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21 憧れのドラゴン4

 待つこと数分。

 屋敷の中の一室に通された。豪華な調度品に、香りのいい紅茶と甘いお菓子が用意され、座り心地の良い椅子はわたしには高く、落ち着かない足が揺れている。


「なんだか落ち着かねえな」

「追い返されるのも覚悟してたから、ビックリだぜ」

「あら。このクッキー美味しいわ」


 うん。わかる。わたしも落ち着かない。

 その時、「伯爵様がお出でです」と声がかけられ、音もなく扉が開いた。よく手入れされている証拠だ。

 デトラー伯爵を迎えるために、すっと立ち上がるわたし達。

「…お会いできて光栄です」

「あー、良い良い。そんな心のこもっていない挨拶をせんでもよい。それより、ドラゴンの話を聞きたいのであろう?」

 あ、あまりに素っ気ないとうさまの態度を見抜かれてる。それでも怒らないあたり、心の広い伯爵様なのかな。


 座るよう身振りで促されて、 再び椅子に腰かけるわたし達。


「私はジョン・デトラー伯爵だ」

「俺はニキ。この者達と一緒に王都から来たハンターです。ドラゴン討伐に来ましたが、村ではドラゴン討伐に関する詳細な情報を得られませんでしたので、こうして伯爵様の元へ参りました。どうか、情報をいただけないでしょうか」

 ふむふむ。目上の相手とあって、とうさまも敬語を使っている。

「うむ。村人達も困っておるだろうに、なぜ協力せんのだろうな?………よし、なんでも聞くがよい。答えてやるぞ」

「ありがとうございます」


 デトラー伯爵が話してくれたところによると、ドラゴンはレッドドラゴン。赤い鱗で、ドラゴンの中でも気性が荒い種類らしい。火を吐き、1人のハンターを丸焦げにしたそうだ。例の村には、10日ごとにやってきては家畜を攫い、近くの山へ去って行く。険しい山で、追いかけた者もいたが、途中で命からがら帰って来たそうだ。

 領地軍が出ないのは、あまり大勢で待ち構えているとドラゴンが現れないためで、決して逃げているわけではないこと。人間相手の訓練しかしてこなかった領地軍には、少数でドラゴンの相手をするのが厳しいこと。少しでも討伐の参考にするため、偵察隊をハンターにつけていることを説明された。


「…そして、次にドラゴンが来るのが明日だ」

「わかりました。お任せください」

 とうさまがそう言って、領主の館を後にした。

 これから村に戻って討伐に備えるには、ちょうどいいタイミングだった。何日もただ待つのは、退屈だものね。


 それにしても。デトラー伯爵は情報はくれても、援軍は出してくれなかった。それはそれでかまわないけれど、偵察隊は出すとのこと。目撃者は少ない方がいいのに。


 村の宿屋へ行くと、食堂にいた村人達に驚かれた。

「あ、あんた達、帰ったんじゃなかったのか?」

「当然だ。明日、ドラゴンが来るんだろう?きっちり討伐するから安心してくれ」

 あれ、バッツにも討伐じゃなくて、捕獲だって話したのに。忘れたのかな。

「バッツ………」

「やめておけ」

 話かけようとして、とうさまに止められた。


「だから、おまえ達じゃドラゴン討伐なんか無理だって。もっと大人数のハンターでもやられてるんだぞ」

 あ、そっか。討伐でさえ無理だと思われているのに、捕獲すると言ったら笑い飛ばされるだけよね。

「そうか。領主様のところへ話を聞きに行ったんだな!」

 お、鋭い。そうだよ。他に、情報をくれる人はいないからね。

「くそっ。領主様は、金と口だけ出せばいいと思ってるんだよ」

「ハンターが死んでも、依頼失敗で、大して懐が痛むわけじゃないからな」

 ふうん。少しはハンターのことを知ってる人もいるんだ。

「俺たちみたいに、傷ついたハンターの手当するわけじゃないからな。ハンターが死んでも、どうでもいいと思ってるんだろ」

 優しいんだね。


 ドラゴンは火を噴く。丸焦げになった死体なんて、見たくないよね。特に10歳の子供の死体は。


 村人達の心配をありがたく受け止め、それでも討伐に行くことに代わりがないことを告げ、外野が騒がしい中で食事をとった。

 翌朝は簡単に済ませ、村人が普段、家畜を放牧させている広場へ向かった。森に近く、小高い丘になっている。丘の向こうに、2人の偵察兵が見える。今は家畜は家畜小屋に入れられ、広場にはわたし達しかいない。


 ぽつぽつ


「あ、雨だね」

 相手はレッドドラゴン。火の属性だから、氷属性に弱い。水があれば氷魔法が使いやすくなるから、勝てる確率が上がる。


「ガオオォォーー!」


 遠くの山からドラゴンの吠える声が聞こえ、それは姿を表した。燃えるような赤い鱗が雨を弾き、鋭い爪と牙がキラリと光る。近づくにつれ、力強く羽ばたく翼からの風圧が体にかかる。若い個体と聞いていたけれど、その体躯は十分大きい。一言でいうなら、迫力がある。地面に降りると、鼻息も荒くわたし達を睨みつけた。近くで見ると、その大きさに圧倒されそうになる。

 わたし達は、後衛のドーザーとグウェインを後ろに配置し、残りは前衛として前に立っていた。


 レッドドラゴンはわたし達を見回し、一瞬、わたしのところで視線を止めた。なにか、動揺しているように見えるけれど、気のせいよね。わたし、初めてドラゴンに会うもの。

セシルの母、レナの若い頃の話を書くことにしました。

「セレスティナ~黄昏の旅人~」

よかったら、そちらも読んでください。

まだ若いニキも出てきます。


ただし、「魔物使いと魔法剣士」をメインに書くので、「セレスティナ」はゆっくり書いていきます。

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