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214 オアシス

 中庭に面した向かいの部屋に飛び込み、窓から中庭を覗き込むと、暗闇の中大暴れするサニアとレオの姿があった。また地中から取り出したのか、レオは大きな剣を振り回している。

 わたしは窓から身を乗り出し、窓枠に掴まるとひょいっとジャンプして屋根に上がった。フィーとエステルもわたしの真似をしてついて来る。

 騎士に見つかっていないいまなら、追手もなく、このまま屋根伝いに逃げられると思う。だけど、サニアとレオは?ふたりは空を飛べない。追手に体力を削られながら逃げるのは可哀そうだ。

 それに。ここまで堂々と攻めて来たと言うことは、王妃側も切羽詰まっているということ。なにを仕掛けてくるかわからない。だから、捕まるわけにはいかない。サニアとレオも、捕らえさせるわけにはいかない。


「エステルはフェンリルになって、サニアとレオを乗せたら砂漠へ!フィーはツァラの姿になったらわたしを乗せてできるだけ高く飛んで、そのまま砂漠へ!」

「「はい!」」

 変身するふたりに身体強化の魔法をかけた。これで、いつも以上の力が出せる。

 わたしがフィーに乗ると、フィーはぐんぐんと旋回しながら空高く昇って行った。視界の端で、エステルが中庭で大暴れしているサニアとレオのところへ行く姿も確認できた。

 地上から目視できない高さまできたとき、ようやくフィーは砂漠を目指して飛び始めた。


 空はいまだ暗く、夜中なのだとわかる。

 地上は、マーレ公爵屋敷を囲むいくつもの松明が揺らめき明るく見える。それが、一瞬にして冷気に包まれ灯りが消えた。たぶん、エステルの仕業だと思う。

 そしてここからは、暗闇の中をエステル達が逃げ出せたのか確認することはできなかった。


「セシル様」

 ふいに名前を呼ばれて見れば、隣にはクロードとユリアナ令嬢を小脇に抱えたシルヴァがいた。

「無事に脱出できたんだね。よかった」

「もちろんです。ところで、私の記憶では砂漠にオアシスがあったはずです。そこへ向かいましょう」

 砂漠は夜の間は冷えるけれど、日中は灼熱の暑さで肌をじりじりと焼いてしまう。って、わたしは日焼けしないけど。とにかく、あてもなく砂漠で過ごすのは危険なので、オアシスがあるのはありがたい。当然、オアシスに向かうことにした。


 途中で見かけた鳥に、とうさまやエステル達への連絡をお願いした。

 砂漠に着いたら、サンドワームに皆への道案内をお願いしようと思う。そうすれば、皆も広い砂漠で道に迷わずにすむから。

 

 オアシスは砂漠の中心から少し東側にずれたところにあった。

 初めての飛行ですっかり衰弱したクロードとユリアナ令嬢は、ひとしきり吐くと湖のほとりで横になった。うん。その気持ちわかるよ。

 オアシスから一歩出ると、すぐに生き物の動きを感知したサンドワームが現れた。王蟲ベンベルグと一緒にいたサンドワームの一匹だったらしく、わたしに気づくと丁寧に接してくれた。そして仲間を案内してほしいことを伝えると、心よく引き受けてくれた。ありがたい。

 あ、そっか!サンドワームに案内してもらうということは、サンドワームに乗れるんだよね?うわぁ、羨ましい!絶対、楽しいよ。いいなぁ。わたしも乗りたいなぁ。


「なにを、ぶつぶつおっしゃっているんですか」

「あ、シルヴァ。ねえ、わたしもサンドワームに乗りたいの」

「なるほど。では、あのベンベルグとかいう者を連れて参りましょう。セシル様がお乗りになるには、あのくらいでないと………」

「ええっ?それはだめだよ!ベンベルグはサンドワームの王なんだから、わたしが乗ったりしたら他のサンドワームに示しがつかないじゃない。それに、ベンベルグが了承するとは限らないし………」


『わしがなんじゃ?』

「ぎゃああああああっ!!!」

 突然、足元から声がしたかと思うと、蟻地獄のように砂が飲み込まれてゆき、巨大な口が現れた。

 シルヴァがわたしを抱えてジャンプしてくれたおかげで蟻地獄には飲み込まれなかったし、口にも落ちなかった。でも、これは心臓によくない。

『王蟲ベンベルグ!脅かさないでくださいよ』

 とりあえず、文句を言っておく。


 そのとき、わたしの悲鳴を聞きつけたクロードとユリアナ令嬢がオアシスの奥から現れた。

「きゃあああああっ!!!」

 ユリアナ令嬢の女性らしい悲鳴が辺りに響き渡る。

 うん。やっぱり、女性なら「ぎゃあ」じゃなくて「きゃあ」だよね。それでこそ、男も助けたくなるというものだよ。なんて、しみじみ思ったり。

 ベンベルグを見てすっかり腰を抜かしてしまったユリアナ令嬢を庇って、クロードが剣を構えている。


『なんじゃこの若造は』

『紹介します。彼がクロード。ア・ッカネン国の王になる男です』

『なるほど。根性が座っておるようだ。わしを見ても一歩も退かんところは気に入った。はっはっは!』

 ベンベルグが笑うと、空気がぶるぶると震えた。

「………笑って、いるのか?」

「あ、クロード。紹介するね。彼がサンドワームの王ベンベルグ」

「さすがセシル様。サンドワームの王とも親しくなられたんですね」

「うん。仲良くしてね」

「………どうやって………?」

 クロードは剣を鞘にしまいながら、困ったように顔をしかめた。



誤字報告ありがとうございます。

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