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206 マーレ公爵屋敷3

「サンドワームを従えることができたら、認めてやる」

 また、無茶を言うなぁ。

「サンドワームを操る笛があるのを知っているか?あれを手に入れるか、なければ作ればいい。簡単だ」

 こともなげに言い放つサニア。サンドワームを操る笛なんて、おとぎ話に出て来る代物だよ。そんな簡単に手に入るわけがないし、まして作るなんて………。

「ちょっと待って欲しい。あれは、国宝だ。王宮の宝物庫に厳重にしまわれ、我々には目にすることもできない」

 あ、笛はあるんだね。でも、マーレ公爵の言う通りなら、盗み出すのは簡単じゃないよね。


「それなら、サニアの言う通り作ればいいよ。作り方は教えてあげよう。簡単だ」

「「「えっ………」」」

「コトクの木はあるよね。あれを素材に使うんだ。ちゃんと芯を使ってね。穴は全部で12個。笛の形は縦長。まぁ、形になってればいいんじゃないかな。人によって音色は様々だったけど、サンドワームは従ってくれるよ」

 簡単にサンドワームが従うというレオの言葉に、わたしは不思議そうな表情を浮かべて頭を傾けた。

「俺達の時代では、平民も笛を持っていて、サンドワームを移動の足として使っていた。力のある商人は自分達でサンドワームを飼い、馬やラクダの代わりにしていたんだ。笛の作り方は秘密でもなんでもなく、親から子へ伝えられる知識のひとつだった。それがいまは、廃れてしまったんだな」

 サニアが残念そうに言った。


「コトクの木は貴重ですが、すぐに手配いたしましょう」

 なるほど。コトクの木は貴重なんだね。育てにくいのかな?昔は簡単に手に入った物が、いまは手に入りにくくなっているということは、もしかすると、昔はそれぞれの家庭で育てて使っていたのかもしれない。たとえば、子供が生まれた時に苗木を植えて、子供が大きくなったら笛を作るとか。それなら、平民でも簡単に笛が作れたよね。


 ところで。サニアやレオが言うように笛が簡単に作れるなら、試練にならないんじゃ?

 そのとき、フィーがニコニコしながら言った。

「もし作った笛が役に立たなくても、僕ならサンドワームに言うことを聞かせられると思うよ。だから、安心してね!クロード」

 うん。ますます、クロードの試練という気がしなくなってきた。

 それに、サンドワームを操ることができれば、クロードは王妃側に対して大きな力を得ることになる。


 ア・ッカネン国の砂漠は広い。そこに砂漠の王者サンドワームが住んでいるせいで、人々は砂漠を迂回して移動しなければならず、砂漠周辺の町や村との行き来には莫大な労力がかかっている。それが、サンドワームという脅威を味方につけて、さらに移動手段として利用できるようになれば、どれほど生活が楽になるかわからない。おまけに、戦力としても申し分ない。

「ところで。王妃も王都跡へ向かったはずだぞ。会わなかったか?」

 フィーが伝えてくれた情報だもんね。レイヴだって知ってるよね。

「遠目には見かけたけど、ずいぶん離れていたし、シルヴァが認識阻害の魔法をかけてくれたから王妃側には気づかれなかったと思うよ」

「そうか。可愛いセシルの姿が、王妃なんかに見られなくて良かったよ」

 えっ!可愛い??なんで、いきなりそんなこと言うの?


 びっくりしたのと、恥ずかしいのとで、顔が熱を持つのがわかった。

 思わずうつむいて、自分を落ち着けるために長く息を吐いた。そのあとは、ゆっくり息を吸う。いわゆる深呼吸とは姿勢が違うけれど、こうしてゆっくり呼吸をしていると落ち着いてきた。

 だから、顔を下げる直前、ちらりと見えたとうさまとシルヴァの顔が強張っていたのは、きっと気のせい。

 

 そして、サニアとレオに改めてマーレ公爵やとうさま達を紹介した。紹介するタイミングを逃していたんだよね。

 サニアとレオは、レイヴがレットドラゴンであること、エステルがフェンリルであることに興味を持った様子だった。

 元々、人間だったサニアとレオにとって、生まれながらの魔物であるレイヴと、同じく生まれながらに精霊であるエステルは興味が湧くのかもしれなかった。

 

 そもそも。どうしてサニアとレオだけスケルトンとして生まれ変わったのかな?この世に未練があったとか?でも、それを言うなら、黒焔に飲まれた人々だって、死を前にして未練を抱かなかったはずがないんだよ。もしかしたら、自分が死んだことすらわからないまま亡くなった人もいたかもしれない。厄歳の中心、シルヴァの傍にいたせいなのかな?だけど、あの場にはラドバウト王やカリクステ王兄だっていたのに、ふたりはスケルトンにはならなかった。

 サニアとレオと、それ以外の人と、なにが違うの?

 黒焔は王宮を中心に広がったはず。だっていくらシルヴァだって、あの広い王都全体を同時に黒焔で包むのは難しいと思うから。そして、王宮から離れた場所にいた人は異変に気づいたはず。それでも逃げることができるに、愛する人の元に駆け付けることもできずに、黒焔に包まれたら一瞬で骨も残さず消えてしまったんじゃないかな。無念だったよね。悔しかったよね。怖かったよね。悲しかったよね。

 それでもサニアとレオのようにスケルトンにならなかったのは、あの世に行くことを望んだからかな?

 それじゃあ、サニアとレオはどうしてスケルトンになったんだろう………?



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