200 王都へ向けて
「しかし、幻影魔法とは便利なものですね。皆様、別人にしか見えません」
「本当にびっくりしました!」
そう言っているうちに、青白かったレギーとロイの顔色が興奮からか、元に戻って来た。よかった。
じつは、このレジスタンス村にいてもすることがないし、わたし達がいれば注目を集めてしまうだろうから、とうさまのところへ戻ろうと思っていたの。つまり、クロード達が滞在しているマーレ公爵の屋敷へ行こうと思っていたの。レギーとロイの具合が悪いなら、置いていくことも考えなきゃいけなかったから、一緒に行けそうでほっとした。
皆にマーレ公爵の屋敷へ行くことを説明すると、特に反対もなく行くことが決定した。
「私は、セシル様の向かうところでしたら、どこまででもついて参ります」
ふんふん。シルヴァが反対するわけないよね。
「今度は歩いて行くんだろ?空を飛んでいるところを見つかったら面倒だもんな。色々と話す時間があるな」
「レオ、あまりしゃべり過ぎるなよ。相手はシルヴァなんだぞ」
レオポルト・リシャールがうきうきしているところを、サニー・アローズがぴしゃりと釘を刺した。
「サニー・アローズは、レオポルト・リシャールをレオと呼ぶんですね。わたしも、レオと呼んでいいですか?」
いちいち、レオポルト・リシャールと呼ぶには面倒だもんね。
「いいよ。兄弟のことは、サニアと呼んで」
レオはそう軽い調子で請け合った。
だけど。サニアかぁ。まるで女性みたいな愛称だね。それに、実際には兄弟ではないのに、ふたりはお互いを「兄弟」と呼ぶ。それが不思議だよ。長い年月、一緒に過ごすうちに、それだけ親しくなったっていうことかな?
「歩きながら話しましょう」
シルヴァがそう言って、わたしの手をとって歩き出した。どこへ?もちろん、王都へ。
外見を変えたので、王都を出てきたときとは違って、堂々と城門から入って行ける。だから、貧民街にある隠し通路ではなく、街道を通って王都の城門へ向かうの。
レジスタンス村は王都に近いけれど、街道からは外れている。まっすぐ王都へ向かうのではなく、まずは街道に向かって歩いた。旅人を装うために、カモフラージュのための荷袋を全員で背負った。いくら現地民に見えると言っても、手ぶらでいたら間違いなく怪しいもんね。怪しまれないように、できる工夫はしなくちゃ。
歩きながら、わたしはサニアとレオに改めて自己紹介した。きちんと説明しないと、信用してもえないかもしれないからね。
「わたしの名前はセシル。育ての父はニキ、本名リアム・エ・ルヴァスティ。母はレナ、元セレスティナ・レ・スタットです」
「ちょっと待て!なんだいまのは!?聞きたいことが大ありだぞ!」
サニアがわたしの肩を掴み、シルヴァに睨まれてすぐに手を離した。
どこかおかしかったかな?まだ、名前しか名乗ってないと思うんだけれど。
「おまえ、エ・ルヴァスティ国とレ・スタット国の王族なのか?」
「そうですけど………そのことは秘密にしてくださいね。命を狙われるので」
「どういうことだ?秘密にするから、言ってみろ」
「えっと、そうですね………まず、エ・ルヴァスティ国は、いまはありません。レ・スタット国に攻められて、いまは併合されてエ・ルヴァスティ領になっています。そして、わたしの実の父であるジークことジェイミー・オルランディ伯爵が領主として治めています」
その説明を聞いて、サニアとレオはうろたえた。わけがわからないという顔をしている。そっか。ちょっと、説明が足りなかったね。
わたしはまず、エ・ルヴァスティ領に関わることから説明を始めることにした。時間はたっぷりあるから、時間の心配はない。
ニキとジークが先代レ・スタット国王の側室の子として生まれ、レ・スタット国との戦争を期にル・スウェル国へ逃れたあと、わたしの母となるレナと出会ったことを話した。レナは先代のレ・スタット女王で、現国王チャールズ・レ・スタットに命を狙われていて、わたしを出産するときに難産のため亡くなった。わたしは、死産と偽ることでチャールズ国王の魔の手から逃れられている。ジークはわたしから距離を置くことでわたしを守ろうとし、生まれ故郷の民を守るためチャールズ国王からオルランディ伯爵の爵位とエ・ルヴァスティ領の領主という地位を頂き、チャールズに仕えている。ニキはオ・フェリス国でわたしを育てながら、生きていくための訓練を施してくれた。3人の親に対して、わたしは感謝しかない。
ちなみに、母レナはレ・スタット女王であったときに死に至る呪いを受けて、退位後は急激に死に向かっていた。その呪いを解くために、すべての記憶を失い、肉体が生まれ変わったのだ。だからわたしは、セレスティナ・レ・スタットは一度死に、レナとして生まれ変わったのだと思っている。
「チャールズ国王のやり方がよくないので、レ・スタットの国民は善政を敷いたセレスティナ・レ・スタット元女王の復権を望んでいるらしいです。それに、チャールズ国王にはいまだ子供がいないので、わたしが第一位の王位継承者になってしまうんです。わたしが生きていると知れたら、殺そうとする者と、利用しようとする者が大勢湧いて出るでしょうね」
「なるほど。セシルが身分を隠したい理由がよくわかった」
「いまも昔も、王家はドロドロだな」
サニアとレオは、深々とため息をついた。




