225 旅立ち2
このお話で、ア・ッカネン国編は最後です。
次話からは、魔大陸編になります。
クロード達を見送ったあと、わたしは笛作りを再開した。力が足りないので、身体強化の魔法をかけながら作業した。ようやく形になったのは、日も暮れてきた頃。
そろそろ、わたし達も王宮へ向かう時間だ。
慌ただしく戴冠式は行われ、クロードは無事にア・ッカネン国の新国王となっているはず。
アーカート王とその王妃が好き勝手してきたア・ッカネン国を立て直す役目を、これからクロードとユリアナ王妃が担っていく。重責だ。でも、ふたりならきっと、力を合わせて頑張っていけると思う。
わたしも少しはクロードの手伝いができたらいいのだけれど、わたしがいたら、たぶん面倒なことになる。わたしの正体を、クロード達は他の人に話さないと信じているけれど、いまの王宮は信用できる人が少ない。アーカート王と王妃に仕えていた人間ばかりで、悪事に慣れている人が多いから。もしわたしがかあさまの娘と知られたら、その情報をチャールズ王に売るに違いない。
そうなれば、もうわたしは自由ではいられなくなる。
いっそのこと、魔大陸にでも行こうかな………。
いやいや!わたしってば、なにばかなこと考えてるの。魔大陸へ行ってどうするつもり?魔王が支配する大陸で、人間が無事に過ごせるわけないじゃない!………あれ、そうでもないかも………?
だって、仲間に悪魔とレットドラゴンとフェンリル、ツァラがいるんだよ?こんなに心強いことなんてない。もしかして、魔大陸でもやっていけるかも………。
ううん。やっぱりだめ。だめだよ。皆に頼って生きていくなんて。そんなのわたしらしくない。
そもそも。王宮には長居をしないんだから、わたしの素性だってバレないんだし、逃亡する必要なんてない。
「セシル、そろそろ出発するってニキが言ってるよ」
「あ、うん。フィー、教えてくれてありがとう」
「僕、ベンベルグに乗るの楽しみ!」
そう。オアシスを出発するわたし達を送りに、王蟲ベンベルグが来てくれることになってるの。他の兵士でかまわないと言ったのに、「世話になった礼だ」と言って譲らなかった。
オアシスの端に行くと、すでに6匹のサンドワームがいた。王蟲ベンベルグに、ジェンナ、子サンドワームが2匹、そして護衛の兵士が2匹。これは、目立つどころの話ではない。
昨日、クロード達がサンドワームに乗って現れたばかりだもの。人々は砂漠に注目しているはず。そこへサンドワームに乗ったわたし達が現れたら、嫌でも注目されてしまう。
『おぉセシル。来おったな。送りに来てやったぞ』
『どうして、ジェンナまで………』
『子供達が行くと言ってきかなかったのでな。付き添いだ』
『セシル、このあいだは助けてくれてありがとう!』
『僕からもお礼を言うよ。ありがとう』
『『我々は護衛です!』』
『はぁ………』
思わず、ため息が漏れる。
わたし達は、王蟲ベンベルグとジェンナに別れて乗った。子サンドワームはまだ小さく静かに砂漠を走ることができず、兵士達は護衛の任務があるからだ。
子サンドワームは、砂の中から飛び出してみたり、空中で体をひねってみたりとおおはしゃぎだった。大人達は、その様子を微笑ましく眺めていた。
やがて砂漠の端が見えて来た頃、人影を見つけた。最初は、王宮へ向かう馬を用意して待ってくれているのかと思ったけれど、それにしては数が多すぎる。よくよく見れば、貧しい身なりをしている者ばかりで、その数は100を優に超える。
「お待ちしておりました。馬は用意してあります。どうぞ、こちらへ」
代表して声をかけてきたのは、ゴドだった。
集まった人々を見れば、やせ細った体ながらも目が輝き、強い意思をたたえている。普通の民衆ではない。普通の人間なら、サンドワームの群れを見て腰を抜かしてもおかしくない。彼らは………。
「我らレジスタンス一同、皆さまに感謝申し上げます!!」
そう言って、彼らは一斉に頭を下げた。きびきびとした動きが、訓練を積んできた者だと言っている。
ゴドが片手を上げると、人々が左右に割れて道ができた。その先に、手綱を持った人々がいた。騎士の恰好をしている。
「騎士の中にも、レジスタンスの仲間を入り込ませていたのです。仲間が王宮まで護衛いたします。どうぞご安心ください」
ありがたいけど………これって目立つよね?
「………気持ちはありがたいが、護衛は必要ない」
とうさまが言うと、ゴドは困ったように顔をしかめた。
「しかし、いま王都は大混乱を極めています。新たな王の誕生に王都中が浮きたって興奮状態です。騎士の護衛がいなければ、王宮へ向かうのは難しいでしょう」
「………わかった」
「おわかりいただけましたか!それでは………」
「王宮へ行くのはやめる」
「はっ?クロード王が、皆様をお待ちなのですよ!?」
「あいつも子供じゃない。いまの状況を考えれば、俺達が行かなくても理解するだろう」
そうだね。クロード達に会えないのは寂しいけれど、もう会えないというわけじゃないし、挨拶せずに旅立ってもいいのかもしれない。
一旦、オ・フェリス国のクレーデルへ戻るのもいいな。リムハム辺境伯もクロードのことを気にかけてくれていたから、クロードがア・ッカネン国王になったと知れば驚くに違いない。
「しかし、王宮へ行かれないとすると、どちらへ向かわれるので?」
「おまえにそれを言う必要はない」
とうさまがゴドに冷たく言い放ち、再びサンドワームに乗ってオアシスへ向かうことになった。
たぶん、夜になってからレットドラゴン化したレイヴに乗って、他の地へ向かうんだろう。
新たな冒険が待っているかもしれない。そう思うと、わたしの胸は高鳴った。




