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235 ドロドロに愛したい

 その”彼”が、成長した姿で目の前にいる。体はずいぶん逞しくなり、肩幅は広くなり、胸板も厚くなっている。声は低くなり、色気を含んでいる。

 わたしが恋をした少年は、魔王ベアテだった。正直に言って複雑だ。好きだった人に再会できたことは嬉しいし、成長した姿を見られたことも嬉しいと思うけど、相手は魔王だよ?そんな人物に囚われて逃げられない状況はちっとも嬉しくない。

 そう。首輪に指輪まで嵌められて、ちっとも嬉しくない!

「どうした。不機嫌そうだな」

「おかげさまで」

 キッとクロヴィスを睨むと、執事のラーシュがなにか言いたげに口を開いた。けれど結局、何も言わずに口を閉じた。


「わたしはあなたのペットじゃない。首輪なんて必要ないわ」

「もちろん、ペットじゃない。愛しい妻だ」

 食事を終えたクロヴィスが、心から愛しいものを見るかのような視線を送って来た。

「わたしは妻じゃない!」

「そうかな?」

 ニヤニヤと笑うクロヴィスが憎たらしい。

「さて。そろそろ行くか」

「どこへ?」

「寝室」

 しれっというクロヴィスに対し、わたしはわけがわからず首を傾げた。

 どうして寝室?こんな昼間からなにを………ナニをする気!?

「ラーシュ、邪魔するなよ」

 そう言い捨てて、クロヴィスはわたしを抱き上げると瞬間移動をした。


 いやあーーーー!!


 侍女達にいい笑顔で見送られて、次の瞬間にはクロヴィスの寝室にいた。

 黒を基調とした室内に、巨大なベッドが鎮座している。

 そのベッドに、わたしを横抱きにしたまま座るクロヴィス。耳元にクロヴィスの息がかかってくすぐったくて堪らない。

「セシル、俺を好きか?」

 はぁ?なにを言っているの?

 びっくりして顔を上げると、くっつきそうな距離にクロヴィスの顔があって体がびくりと跳ねた。

「俺はおまえが好きだ。愛してる。セシルのすべてが欲しい。ドロドロに愛して、俺以外のことを考えられなくなるようにしたい」

 

 そんなことを言われて、平常心でいられるわけがない。顔に血が上っていくのがわかった。

 こんなふうに口説かれるのは初めてで、どうしていいかわからなくなる。

 シルヴァやレイヴに「好きだ」と言われたことはあるけれど、こんなふうじゃなかった。

 クロヴィスの目は熱を帯びていて、そこに映るわたしは戸惑っているように見える。

 うん。戸惑っている。心臓がドキドキいって、脈が早くなっていく。

 

 クロヴィスの目を見ているのが耐えられなくなって、下を向いた。

 すると、顎に手を添えられて上を向かされた。

「俺を見ろ。おまえの目に映る俺を見たい」

 ううっ。心臓が持たないよ!

「俺はセシルのモノだ。怖がる必要はない。好きに触ってみろ」

 そう言って、クロヴィスはわたしの手を取り、自分の顔を触らせた。その頬はほんのり熱を帯びていて、触れた感触が心地よかった。


 そういえば。”彼”と過ごしているとき、”彼”はわたしに触れたがった。手を繋ぐのはもちろん、頭を撫でたり、肩を組んだり………なにかと理由をつけて触ろうとしてきた。

 ”彼”がいなくなったあと、やたらと触れてくる手がなくなって寂しくなったのを思い出した。

 そんなことを考えていたから、すっかり油断していた。

「セシル」

「なに?………んんっ」

 クロヴィスの柔らかい唇が、わたしの口を塞いでいる。そのことに気づいて、頭がクラクラした。どうかしてる。気持ちいいと感じるなんて。


 クロヴィスの胸をドンドン叩いて抗議した。

「悪い。我慢できなかった」

 悪びれた様子もなく、口を離してクロヴィスが言った。まだ顔はすぐ近くにあり危険だ。

「信じられない!………んうっ!?」

 顔を両手でがっしり掴まれ、再びキスをされた。だめ。息が続かない。角度を変えて攻めて来るそれに、腰から力が抜ける。

 クロヴィスの胸を叩いて抗議したけれど、今度は離してくれなかった。

 そこで、クロヴィスの首に触れると、力を込めて爪を立てた。


 ガリッ


 爪がクロヴィスの首を傷つけた。

 クロヴィスはびくりとして、ようやく顔を離してくれた。びっくりしている。

 わたしもびっくりした。まさか、魔王ベアテを傷つけることができるとは思ってもみなかったから。

「くっくっく。俺を傷つけられるのは、おまえだけだ。セシル」 

 そう言って、クロヴィスは機嫌よさそうに笑った。

 怒られなくて良かった。

 抗議したかっただけで、傷つけるつもりなんてなかったから。


 そうしてクロヴィスはわたしをベッドに座らせると、自分は魔王らしい豪奢な服を脱ぎ始めた。なんで!?

 いくらも経たないうちに、クロヴィスは上半身裸になった。鍛え上げられた素晴らしい肉体だった。眼福である。って、そんなこと考えている場合じゃない!

「なんで脱ぐの!?」

「ん?寝るのに邪魔だからな」

 当然のことのように答えるクロヴィス。

「きゃあ!」

 クロヴィスに腰を掴まれ、ベッドに引きずり込まれた。

 そのあとは、クロヴィスに腕枕をしてもらい、向かい合う形になった。顔!顔が近いよ!なんだかよくわからない良い匂いもするし、裸の胸も見えるしで、もはやパニックである。




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