218 王の証
ピィーーーーーー!!!
レオが笛を吹くと、それに答えて一匹のサンドワームが現れた。
『お呼びですか。………あ、ツァラ様~!!人の姿も素敵ですね!さすがツァラ様です!』
………テンション高めだった。
サンドワームに褒められて、フィーもまんざらではない様子。えっへん!と胸を張っている。
『僕のことはフィーと呼んでね。それが名前だから』
『はい、フィー様!素敵なお名前です!』
『でしょ?セシルがつけてくれたんだよ』
『なんと!フィー様にお名前をつけるとは………セシル様、只者ではないですね!』
いやいや、只者だから!
『それでね。セシル達がサンドワームの巣に行きたいんだって。案内してくれる?』
あ、ようやく本題に入った。よかった。
『達?具体的には、どなたが行かれるのでしょう?』
『えっとね。セシルと、サニア、レオ、それからクロードだよ』
『人間ですか………そうですね。我々、兵士は王の命令で人間を食べないようになりましたが、それ以外、特に女衆が血に飢えているので、人間は危険です。もし、どうしても行くとおっしゃるなら、セシル様と手を繋いで、決して手を離さないでください。セシル様に手を出すような馬鹿はおりませんから、それでなんとかなるでしょう』
クロードに今の話を通訳すると、「わかった」と返事をしてわたしと手を繋いだ。するとなぜか、その他の全員が微妙な顔をした。なぜ!
「セシルと手を繋ぐのはしかたないとして、どうして恋人繋ぎなんだ!」
レイヴの一言で、はっとなった。恋人でもないのに、というか、ユリアナ令嬢という妻がいるのに、クロードとこんな手のつなぎ方をしたらまずいよね。
「クロード様の安全を考えたら、致し方ありませんわ」
ユリアナ令嬢が理解を示し、結局、手が離れないよう、恋人繋ぎの上からリボンで結ぶことになった。
レイヴとフィーが、かなり不満そうだったけれど。命には代えられない。
そうしてサンドワームの背に乗り、わたし達はサンドワームの巣へ向けて出発した。
昼間、王蟲ベンベルグの背に乗って遊んだときとは違い、このサンドワームは静かに進んでくれた。おかげで、アトラクションのような感じはなかったけれど、ゆっくり夜空を楽しむ余裕があった。
少しして、月明りに照らされた大きな岩が、小山のようにそびえたつ様子が見えた。
『あそこが、我らの巣です。女衆もいますので、どうぞご注意ください』
そういえば。どうしてこのサンドワームは敬語なんだろう?そんなことをぼんやり考えているうちに、岩に着いた。
大きな岩はサンドワームが入って行けるほどの巨大な入口があり、地中に続いていた。
『なんじゃ。妙な気配がしたと思えば、おぬし達か。なんの用だ?』
砂の中からのそりと頭をもたげたのは、王蟲ベンベルグだった。
それで、王冠を探しに来たことを説明する。
『ふむ。話はわかった。そこの大岩の入口から中へ入ると、地下洞窟へと通じておる。最下層に大広間があり、そこに王冠はある。ただし、大広間は女衆の領域じゃ。女衆に認められなければ、王冠は手に入らんぞ』
『王蟲ベンベルグの命令でも?』
『そうだ。………女衆のリーダー、ジェンナは気が強い。まぁ、そこがいいのだが………用心することだな』
ふ~む。これは、ジェンナの尻にひかれてるかな?
地下洞窟は、迷路のようになっていた。サニアとレオという案内役がいなければ迷っていたと思う。
暗い地中では、時間の感覚がなくなる。いったい何時間経ったのだろう?そう考えていたとき、足が柔らかい砂を踏んだ。どうやら、大広間に着いたらしい。
天井は、思ったほど高くない。せいぜい、建物2階分と言ったところ。ただ、ところどころに柱があり、天井を支えている。広さは………とにかく広いとしか言いようがない。向こう端が見えない。
『誰だ!』
誰何された。
薄暗い空間で、それはぬっと現れた。女衆は、オス達よりひと回り小さかった。けれど、体表を真っ赤にして威嚇してくる様子はオスにも負けない気迫がある。
『誰だと聞いている!』
『わたしはセシルです。ここにいるクロード、サニア、レオと一緒に王冠を取りに来ました』
『はっ!王冠は、我らにとっても宝。そう簡単に渡すわけにはいかない』
『数百年の長きに渡ってこの地を守ってきた王蟲サンドワームにとっても、王冠が大切なのはわかります。ですが、この先の未来のために、どうか渡してもらえないでしょうか』
その女衆は、ぶふうっと砂を吐き出して怒りを露わにした。
『笑わせる。たかだか数十年しか生きられぬ人間の分際で、我らの年月を語るとは!』
この気の強さ………たぶん、彼女が王蟲ベンベルグが言っていたジェンナだろう。
『あなたはジェンナさんですね。王蟲ベンベルグから、魅力的な方だと伺っています』
『ふんっ。おだててもなにも出ぬぞ』
そう言っているけれど、どこか嬉しそうだ。
そもそも。初めから話を聞く気がなければ、こんな風に相手をしてくれるはずがない。会話をしてくれるということは、わたし達の出かた次第では、王冠を渡してくれる気があるということだ。




