。撃退したけど、そのあと魔法を使おうとしたから気絶させるしかなかったの。傷はつけてないよ?」

「そうでしたか。アンネス家には厳重抗議しないといけませんね」

 ラーシュが、冷たい視線をマリエッタに向けた。

「城の警備も強化しないといけません。まずは………」

 そうだよね。なんと言っても、ここは王と王妃の私室。こんなところまで侯爵令嬢が入り込めるなんて、警備の不手際と言ってもいい。


「まずは、マリエッタ様の変身を解きましょうか」

 えっ?変身て言った?言ったよね?

 ラーシュがぱちんっと指を鳴らすと、マリエッタの体が縮んだ。さっきまでは20歳くらいの女性だったけれど、いまはその半分、10歳くらいの少女に見える。幸いというか、服も縮んでいたので、恥ずかしい自体には陥っていない。



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