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2 はじまりの島2

 このメリス島に来てから、わたしは人前で泳いでいない。じつは夜の海で泳いでいるのだけど。そんなことを知らないジグ達は、大陸から来たわたしが泳げないと思っている。しかもガーラムと一緒に泳ぐことなんて、地元の人でもやらない危険なことだ。なにしろ、臆病で警戒心の高いガーラムだもの。襲い掛かられてはたまらない。

 この桟橋は浅瀬にあるけれど、ガーラムが泳げるくらいには深くなっている。あ、それって浅瀬って言わないか。

 とにかく、わたしがガーラムに怯えてジグ達に「やめて」と懇願するか、無理に海に飛び込んで溺れる姿を見て楽しもうと考えているのか…どちらにしても趣味が悪いな。


「…はぁ。ガーラムと泳ぐからいいよ。見てて」

 わたしはサンダルを脱ぐと、ひょいと海に飛び込んだ。


 ぱしゃん


「え?」

 軽い水音を立てて海に入り、2頭のガーラムのうち頭が傷だらけの1頭に近づいた。

 このガーラムはウルンサ。ガーラムにしては気性が荒く、よく暴れて鞭で打たれるせいで傷だらけになっている。ガーラム使いの言うことを、あまり聞かない問題児だ。

「…おい。危ないぞ」

 誰かが、慌てた様子で声をかけてきたけれど、無視。

 ウルンサは、じっとして動かない。わたしの動きを目で追っているだけ。代わりに、ウルンサの妻エレクが、ゆったりとした動きでこちらに向かってくる。そして、大きな口をがばっと開けた。鋭い牙がよく見える。


「「「ぎゃあ~~~~!!」」」


 振り返ると、ジグ達が悲鳴を上げて駆けだしていた。ガーラム便の管理小屋を目指している。うん。ガーラム便の運転手兼飼育係がいるからね。

 わたしはエレクの歯に挟まった魚片を取ってやってから、ウルンサを撫でて、桟橋に戻った。エレクは歯並びが不揃いで、よく魚が挟まるんだよね。エレクは嬉しそうに一声啼いた。ウルンサはわたしのことなどおかまいなしで、悠々と泳いでいる。


 桟橋に戻ったあと、魔法で服と髪、体を乾かした。よし、これで、わたしが海に入ったことは、ジグ達以外には気づかれないはず。

「何なんだよお前ら!ガーラムは騒ぐのが嫌いなんだよ。静かにしろ!」

 あ、オッサムさんだ。ガーラム便の運転手兼飼育係。ジグ達3人がかりで手を引いて、こちらに連れて来られている。いかつい顔に、薄くなった頭皮。いつもお酒に匂いがするし、態度が悪いからガーラム達に嫌われている。でも、他の島民はガーラムを怖がって世話をしたがらないから、代わりがいない。


 ジグ達はこちらに背を向けているから、まだわたしに気が付いていない。

 その他の島民も、今は仕事に忙しい。漁船がある港はここから離れているし、さっきのできごとを目撃したのはジグ達だけだ。

「早く来て!」

「ガーラムが、セシルの奴を食ったんだ!」

「すげえ口開けて、一飲みでさあ!」

 ジグ達が大騒ぎしているため、オッサムさんの表情がどんどん険しくなっていく。本当に、ガーラム達は騒ぎを嫌うからだ。本気で暴れでもされたら、オッサムさんでは抑えきれない。もしガーラムが大けがをして使えなくなれば、その責任を取らされるのはオッサムさんだ。不機嫌になるのもしかたない。そして、わたしを見て立ち止まる。


 わたしもオッサムさんは嫌いだけど、礼儀として挨拶はする。

「こんにちは、オッサムさん」

「「「え?」」」

 ジグ達が振り向き、きょとんとした顔でわたしを見つめてくる。

「ふざけんな!なにが、セシルがガーラムに食われただ!大人をからかうのもいい加減にしろ!」

 怒り爆発のオッサムさんは、無事なわたしを見て怒りの声をあげた。最初から怒っていたけど、それでも、自分の管理責任を問われるんじゃないかと気にしていたんだろうね。それが子供たちのいたずらとあっては、許せない気持ちの方が強かった。そういうことだ。


「だってこいつ、たしかに海に入って…」

「そうだよ。ガーラムが口を開けるところを見たんだ」

「嘘じゃないよ!」

ジグ達は必死だ。なにしろ、こんな小さな島では、たかが水上タクシーの運転手とはいえ、生活に欠かせないガーラムの世話をするオッサムさんは一目置かれている。島長に次くらいに。そのオッサムさんを怒らせては、しばらくガーラム便に乗せて貰えないかもしれない。それは、刺激を求める子供たちには死活問題に等しい。


「おい、お前!なにをやったんだ。正直に言え!」

「え。なにも?ジグこそ、オッサムさんに正直に言って謝ったら?早くしないと、益々怒らせるだけだよ。それに、これだけ騒いだら、ガーラム達もイライラしているんじゃないかな。しばらく、ガーラム便は使えないかもしれないよ」

 それでも、ウルンサとエレクが使えないだけで、他の島からの定期便は使える。そう。他の島が、メリス島からの定期便が来ないことを不審に思うくらい…。

「なんだとー!」

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