199 レジスタンス村
「プロフェさん、ゴドさんはどこに?」
「あぁ、息子なら、貧民街の見回りに出掛けております。そうですな、夕方には戻るでしょうか」
「そっか。ゴドさんにも、ふたりを紹介したかったんだけれど、いないなら仕方ないね。あ、プロフェさん立ってください」
いまだサニー・アローズとレオポルト・リシャールに平伏しているプロフェさんに、声をかけて立ってもらった。
「それにしても。お二方がいる以上、このままこちらにお世話になることはできません。人目につき過ぎます。すぐにでも、ニキ達と合流すべきでしょう」
「さっきみたいに、認識阻害の魔法をかけるの?」
「そうですね。外見を変える魔法を使うのもいいかもしれません」
外見を変える!?なにそれ、おもしろそう!
「くふふっ。興味がおありですか?魔法で姿形を変えてしまう方法と、幻影を重ねて、見る者に別人に思わせるという方法があります。実際に変えてしまうと元に戻すには技術が必要ですし、今は幻影で十分でしょう。たとえば………瞳や髪の色を変えるだけでも印象は変わりますよ。こんなふうに」
そう言ってシルヴァがパチンと指を鳴らすと、黒髪に黒い瞳だったシルヴァが、地味な茶色の髪に茶色の瞳に変わった。イケメンなことに変わりはないけれど、前より柔和な雰囲気がある。
「ついでに、服装も変えましょうか」
シルヴァの服が、執事のような服装からア・ッカネン国の庶民的なシャツとズボンに変わった。
悪魔にとって衣服は体の一部のようなもの。自在に変えることができるの。便利だよね。
ただし、髪や目の色、服を変えたくらいではシルヴァの人目を引く容姿は陰らない。相変わらず、憎いくらいのイケメンだ。
「まだ、不満そうですね。それでは、これではどうですか?」
そう言うと、シルヴァの美しい顔が平凡な顔に変わった。
「えっ。どうやったの?幻影なの?」
「そうですよ。セシル様にも幻影魔法をかけました。御覧ください」
確実に、ポケットに入るサイズではない。シルヴァはどこからか姿見を取り出すと、わたしの前に静かに置いた。
姿見を覗き込むと、そこにはア・ッカネン国らしい黒髪黒い瞳に、よく日焼けした小麦色の肌の少女が立っていた。わたしの肌は、どれほど日差しにさらされても日焼けをしたことがない。初めて見る色だった。すごく新鮮!
わたしの背後にはでこぼこコンビがいて、わたしと同じように鏡を覗き込んでいた。背が高く、がっしりした体つきに精悍な顔つきの30歳くらいの男性と、その男性に比べてやや小柄ながらも、鍛えられた体に驚いた表情が可愛らしい青年だ。ふたりとも、魅力的な体をしている。どうしてそんなことがわかるかと言うと、ふたりとも裸なのだ。
慌てて両手で目を覆うのと、シルヴァが姿見をしまうのと同時だった。
「セシル様、お見苦しいものをお見せしてもうしわけありません」
シルヴァの申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
「なんでだよ!こんないい男、なかなかいないぞ!」
「いや、兄弟。相手はまだ子供だぞ。わきまえろよ」
なるほど。声からすると、さっき見た裸の男ふたりは、サニー・アローズとレオポルト・リシャールに違いない。
考えてみれば、サニー・アローズとレオポルト・リシャールは裸なんだよね。スケルトンだし。何百年も地中で眠っていたんだから、服なんて土に還っちゃってるよね。
「おまえ達は、むこうを向いていてください」
「なんでだよ~!」
「いいから、後ろ向けって!」
シルヴァと、ぶつぶつ言うレオポルト・リシャールの声が聞こえてきた。サニー・アローズは素直に後ろを向いてくれたみたいだよ。
「セシル様、もう大丈夫ですよ。私を見てください」
「ほんとうに?」
恐る恐る目を開けると、そこには平凡な顔立ちながら、見ているとドキドキしてくる長身の男性がいた。両手でわたしの顔を挟み、よそ見をしないようにがっしり掴まえている。
「あのふたりに合う服は持っていらっしゃいますか?」
「うん。ちょっと待ってね」
マジックバックには、色んな状況に備えて多くの物が詰め込まれている。
シルヴァがわたしの顔をがっちり掴んでいるので、顔を動かすことができず、手探りで服を探した。おかげで、服を見つけるのに時間がかかってしまった。
ア・ッカネン国の衣服はゆったりしていて、多少、体のサイズが違っても紐で調節できるようになっている。おかげで、大柄なレオポルト・リシャールも服を着ることができた。
サニー・アローズとレオポルト・リシャールが服を着たあと、安心してサンダルを手渡した。
準備ができたところで、プロフェさんにお別れを言って家を出た。
それにしても、シルヴァの幻影魔法ってどうなってるんだろう?サニー・アローズも、レオポルト・リシャールも、本当はスケルトンなのに、まるで本物の肉体を持った人間のように見える。骸骨が服を着ているのとは違うの。不思議だわ。
「セシル様、お話は終わったんですか?」
「これから、どうされますか?」
青白い顔をしたレギーとロイが話しかけてきた。
まだ具合が悪いらしく、俯き加減だ。ふと顔を上げて、わたし達の顔を見たとたん固まった。
「「誰だ!?」」
「あ、ごめんね。わたしだよ、セシル。こっちがシルヴァで、向こうがサニー・アローズとレオポルト・リシャール。シルヴァが幻影魔法をかけてくれたの」
「なるほど………たしかに、お声はセシル様のものですね。服装も、先ほどと同じです」
そう。わたしは外見を変えただけで、服は着替えていない。なぜなら、町娘の服を他に持っていないから。
 




