24 憧れのドラゴン5
「なるほどな。無傷でドラゴンを退治し、追い返した後、運動不足解消のため試合をしたと………って、そんなわけあるかー!」
「「「「あ、やっぱり?」」」」
すっかり息が合うようになってきた、わたしとバッツ達3人。
「だいたい、なんで装備もない男が1人増えておるのだ!不自然だろうが!」
「…しかたないですね。伯爵様、人払いをお願いします」
「わかった。おまえ達、外へ出ておれ」
促されて、執事とメイドが客間の外へ出て行った。
「じつはですね………ぐえっ」
説明しようと身を乗り出して、なにを勘違いしたのか、レイヴネルに引き戻された。
「おまえは俺の嫁になるんだ。他の男に近づくな」
どんだけ嫉妬深いの。
溜息をつくと、とうさまが代わりに話してくれた。
「…この男が、村の家畜を襲っていたレッドドラゴンです。今は見ての通り………娘に懐いていますが」
「それは………人化の術か?」
「ご存じでしたか」
「話には聞いたことがある。魔族や竜族などの高位の存在は、人化の術が使えると。しかし、見るのは初めてだ」
魔族や竜族の他に、獣人も人化の術が使えるらしい。ということは、人間に化けて、人間の街で暮らせるということ。情報収集のために、そんなことをするのかな。人間は魔族に化けることはできないのに、ずるいな。
今もわたしの頭を撫でまわすレイヴネルを、伯爵様はじっと観察している。
「こうもドラゴンらしいところがなければ、人間と見分けがつかぬな」
「当たり前だ。そのための人化の術だぞ。バレては意味がない」
「それで、お聞きしたいのだが………なぜ家畜を襲っていたのだ?なにか目的が?」
「動物は食べるために貰ったのだ。ただの餌場に過ぎない。人間共は、襲って来たから追い払っただけだ」
なんてことないように、言ってのけるレイヴネル。本当に、それ以上でも、以下でもないのだろう。
「もうあの餌場は必要ない。餌場より大事な、よ………友達を見つけたからな」
嫁と言おうとして、わたしに睨まれたレイヴネルが言い直した。よしよし、しつけは大事よね。
「…それで、このことは私達と伯爵様だけの秘密にしていただきたい」
「うむ。それは、私にどんなメリットがあるのかね」
「このレッドドラゴンを、再び敵に回さずにすみます」
「他には?」
「レッドドラゴンを追い払った伯爵として、その手腕を周囲に認められます。ただし………」
そこで一旦言葉を切り、デトラー伯爵を睨みつけるとうさま。
「情報を漏らした時には、一族郎党、死を覚悟していただくことになる」
まさか、本気じゃないよね?そうは思うけれど、若い頃は暗部として活躍していたとうさまだもの。躊躇なく人を殺せるに違いない。でもわたしは、とうさまにそんなことはさせたくない。
「…君の目を見れば、本気だとわかる。心配しなくても、情報は漏らさんよ」
肝が座っているらしいデトラー伯爵様。とうさま相手に一歩も引かない姿勢がかっこいい。
なにか企みがあるのかもしれない。そうじゃなければ、こんな素直に言うことを聞いてくれるはずがない。いくら、良い貴族だとしても。
「それで、だ。あの鱗は、貰ってもいいのか?」
「え?」
偵察隊に渡したレッドドラゴンの鱗のことを言っているの?
「あれは、ドラゴン討伐の証拠としてお渡しした物。依頼主である伯爵様の物です」
「そうか!いや~、ドラゴンには若い頃から憧れておってな。貴重なレッドドラゴンの鱗となれば、その価値ははかり知れん。これで、社交界で他の貴族達に自慢できるぞ!はっはっは」
ご機嫌な様子で笑うデトラー伯爵。なるほど。伯爵もドラゴンに憧れる1人だったらしい。かっこいいもんね、ドラゴン。
ドラゴンには、火、水、雷、氷の4属性がいる。レイヴネルはそのうち火属性に当たる。特徴的な赤い鱗は火に強く、逆に氷に弱い。弱いと言っても、他の属性攻撃より多少はダメージを受けると言った程度で、大ダメージを与えるまではいかない。体力、持久力共にあり、戦闘が長引けばやられるのは人間側になる。一気にカタをつけられるほどの戦闘力がなければ、勝ち目がない。
ただでさえ勝ち目のない戦いなのに、人化したレイヴネルにさえやられてしまった。レッドドラゴンと言うのは、どれほどの戦闘力を持つのか………。
結果的にドラゴン討伐ではなく、仲間にすることになってしまったが、表向きはドラゴンを追い払うことに成功した、ということになる。デトラー伯爵は気前よく報奨金を払ってくれた。依頼完了確認書の評価はA。
バッツ達が大喜びしていた。
普通の依頼じゃ貰えない大金と、高い貢献度ポイントだもんね。嬉しいだろうなぁ。昇格を目指すバッツ達には、貢献度ポイントは大事だよね。
あ、レイヴネルもハンター登録をしなくちゃ。
ハンター証は身分証にもなるので、各国を渡り歩くわたし達には必要な物なの。身分証がないと入国審査で時間がかかったり、悪ければ入国拒否されてしまう。
それに、装備も揃えないといけないなぁ。