表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/282

211 砂漠の対決3

『うおおぉおおおお!!血の匂い!そして血肉の味!たまらない!たまらないぞ人間よ!!もっとよこせええええっ!!!』

 騎士の腕を骨ごとばりばりと食べたサンドワームが、興奮して吠えた。騎士の剣ごと食べているので、口の中が血まみれだ。「がははっ」と笑って、剣を口から吐き出した。

「くそうっ。隊長、俺が囮になってあいつを引き付けます。逃げてください!」

 負傷した騎士が立ち上がり、左手でサブの剣を握った。 

「そうだ!おまえ、笛を吹いて貧民街へ誘導するんだ。いまなら、サンドワームがついてくるだろう」

「だめです隊長!馬が………すべて食われています」

「なにぃっ!?」


 騎士の血の匂いに感化された他のサンドワームが、すべての馬をバリバリと食べていた。悲痛な馬の断末魔と、砕かれる骨の音が響く。

 そして、歓喜の咆哮が響く。

 退路を絶たれて、負傷者もいて、騎士達がとれる手段は少ない。

 それでも、生きようと思えば………彼らが生き残りたいと願うなら、助けることはできる。なぜなら、わたしはサンドワームの王と会話ができるから。ベンベルグは、話のわからない相手じゃない。頼めば助けてくれるだろう。

 騎士達は、自分達の命と任務、どちらを選ぶんだろう?


 ぼふんっ!


 空から、黒い塊が降って来た。

 もうもうと舞い上がる砂煙が落ち着くと、そこにいたのはシルヴァだった。

「くふふっ。セシル様、ずいぶん楽しそうな状況になっていますね」

「ちっとも楽しくないよ!フィーはどうしたの?会えなかった?来れないって?」

「フィーなら間もなく来ます。セシル様が心配で、私は先に戻って来たのです。………ほら、そこに」

 言われて見ると、猛スピードでこちらへ向かって飛んで来る鳥がいる。でも………おかしい。フィーはわたしの肩に乗るくらいのサイズで、あんなに大きくは………決してない!!


 ばふんっ


 その大きな鳥は一直線にこちらへ飛んでくると、勢いよく砂の上に着地した。


「「「「「ぎゃああああああっ!!!」」」」」

 

 レオよりもさらに頭ひとつ分大きい鳥が現れて、騎士達は絶叫した。

 なぜ、サンドワームが現れても絶叫しなかった騎士達が叫んだかと言うと、巨大な鳥の顔が人面だったから。もっと言うと、フィーだった。

 あの可愛かったフィーが、こんなに大きくなるなんて信じられないよ。

「セシル、呼んでくれてありがとう!………むっ。こいつら、血の匂いがする。魔物のくせに、魔素を吸収するだけじゃ足りないの?」

 フィーは空気中の魔素を吸収するだけで生きていけるからね。


『あなたは………ツァラではないか?』

 王蟲ベンベルグがぽつりと呟いた。

 赤く染まっていた体表が、茶色へと変わっていく。

『え、ベンベルグ様、ツァラって………神様?』

『あのツァラなのか?』

『初めて見た!神様って、人間の顔をしてるのか!』

 他のサンドワームも体表が茶色になり、一様に落ち着きを取り戻したように見える。



『うん。僕はツァラだよ』

 

『『『『『おおおおおおおおっ!!』』』』』


 フィーがサンドワーム達に返事をすると、大歓声が起きた。

 呆然としている騎士の皆さんにも、フィーがツァラであることを説明した。まぁ、わざわざ説明しなくても、国旗やらなんやらに描かれている国鳥を知らないなんてことないと思うから、フィーを見てすぐツァラだと気づいたはずだけどね。

「国鳥ツァラ様が、我らをお救いに現れてくださったぞ!」

「これで、我がア・ッカネン国は安泰だ!」

「アーカート王万歳!王妃様万歳!」

 そんなことを言い出すものだから、フィーはむっとして可愛い顔をさも嫌そうに歪めた。

「馬鹿なこと言わないで。僕はア・ッカネン国なんてどうでもいい。ア・ッカネン国の象徴になんてなるつもりないからね!」  


「「「「「ええええええっ!!」」」」」


「そ、そんな!窮地に陥った我らを救いに現れてくださったのではないのか!?」

 いやいや、そんな都合よく国鳥が現れないでしょ。

 そもそも、騎士達の任務はサンドワームを集めて貧民街を襲わせることでしょう?そんな非道なことを行う者を助けるために、ツァラが来るわけないでしょ。

 愕然とする騎士達を無視して、フィーが体を小さくしていつものサイズになった。顔も鳥のものに変えている。そしてパタパタと飛んできて、わたしの肩に止まった。

「フィー、来てくれてありがとう。おかげで助かったよ」

「セシルのためなら、どこへだって行くよ」

「ありがとう」

 フィーの頭を撫でると、フィーは目を細めて嬉しそうに尾羽を振った。


「どういうことだ?ツァラ様があんな………あんなに懐いているとは。あの少女は何者だ?ただの指名手配犯じゃないのか?」

「俺は、貧民街の連中を手懐けて王様の暗殺を図っていると聞いたぞ」

「悪魔シルヴァに、伝説のレオポルト・リシャール騎士団長まで………なぜあんな少女のために動くんだ?」

「それにしても、美しい!天使のごとき美しさだ!」


 なにそれ。好き勝手なこと言ってくれるじゃない。最後のは、ちょっと嬉しいけど………。わたし指名手配犯だったの?なんの罪で??





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ