23 プロポーズ2
バッツ達は動きの早さについて行けず、ぼうっとしている。
「すげえな。こんなんで、同じCランクだなんて恥ずかしいぜ」
「とうさまは身体強化の魔法を使っているの。だから、そんなに落ち込むことはないですよ」
「さっきも刀身になにかやってたよな。あれも魔法なのか?」
「はい。魔法剣です。とうさまは魔法剣士ですから」
「それであの強さなのね。納得だわ」
しばらく剣の打ち合いが続いた後、とうさまが若干、苦しそうな息をしてレイヴネルから間合いを取った。体力の限界かもしれない。
「そこまで!」
声をかけて、2人に歩み寄った。
「なんでだよ。せっかく面白くなってきたのに!」
「…まだやれる」
「これは、とうさまがレイヴネルの実力を見るための試合ですよね?それなら、もう十分なはずです。とうさま、少しは年を考えてください」
わたしに言われて、とうさまは肩を落とした。
「やっぱり俺の嫁だな。俺の味方に………」
「嫁ではありません」
「え?だって、こんなに良い男だぞ。どうして………そうか、他に好きな奴でもいるのか?」
「ええ?違いますよ。とうさまも、わたしに好きな人なんていませんからね!」
レイヴネルの言葉に振り返ったとうさまに、しっかり釘を刺しておく。
「だったら、どうしてダメなんだ。訳を言え」
「まず、わたし達は種族が違います。そして年が離れすぎです。レイヴネルはいくつですか?わたしはまだ10歳ですよ」
「種族の違いなんて、大した問題じゃない。種族が違っても、愛し合っている連中は大勢いるぞ。年は、497歳だ。おまえもあと数年すれば大人になるんだろ。ちょうどいいじゃないか」
なにがちょうどいいのか………。
「第一、わたしのどこがいいですか。会ったばかりですよね。初対面の相手に結婚を申し込むなんて信じられません」
「そ、それは………ひ、一目ぼれだ!」
「「「うわあ………」」」
バッツ達の、なんとも言えない声が響いた。
レイヴネルは顔を真っ赤にして佇んでいる。
「わたしはまだ子供です。恋愛経験もありません。一目ぼれだなんて、信じられません。結婚はお断りします」
「「「うわあ………可哀そう」」」
バッツ達の声が聞こえた気がしたけれど、それは無視した。
レイヴネルはがっくりと肩を落とし、地面に両手をついている。
「…だから、お友達になりませんか?」
「え?」
顔を上げて、わたしを見つめるレイヴネル。
「ドラゴンの友達なんて初めてです。よろしくお願いしま………ぎゃ」
手を差し出すと、手を素通りされて抱きつかれた。
「いつか、うんと言わせてみせるぞ!」
「いいから、セシルから離れろ!うぐぐっ」
とうさまが、わたしからレイヴネルを引き離そうとしているけれど、レイヴネルの力が強くとうさまでもかなわない。「うぐぐっ」なんて言ってるとうさまを、初めてみたかも。
「セシル、俺に敬語を使う必要はないぞ。なにしろ、友達だからな」
なぜか偉そうなレイヴネル。そして、レイヴネル自身も、最初の尊大な口調が、男の子らしいくだけた口調に変わっている。
そこへ、偵察していた領地軍がやって来た。危険はないと判断したらしい。
「見ていたが、すごい剣技だったな。あんな剣技は、うちの隊長でもできないぞ」
「それで………1人増えてるみたいなんだが、どこから現れたんだ?ここへ来たのは5人だっただろう?」
「そうそう。煙が消えたらドラゴンがいなくなっててビックリしたなぁ」
「「「「え?」」」」
せっかくのドラゴンの変身シーンを、2人して見逃したらしい。突然、現れた少年ととうさまが試合を繰り広げているのを大興奮で観劇し、落ち着いたようなので傍へやって来た、ということだった。
「で、ドラゴンはどこへ行ったんだ?」
本気で言っているので、困ってしまう。
レイヴネルがレッドドラゴンだと明かすのは簡単だ。でも、そうすると、レイヴネルやわたしを利用しようとする人達が寄って来てしまう。王宮や、貴族や、商人なんかが。そうすると、今のような平穏な日々は送れない。それは嫌だ。
それに、ジョン・デトラー伯爵は、信用できる人だろうか?この情報を、自分に有利なように利用しようとするだろうか?それとも、自分の胸のうちに秘めておいてくれるだろうか………。
「ドラゴンなら、もう来ないぞ。おまえ達がよそ見している間に痛めつけておいたからな。逃げて行ったぞ。ほら、証拠だ」
レイヴネルがポケットから出すふりをして、赤い鱗を差し出した。
その間も、レイヴネルはその逞しい腕でわたしを抱き締めたまま。
「おお!これは、間違いなくドラゴンの鱗!」
「では、ドラゴンが逃げたという話は………」
なんて信じやすい人達。それにしても、偵察兵なのによそ見してていいの?これは、そんな気の抜けた仕事なの?初めから頼りにしていなかったけれど、これじゃあ、わたし達を助ける気もなかったでしょうね。
「………というわけです」
領主の館へやって来て、客間に通されたわたし達。とうさまが代表して、ドラゴン討伐の話をした。適当に盛った話を。だってありのまま話しても信じてもらえないだろうし、信じられても困る。