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231 見張られていた

 お風呂から上がると、アナベルという侍女が服を用意してくれていた。ただし、それはわたしが一度も着たことがない華やかなドレス………気持ちが沈む。こんな動きずらいドレスを着ていたら、どうやって戦うのか………って、なんで戦うこと考えてるの?そもそも誰と?思わず、苦笑が漏れる。

 それを聞き取ったアナベルが顔をしかめた。

「気に入りませんでしたか?」

「えっと、そういうわけじゃなくて。ドレスなんて着たことないから、戸惑ったの」

「それなら大丈夫です!綺麗にして差し上げますからね!」

「え、ありがとう?」

 なぜか張り切ったアナベルとエマの手で、わたしはドレスを着せられ、髪を結われ、どこのお嬢様?という姿に仕立てられた。

 マジックバックはドレスに合わないという理由で取り上げられそうになったけれど、それがないと落ち着かない。マジックバックは腰につけず、手に持つということで妥協してもらった。


 食堂へ案内されると、そこにはすでにクロヴィスがいた。わたしを見て、珍しい物見たように目を細めている。

 テーブルは貴族の屋敷によくあるような長細い大きなテーブルではなく、3~4人で使うような小さなテーブルだった。

 わたしは椅子を引かれて、クロヴィスの向かいに座る。手を伸ばせば触れられそうな距離である。緊張する。

「綺麗だ」

 そう言うクロヴィスのほうが、よほど綺麗だと思った。

 いまは口角を上げて、満足そうに笑っている。朝から色気があり、エマとアナベルはそんなクロヴィスに惚けたようになっている。まぁ、侍女達が惚けていたのは一瞬で、すぐに真面目な顔に戻ったけれど。


「それはマジックバックだな。珍しい物を、よく手に入れたな」

 ドレスには不似合いなバッグを持っていたからか、クロヴィスが気づいて声をかけてきた。見ただけでわかるなんてすごいね。

「シャルル・ギュスターヴが作り方を教えてくれたの」

 相手は魔王ベアテだ。ここで黙っても、きっと簡単に調べるんだろう。そう思って、話すことにした。

「ほう。ヴァンパイアどもがよく教えたな」 

 クロヴィスはすでに知っていたのか、面白がるように言った。

 まるで、わたしが正直に話すか試しているようだ。

 わたしは、オ・フェリス国の王都オーシルドでシャルル・ギュスターヴ達に出会ったこと、ダーヴィド・ギュスターヴを捕らえるために協力する見返りにマジックバッグの作り方を教わったこと、ダーヴィドの魔法に触れて体が成長したことなどをかいつまんで話した。結局、タンク殺しはダーヴィドではなくルーだったから、きっと今頃ルーは罰せられているだろう。

 懐かしく思うと同時に、悲しく、切ない気持ちになった。


 話し終えて顔を上げると、そこには不機嫌そうなクロヴィスの顔があった。えっ。どこに不機嫌になる要素があったの?

「ちっ。そんな報告は受けてないぞ」

 報告??

「ラーシュ!」

「はい、陛下」

 クロヴィスに呼ばれて、傍に控えていた執事ラーシュが一歩前へ出た。

「報告は正確にするように伝えろ」

「かしこまりました。しかし、あそこは強力な結界が施されており、使いの者では中の様子は探れないかと………」

 あそこ?もしかして、とうさまが家に施した結界のことを言っているの?

「御託はいい。仕事を怠るな」

 クロヴィスのピリピリした空気に、ラーシュは頭を下げて一歩下がった。


「あの、クロヴィス………」

「なんだ」

 恐る恐る話しかけると、クロヴィスは不機嫌な表情のまま振り向いた。

「もしかして、わたしを見張らせていたの?」

「当然だろう。俺が、おまえを放置するわけがない」

 

 がーん!!


 気づかなかった。どうして?一体、いつから………?そもそも、誰がわたしを見張っていたの?

 それにしても。とうさまもシルヴァも、そんなこと言っていなかった。ということは、日常の中に溶け込んでいたということ。わざわざ配置された間者ではないのだ。

「なんのためにそんなことしたの?」

「俺がずっと傍にいるわけにはいかなかったからな。セシルの様子を知るために、獣人どもに見張らせていた」

「え、獣人?」

「たとえば、セシルの家の隣人………ラーシュ、あの女はなんという名前だった?」

「ターヤです、陛下」

「ええ!?」

 思わず立ち上がっていた。

 だって、ターヤはわたしが生まれる前からあそこに住んでいて、わたしにとっては母親代わりのような人なのに。どうしてクロヴィスにわたしの情報を流していたの!?って、クロヴィスが魔王ベアテだから?

 ターヤは、クロヴィスが魔王ベアテだって知っていたの?知っていて協力していたの?とてもそんな風には見えなかったけど………どうして………なにか弱みを握られたの?


 なんだかターヤに裏切られたようで、悲しくて堪らなかった。

「!!………なぜ泣く?」

 クロヴィスが狼狽えたような表情をして、テーブルにあったわたしの手を握って来た。もちろん振りほどこうとしたけれど、その手はびくともせず、イラっとした。

「………放して」

 声をふり絞るように言った。

「えっ?」

 少し、声が小さかったみたいだ。

 わたしはぎろりとクロヴィスを睨みつけた。

「は・な・し・て」

「あ、あぁ」

 

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