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229 俺を見ろ

「セシル、俺を見ろ」

「?」

「おまえは、俺だけを見ていればいい。よそ見をするな」

 言っている意味がわからない。

 よそ見って、どういう………?

「んうっ!?」

 クロヴィスがわたしの肩を抱き、顔を寄せて来たので、思わず手が出ていた。クロヴィスの口に。うわぁ。柔らかい。その感触に、なんとも言えない気分になる。

「くっくっく。いい反応だな」

 楽しそうに微笑むと、クロヴィスはわたしをベッドに残して立ち上がった。

「今日はゆっくり休むといい。明日、侍女達を紹介してやる」 

 そう言い残し、クロヴィスは自分の部屋へ戻って行った。


 ひとり部屋に残されて、ようやくほっと一息ついた。

 だけど、ぼうっとしているわけにはいかない。まずは、この部屋の中をチェックしないと。

 部屋には大きなクローゼットがあり、開けてみると着たこともない華やかなドレスがびっしりと入っていた。サイズはおそらくぴったり。とりあえず見なかったことにして、箪笥を開けてみると、今度は普段着と思われる服が入っていた。他の箪笥には、色々な小物類や下着などが入っていた。靴もヒールからブーツまで選り取り見取りだ。

 そのあと、クロヴィスの寝室へ続く扉とは違う扉を開けてみると、そこは応接室になっていた。誰か来客があったときに、もてなすための部屋だ。………って、誰が来るの?

 応接室から、おそらく廊下へ通じる扉はあったけれど、外に人の気配を感じたので開けるのはやめておいた。


 寝室に戻って、窓から外を覗くと、夜空に瞬く無数の星が見えた。月の位置から察するに、いまは夜中らしい。さっきまでいたクレーデル領主館とは月の位置が違う。

 そして、夜空に羽ばたくモノの影が見えた。あれは………ドラゴン?

 ここが、アステラ大陸ではないことは確かなようだ。アステラ大陸では、あんな風に人目につく場所をドラゴンは飛んだりしない。

 あぁ。本当にここは魔大陸なの?

 なんでわたし、こんなところにいるの?

 考えれば考えるほど、泣きたくなった。皆に会いたかった。

 広い部屋にひとりぼっちでいるのが心細かった。


 はぁ………。

 とりあえず、寝ないと。体力が落ちたら、ここから逃げることもできなくなる。

 全身に清浄魔法をかけて、靴を脱ぐとベッドに横になった。

 だけど、とても眠れそうにない。そう、思っていたのに………ふかふかのベッドに横になったとたん、わたしは眠気に襲われて眠りに落ちていた。


「んっ?………シルヴァ………?」

 気が付くと、誰かに抱き締められていた。一瞬、それが誰だかわからなかった。逞しい胸がシルヴァのものでも、レイヴのものでも、ましてやとうさまのものでもないことに気づいてびくりと体を震わせた。

 顔を上げると、超絶不機嫌そうなクロヴィスの顔が間近にあった。

「ああん?誰がシルヴァだって?」

 これはまずい!

「この俺を、あの悪魔と一緒にするな」

 あ、クロヴィスはシルヴァを知っているんだね。


「………シルヴァを想って泣いていたのか」

 そう言うと、クロヴィスがわたしの目元を拭ってくれた。

 そのときになって、ようやく自分が泣いていたことに気づいた。

「あ、これは………」

「そんなにシルヴァが大事か」

 クロヴィスは、傷ついた犬のような瞳をしていた。

 その様子に、自分が悪いことをしているような気にさせられる。わたしはなにもしてないのに!

 

 うん。考えてみれば、わたしは有無を言わさず攫われて、首輪まで嵌められて、勝手にベッドに潜り込まれたあげく言いがかりをつけられているのだ。これは、怒っていいよね?

「まず離して」

「いやだ」

「どうして」

「触りたいから」

「!!」

 なんて自分勝手な理由!


 ぐいっと手の甲で涙を拭って、クロヴィスの胸を叩いた。力を込めて叩いたのに、それはびくともしなかった。魔族って頑丈なんだね。

「なにをしてる?」

「怒りをぶつけてるの」

「はははっ。それはいい。好きなだけやってみろ」

 ほほうっ。言ったね?

 わたしは身体強化の魔法をかけると、渾身の力を込めて拳をクロヴィスの胸に叩きつけた。


 どごんっ!


 クロヴィスの体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。壁の一部が崩れ、向こう側が見えている。侍女らしき女性が、驚きに目を見開いていた。

「陛下!?」

「来るな」

 侍女が駆け寄って来ようとするのを、手を上げて制したクロヴィス。

 立ち上がり、愉快そうに肩を震わせた。

「くっくっく。やるな?」

 クロヴィスは寝巻姿ローブで、胸元がはだけている。それを見て、顔が赤くなるのを止められなかった。どうしてそんな恰好なの!もっと、ちゃんとした服を着ていてよ!と、心の中で叫ばずにはいられない。


「それで。少しは気が晴れたかよ?」

 クロヴィスが寝巻についた埃を払いながら聞いてきた。

 こっちへ来る!と身構えた直後、わたしはクロヴィスにベッドの上に押し倒されていた。瞬間移動を使ったのだ。こんなの不意打ちだよ!

「体を動かしたいなら、いくらでも付き合ってやるぞ」

 ええっ!?この状況でそれを言う??


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